その日、私は初めて高木という生徒に話しかけた。
「この前の課題なんだけど、この字が間違っていて、ここも変だから直しておいて」
「はい、わかりました」
高木は目立たないタイプの女の子だ。中肉中背で、とびぬけて成績がいいわけではなく、悪さをして注意されることもない、ごく普通の生徒である。だから、翌日の職員打ち合わせでは、言葉を失った。
「昨日の放課後、1年の高木さんが自転車で下校途中、車にはねられました。緊急手術をしましたが、危険な状態が続いています」
校長の説明に、どこかで納得していない自分がいる。昨日、話をしたときは元気だったのだ。呼吸が苦しくなり、「嘘でしょう??」と叫びたくなった。
しかし、悲しいことに、生徒や教員が大けがをしたり、亡くなったりすることはままある。
1校目では、男子生徒がバイクの事故で亡くなった。16歳だった。
2校目でも、男子生徒がビルの屋上から転落して亡くなった。こちらも事故で、17歳だった。
3校目では、副校長が病気で亡くなった。
実は、過去にも交通事故に遭った女子生徒がいたが、ひと月ほどで復帰できた。なんとか、高木も無事に戻れればいいのだが。
教員以上に、生徒の想いは強い。同じクラス、同じ学年の生徒たちが、協力し合って千羽鶴を折っているらしい。隣の席の先生が、授業から戻ったときに教えてくれた。
「でもね、授業中に折っているのよ。やめろとも言いづらいし、困ったわ」
……このあたりが、うちの生徒の弱いところだ。
神様が呆れて、祈りを聞いてくれなかったらどうするのか!
「週末、飲みに行かれる先生方もいらっしゃるでしょうが、今はそれどころではないので、日を改めてください」
飲み会自粛のお達しがあっても、誰も文句を言う者はいない。ムードを察して、新人が真面目な顔で尋ねてくる。
「今日は追試をしようと思っていたんですが、自粛したほうがいいんでしょうか」
「……追試は別にやってもいいんじゃない」
「そうですか。じゃあ、そうします」
澄ました顔で答えたが、本音としては、授業も自粛、部活も自粛にしてもらいたかった……。
こんなにたくさんの人が、高木の回復を願っている。
私はまだ、彼女と一度しか話したことがないのだ。
また、授業で「ここが違うよ」と、言える日が来てほしい。
・追記 おかげさまで、彼女は数日後、危険な状態から抜け出したそうです。
後遺症の懸念もあり、手放しでは喜べませんが、だいぶ落ち着いてきました。
これも、みなさまがたのおかげです。温かいコメントをちょうだいし、ありがとうございました!
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「この前の課題なんだけど、この字が間違っていて、ここも変だから直しておいて」
「はい、わかりました」
高木は目立たないタイプの女の子だ。中肉中背で、とびぬけて成績がいいわけではなく、悪さをして注意されることもない、ごく普通の生徒である。だから、翌日の職員打ち合わせでは、言葉を失った。
「昨日の放課後、1年の高木さんが自転車で下校途中、車にはねられました。緊急手術をしましたが、危険な状態が続いています」
校長の説明に、どこかで納得していない自分がいる。昨日、話をしたときは元気だったのだ。呼吸が苦しくなり、「嘘でしょう??」と叫びたくなった。
しかし、悲しいことに、生徒や教員が大けがをしたり、亡くなったりすることはままある。
1校目では、男子生徒がバイクの事故で亡くなった。16歳だった。
2校目でも、男子生徒がビルの屋上から転落して亡くなった。こちらも事故で、17歳だった。
3校目では、副校長が病気で亡くなった。
実は、過去にも交通事故に遭った女子生徒がいたが、ひと月ほどで復帰できた。なんとか、高木も無事に戻れればいいのだが。
教員以上に、生徒の想いは強い。同じクラス、同じ学年の生徒たちが、協力し合って千羽鶴を折っているらしい。隣の席の先生が、授業から戻ったときに教えてくれた。
「でもね、授業中に折っているのよ。やめろとも言いづらいし、困ったわ」
……このあたりが、うちの生徒の弱いところだ。
神様が呆れて、祈りを聞いてくれなかったらどうするのか!
「週末、飲みに行かれる先生方もいらっしゃるでしょうが、今はそれどころではないので、日を改めてください」
飲み会自粛のお達しがあっても、誰も文句を言う者はいない。ムードを察して、新人が真面目な顔で尋ねてくる。
「今日は追試をしようと思っていたんですが、自粛したほうがいいんでしょうか」
「……追試は別にやってもいいんじゃない」
「そうですか。じゃあ、そうします」
澄ました顔で答えたが、本音としては、授業も自粛、部活も自粛にしてもらいたかった……。
こんなにたくさんの人が、高木の回復を願っている。
私はまだ、彼女と一度しか話したことがないのだ。
また、授業で「ここが違うよ」と、言える日が来てほしい。
・追記 おかげさまで、彼女は数日後、危険な状態から抜け出したそうです。
後遺症の懸念もあり、手放しでは喜べませんが、だいぶ落ち着いてきました。
これも、みなさまがたのおかげです。温かいコメントをちょうだいし、ありがとうございました!
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
今日できる事は明日に延ばさず今日やってしまいましょう!必ず明日があるとは限らないのだから!
以前自分が自己啓発のセミナーで学んだ事でした。でも何事もなく過ごすとついつい忘れて明日に延ばしてた自分がいました、この日記を見て思い出しましたよ!
その高木さんも意識を取り戻して復帰してほしいと心から思ってます。
砂希さんのお気もち、分かります。
人生これから いろんなことが待っているはず。
良きも悪しも、生まれたからには 全部経験してほしい。
授業中にまで祈っているクラスメイトのためにも、
聞き届けてください! 神様。
高木さんの快復を祈っていることでしょう
先生も生徒も、
性善説を信じたいと思います
つらいです。
これから夢と希望に満ちた未来が待っているはずだから。
私も木さんの快復を祈らせてもらいます。
がんばってください 千城台の古狸
彼女自身にも希望があるでしょうし、未来にはまだまだいろんな可能性がありますよね。
無事に復帰してこられることを祈ります。
さすがは自己啓発セミナー、いい話をしてくれますね!
おっしゃる通り、家を出るときは、帰ってこられるものと思っています。
その日にできることを「明日でいいや」と延ばし、生きている幸福を当たり前のことと考えています。
それじゃダメなんですね。
後回しではなく、前倒しで動かなくては。
白玉さんが祈ってくだされば百人力ですよ。
心強いです。
今日は、高木がいるはずの授業がありました。
ポッカリ穴が開いた席に、「やはり本当だったのだ」と実感します。
おそらく、クラスの誰もが思っていることでしょう。
これを機に、命の大切さを学習してもらいたいです。
ご家族の心痛は計り知れませんね。
ひとまず、生死の境目から脱出してほしいです。
命は不思議なものです。
人工的には作り出せないのに、奪うことはできる。
どこからやってくるかもわかりません。
でも、なんとか生きているんです。
どうか、元気にさせてあげてください。
そう祈るしかありません。
自殺した生徒もいましたか。
つらいことがあったんでしょうが、親より先に死ぬことが、何よりも親不孝です。
歯を食いしばって生きてもらいたいですね。
白血病と戦う女の子もいました。
無事、卒業できたのですが、25歳で亡くなりました。
神様も酷なことをするものです。
何とか回復して、おばあちゃんになってもらいたいと思います。