この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

トゥモロー・ワールド。

2006-11-23 22:13:19 | 新作映画
 アルフォンス・キュアロン監督、『トゥモロー・ワールド』、Tジョイ久留米にて鑑賞。

 難しい映画だな、と思う。
 難しいといっても内容が、ではなくて。
 ストーリーはごくシンプル。子供の生まれなくなってしまった近未来、主人公セオは元妻であるジュリアンから一人の女性の運命を託される。その女性キーは何と妊娠していた・・・、という話。
 正直脚本だけ見ればまぁ及第点かな、ってぐらいの映画。例えばジュリアンは最初セオにキーのために通行証を入手して欲しいと依頼し、実際セオはそれを入手するのだが、その通行証があとあと何かストーリーに関わってくるかというとそういうわけでもない。またセオたち一行は暴徒に襲われジュリアンは命を落とすのだが暴徒の正体は彼女の部下の知り合いである。(ジュリアンの率いる組織が)一枚岩になっていないにもほどがあるだろうと思ってしまった。さらにセオは逃亡のために友人のジャスパーから一人の警官を紹介してもらうのだが、その警官が逃亡行の邪魔をしたりする。ジャスパーは信用できる人物としてその警官を紹介したはずなのに。そんな感じで観ていて首を傾げるシーンがいくつもある。
 だがキュアロンは、脚本の段階では及第点の『トゥモロー・ワールド』という作品を、映像の力によって観る者に息を飲むほどの迫力と鑑賞後何かを考えさせずにはいられないメッセージ性を与え、傑作へと昇華させている。
 SFというのはサイエンス・フィクションの略であり、日本語で言えば空想科学(小説)のことであるが、それが単なる未来を舞台にした絵空事であったら、SFというジャンルは存在する意味がないと思う。SFとはつまり現代社会の映し鏡だ。
 『トゥモロー・ワールド』で語られる、子供の生まれない世界というのは、それは少子化が問題になっている現代社会のことを指す。舞台こそ2027年のイギリスであるが、キュアロンが指し示すのは間違いなく現代社会が抱える暗部だ。
 難しい映画だと言ったのは、我々にこの暗部を凝視するだけの勇気があるのかどうかが試されるからだ。そして考えて、何らかの答えを出さなければならない。だからこそ、難しい。
 少子化の深刻化が叫ばれて久しいが、実のところ少子化の問題はもう二十年も前から(というかもっと前から)わかっていたことだ。だが我々はそのことから目を背けていた。
 映画『トゥモロー・ワールド』は我々がこのまま目を背け続ければ、二十年後、もしかしたらこんな世界がやってくるかもしれませんよ、と警告している。幸い映画は一粒の種が希望として残るようなラストを迎えるが、現実はどうなのだろう。我々は未来に希望を見出すことが出来るのだろうか。
 難しい映画であるがメッセージそのものは易しい。つまり一言で言えば、子供は世界の宝であるということだ。観るべき価値は十分ある、そう思う。
コメント (9)
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