先日、私の勤める高校で、推薦入試が行われた。
内申書と面接だけで、早期に合格できるこの制度は、受験生から人気がある。当日、こわばった表情で、ドキドキしながら面接の順番を待つ中学生を見ていたら、自分が受験生だった頃を思い出した。
私も、推薦入試で、姉と同じ高校を受験した。姉妹で同じ学校に通うことがイヤではなかったし、母からも「一緒のほうが楽」と歓迎された。
たしか、1月下旬だったと思う。試験当日、余裕を持って家を出たにもかかわらず、バスと電車を乗り継いでいたら、思いのほか時間がかかった。
時計を見て、友達がせわしなく言った。
「うわっ、遅くなっちゃった! 走ろう!」
「そうだね、急がないと」
私もうなずき、大宮駅で私鉄の改札を目指してダッシュした。
すると、後ろのほうから男性の声が追いかけてくる。
「おい、おネエちゃん、ちょっと!」
ちらと背中越しに視線を送ると、中年のサラリーマンがこちらを見て何か言っていた。よく聞こえなかったし、急いでいたので相手にせず、そのまま電車に乗った。
無事、目的地に到着し、試験会場まで歩こうとしたときだ。ポケットから手袋を出したら、何と左側しかない。
私は狐につままれた思いで、記憶の糸をたぐっていった。
うーん、たしかダッシュする前に外してポケットに入れたはず……。
ようやく、あのサラリーマンに結びつく。
私はポケットに手袋をしまったつもりだったが、おそらく右側だけだったのだ。入れ損ねた左側は路上に落ち、私はそれに気づかず走っていった。離れたところから見ていたサラリーマンが、「おネエちゃん!」と教えてくれたのだろう。
慌てないで、ちゃんと話を聞けばよかったな……。
人の好意を無にして、お気に入りの手袋をなくしたことを悔やむだけではすまなかった。
受験生は、たいてい験担ぎをするものだ。
落とした……落ちた……。わーっ、縁起悪~い!!
大型台風直撃でも、木から落ちなかったリンゴが、受験生に高値で売られた時代である。
手袋を落とすという失敗をしでかしたため、入試にも落ちそうな気がして、私は泣きそうになった。合格発表までの5日間、不安な気持ちまま、ドキドキして過ごさなければならない。
テレビドラマや漫画では、合格発表の場面がよく出てくる。主人公が緊張した面持ちで、受験票片手にボードを見つめている。やがて、表情がパーッと明るくなるや否や、「あった、あった!」と叫ぶのだ。
あんな風に喜べたらいいなと憧れたとたん、左側の手袋を思い出して落ち込んだ……。
合格発表まであと2日というとき、私が受けた高校に母が出かけてきた。母は、姉の入学時からPTAの役員をしていて、月に一度は学校で会合をしていた。
「○○先生がね、お母さんの近くに来て、小さな声で話しかけてきたんだよ」
母はニコニコしながら、学校での出来事を話し始めた。
「大丈夫ですよ、砂希さんは合格してますから、だってさ」
「……」
「内緒にしといてくださいよ、って念を押されたよ」
しかし、私は半信半疑だった。見たことも会ったこともない先生が、入試の結果をこっそり教えてくれたからといって、素直に喜べない。「ホントかよ」と思う程度である。
果たして合格しているのかと、モヤモヤした気持ちで合格発表の日を迎えた。友達の前では何も知らないふりをしなければならず、気疲れした。
掲示板を見ると……。
その先生が言った通り、私の番号が書かれていた。ウソではなかったことに安堵したものの、はち切れんばかりの喜びは味わえなかった。
「あったー!! よかったぁ!!」
抱き合って跳ね回っている友達を横目で見る。
たとえ、不合格かもしれないと不安になっても、中途半端な形で結果を知るのはよろしくない。
あーあ、教えてくれないほうがよかったな……。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
内申書と面接だけで、早期に合格できるこの制度は、受験生から人気がある。当日、こわばった表情で、ドキドキしながら面接の順番を待つ中学生を見ていたら、自分が受験生だった頃を思い出した。
私も、推薦入試で、姉と同じ高校を受験した。姉妹で同じ学校に通うことがイヤではなかったし、母からも「一緒のほうが楽」と歓迎された。
たしか、1月下旬だったと思う。試験当日、余裕を持って家を出たにもかかわらず、バスと電車を乗り継いでいたら、思いのほか時間がかかった。
時計を見て、友達がせわしなく言った。
「うわっ、遅くなっちゃった! 走ろう!」
「そうだね、急がないと」
私もうなずき、大宮駅で私鉄の改札を目指してダッシュした。
すると、後ろのほうから男性の声が追いかけてくる。
「おい、おネエちゃん、ちょっと!」
ちらと背中越しに視線を送ると、中年のサラリーマンがこちらを見て何か言っていた。よく聞こえなかったし、急いでいたので相手にせず、そのまま電車に乗った。
無事、目的地に到着し、試験会場まで歩こうとしたときだ。ポケットから手袋を出したら、何と左側しかない。
私は狐につままれた思いで、記憶の糸をたぐっていった。
うーん、たしかダッシュする前に外してポケットに入れたはず……。
ようやく、あのサラリーマンに結びつく。
私はポケットに手袋をしまったつもりだったが、おそらく右側だけだったのだ。入れ損ねた左側は路上に落ち、私はそれに気づかず走っていった。離れたところから見ていたサラリーマンが、「おネエちゃん!」と教えてくれたのだろう。
慌てないで、ちゃんと話を聞けばよかったな……。
人の好意を無にして、お気に入りの手袋をなくしたことを悔やむだけではすまなかった。
受験生は、たいてい験担ぎをするものだ。
落とした……落ちた……。わーっ、縁起悪~い!!
大型台風直撃でも、木から落ちなかったリンゴが、受験生に高値で売られた時代である。
手袋を落とすという失敗をしでかしたため、入試にも落ちそうな気がして、私は泣きそうになった。合格発表までの5日間、不安な気持ちまま、ドキドキして過ごさなければならない。
テレビドラマや漫画では、合格発表の場面がよく出てくる。主人公が緊張した面持ちで、受験票片手にボードを見つめている。やがて、表情がパーッと明るくなるや否や、「あった、あった!」と叫ぶのだ。
あんな風に喜べたらいいなと憧れたとたん、左側の手袋を思い出して落ち込んだ……。
合格発表まであと2日というとき、私が受けた高校に母が出かけてきた。母は、姉の入学時からPTAの役員をしていて、月に一度は学校で会合をしていた。
「○○先生がね、お母さんの近くに来て、小さな声で話しかけてきたんだよ」
母はニコニコしながら、学校での出来事を話し始めた。
「大丈夫ですよ、砂希さんは合格してますから、だってさ」
「……」
「内緒にしといてくださいよ、って念を押されたよ」
しかし、私は半信半疑だった。見たことも会ったこともない先生が、入試の結果をこっそり教えてくれたからといって、素直に喜べない。「ホントかよ」と思う程度である。
果たして合格しているのかと、モヤモヤした気持ちで合格発表の日を迎えた。友達の前では何も知らないふりをしなければならず、気疲れした。
掲示板を見ると……。
その先生が言った通り、私の番号が書かれていた。ウソではなかったことに安堵したものの、はち切れんばかりの喜びは味わえなかった。
「あったー!! よかったぁ!!」
抱き合って跳ね回っている友達を横目で見る。
たとえ、不合格かもしれないと不安になっても、中途半端な形で結果を知るのはよろしくない。
あーあ、教えてくれないほうがよかったな……。
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)