これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

くわばらくわばら

2011年07月31日 17時25分39秒 | エッセイ
 娘を連れて、湯島天満宮まで出かけた。
 ここは、学問の神様、菅原道真公を祀った神社だから、受験生がたくさんやってくる。かくいう娘も、高校受験を控えている。実力がない分、神様に頼らなければならない。
「菅原道真って、学問の神様だったっけ?」
 娘が、腑に落ちない顔で聞いてくる。
「そうだよ。知らないの?」
「だって、社会の先生が、怨霊になったって言ったよ」
 そうそう、最初は怨霊だったのだ。政敵に左遷され、京を追われた道真公は、遠く離れた大宰府で果てる。しかし、その後、京では政敵をはじめ、病での死人が相次ぐ。さらには、平安京の殿舎が落雷の被害を受け、大惨事となったことから、道真公の祟りであると恐れられるようになった。
 以来、道真公イコール雷神の扱いを受け、祟りを鎮めるための天神信仰が、全国に広まったらしい。
「そうか、それで湯島天神ともいうんだね」
 娘は、ようやく納得したようだ。私は余計なことを付け加える。
「雷が鳴ったら、『くわばらくわばら』って唱えるんだよ」
「何それ」
「菅原道真の故郷は、桑原ってところだったんだって。怨霊になっても、桑原にだけは雷を落とさなかったから、雷よけのおまじないなんだよ」
「初めて聞いた」
 おしゃべりをしていたら、到着したようだ。立派な鳥居が目に入る。



 まずはお手水だ。手を洗ってたら、近くに牛が2頭いるのに気づいた。





 あとから知ったことだが、これは「撫で牛」といわれ、牛と縁の深かった道真公ならではのものらしい。鼻が悪いからといって鼻を撫で、足が悪いから足を撫でるなど、信仰の対象となっているという。私は最近、右腕が冷えて重いので、右の前足を撫でてくればよかった……。
 本殿には、修学旅行生が何人かいた。さすがに、参拝する年齢層が若い。



 絵馬には「早稲田大学」「開成高校」などの文字が見え、相当な数が下げられている。受験シーズンを迎えた日には、とてつもない量にのぼることだろう。
 お参りしたあとは、言うまでもなくおみくじを引く。凶に縁のある私でも「小吉」だったから、「凶」は入れてないのかもしれない。娘は「吉」で、「学業 少しなりとも毎日なせば吉」とあった。なかなかいいことを書いてくれる。
 お守りや御札なども、たくさん販売されていた。
 娘に買ってやったのは、ボールペンとシャープペンのセットと、学業守りと御札のセットである。



 そして私が買ったものは……。



「何で、ここまで来て、あぶらとり紙なのよ~!」
 娘の呆れた声がした。

 このところ、不安定な天気が続いている。その夜も、ときおり雨が降っていた。
 やがて、遠くからゴロゴロゴロと、雷の音まで聞こえてくる。
「お母さん、雷だよ!」
「パソコン消して。コンセントも抜いて」
「あっ、今、録画中だよ~」
 不運なことに、買ったばかりのDVDレコーダーは作動中である。これではコンセントが抜けないではないか。万一、落雷したら、目も当てられないことになる。ミキは、おぼえたばかりのおまじないを唱えはじめた。
「くわばらくわばら~」
 私も一緒に口にする。
「くわばらくわばら~」
 雷が、こちらに来ないことを祈るばかりだ。私は、これまでに3回、落雷で電化製品を壊されている。ボーナスの半額近くを投入したDVDレコーダーを死守せねばと焦った。
 祈りが通じたのか、間もなく雷の音が遠のいていった。
「ああ、よかった。アタシのあぶらとり紙が効いたのかしら」
「そんなもの、効くわけないでしょ。お札だよ!」
「いやいや、ボールペンかもしれないよ」
 何だかわからないが、ひとまず助かった。
 これも、湯島天満宮のご利益なのかもしれない。



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コメント (18)
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