この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

そしてブライアンはいなくなった  Bryan,far away その5.

2013-05-03 16:14:08 | そしてブライアンはいなくなった
 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの独白アイリーン・キャンベルの懺悔ブライアンの述懐Dr.エイブラハム・ジェイコムズの謝罪に続いてお読みください。


 エイミー・ドーソンの日記


 今日庭に一ひきのウサギさんがいました。
 とてもかわいくて人なつこいウサギさんで、わたしの手からおいしそうに食パンを食べました。
 ママにウサギさんをかってもいいか聞いたら、ママは本当のかい主さんがあらわれるまでねって言いました。
 今ウサギさんの名前を考えているところです。
 ウサギさんにあなたは男の子ですか女の子ですかと聞いたら、女の子ですかと聞いたときに何回もうなづいていたので、ウサギさんは女の子だと思います。
 かわいい名前をつけてあげたいです。


                                 

                                      おわり                         
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そしてブライアンはいなくなった  Bryan,far away その4.

2013-04-25 20:27:14 | そしてブライアンはいなくなった
 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの独白アイリーン・キャンベルの懺悔ブライアンの述懐に続いてお読みください。



 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの謝罪

 
 一週間ぶりにブライアンが戻ってきた。
 研究室のドアを開けると何事もなかったようにブライアンがパソコンの前に座っていて、私の方をじっと見つめていた。
「お帰り、ブライアン」
 私がそう声を掛けるとブライアンがキーボードを鼻先でちょこちょこと叩き、【心配を掛けました】と文字がモニターに浮かんだ。
「それほど心配はしていなかったよ。アイリーンの元にいるであろうことは十分予想がついていたからね」
【彼女を責めないでください】
「わかっている。彼女が率先してお前を誘拐したのではないということぐらい私にもわかるさ」
【それを聞いて安心しました】
「たまに公園に連れ出してやったが、お前も研究室に閉じこもりきりでは気が滅入ったんだろう。彼女と暮らしてみてどうだった?気が晴れたかね?」
 私の質問には答えず、代わりにブライアンは次の一文を打ち込んだ。
【Dr、久しぶりにチェスをしませんか?】
 望むところだった。一局のチェスは百万の言葉を費やすよりも多くのことを伝えることがある。
 何より私は好敵手と、つまりブライアンとチェスをするのがこの上ない楽しみだった。
 私とブライアンはブライアンが覚えたての頃を除いて戦績的に互角であった。どちらかが二、三局続けて勝つこともあったが、トータルでの勝ち星はそれほど変わらないはずだった。
 私とブライアンは実力が伯仲していた。このときまでは。
 完敗だった。完膚なきまでに叩きのめされた。ブライアンにはこれまで幾度となく負けたことがある。だがこれほど圧倒的な敗北を喰らったのは初めてだった。
 さらに二局続けて対戦する。だが同じ結果だった。
 モニターのブライアンの名前のところに三度続けてwinnerの文字が点滅した。
「知らなかったよ。お前は私よりはるかに強かったのだな…」
 ブライアンは私を悲しそうに見た。
【Drが知らないことは他にもあります】
「何だね?」
【私はそれほどニンジンが好きではありません】
「そうだったのか…。お前が美味しそうに食べるから、てっきり好物なのかと思っていたよ」
【私が食べる様子をDrが満足そうにご覧になるのでどうしても言い出せなかったのです】
「そうか、それはすまなかった。これからはニンジンの他にもバラエティに富んだ食事のメニューにしよう」
【言い出せなかったことがまだあります】
 そう言うとブライアンは押し黙ってしまった。正確にはキーボードを叩くのを止めてしまった。
 しばらくして【Dr】という二文字がモニターに浮かんだ
【Dr、私はDrがつけてくださった「ブライアン」という名前をとても気に入っています。とても素敵な名前だと思います。でも私が「ブライアン」と名乗るには一つだけ問題があるのです。】
 ブライアンは私を、そして私はブライアンをじっと見つめた。
【Dr、私は男ではないのです】
 ブライアンの言葉に私はすぐには二の句が継げなかった。どうにか「すまなかった」とだけ謝罪の言葉を振り絞った。
【いえ、必ずしもDrのせいではありません。ウサギの性別を見分けるのは熟練のブリーダーであっても難しいと聞きますから】
「私はお前が女かもしれないなんてこれっぽっちも考えなかった。本当にすまない。どうだろう、これから「ブライアン」に代わる相応しい名前を二人で考えようじゃないか」
 ブライアンは私の提案に少しだけ微笑んだ、気がした。
【あと一つだけ私にはDrに言えなかったことがあます】
 ゆっくりとモニターに文字が打ち出され、短い文章を二つ紡いだ。
【私はあなたを愛しています。だからあなたの傍にはいられないのです】
 その後もう二度とモニターに文字が浮かぶことはなかった。

 
 そしてブライアンはいなくなった。


                             エイミー・ドーソンの日記に続く 
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そしてブライアンはいなくなった  Bryan,far away その3.

2013-04-19 21:29:43 | そしてブライアンはいなくなった
 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの独白アイリーン・キャンベルの懺悔に続いてお読みください。



 ブライアンの述懐


 私の名前はブライアンといいます。
 私の生みの親はDr.エイブラハム・ジェイコムズなので、ブライアン・ジェイコムズと名乗ってもいいのかもしれません。
 生みの親といってももちろん私とDrの間に何らかの遺伝子上の繋がりがあるわけではありません。
 何といっても私はウサギなのですから。
 けれど私という存在が今この世に存在しているのは間違いなくDrのおかげなのです。
 私の生みの親はDr.エイブラハム・ジェイコムズであると言ってよいと思います。

 Dr.エイブラハム・ジェイコムズは紛う事なき天才です。生体コンピューターの分野においては他の研究者の追随を許さないほど優秀な学者です。
 けれど、Drはそれほどの天才であるにもかかわらず、いえ、天才であるがゆえに凡人であれば知っていて当然の常識を知らず、考えて当然の問題を考えず、理解して当然の事柄を理解しません。
 私が良い例です。
 Drはウサギに人並みの知能を与えては何かしら倫理的な問題があるかもしれないとは考えないのです。

 Drが知らないことは他にもあります。
 Drは私がニンジンが大の好物だと思っているようですが、私は実はそれほどニンジンが好きではありません。
 もちろん私もウサギですから、決してニンジンが嫌いというわけではないのですが、さすがに毎日食べ続けていると飽きてきます。
 Drが毎日飽きずに食べているヌードルの方がよっぽど美味しそうに見えます。
 でも私はそのことをDrに言い出せませんでした。
 私がニンジンを食べているのを満足そうに眺めているDrに、ニンジン以外のものも食べたいです、とはどうしても言えなかったのです。

 Drは孤独な人です。
 孤独でなければウサギ相手にチェスをしようなどとは思わないでしょう。
 Drの流儀を一言で言えば、勝つためには手段を選ばない、ということになるでしょうか。
 そういった流儀がときに相手プレイヤーのプライドを甚く傷つける、ということがDrにはわからないのです。
 長年その流儀でチェスを続けてきたために、今では私を除いてDrにはチェス仲間はいなくなってしまいました。

 何だかDrの悪口ばかり言っているようですが、Drは本当は良い人なのです。
 アイリーンは私がDrから虐待を受けていたのではないかと思っているようですが、とんでもありません。
 よく晴れた日曜日に郊外の公園へ連れて行ってもらったことがあります。
 はしゃぎすぎた私はDrとはぐれてしまいました。
 Drの姿を必死に探す私の前に黒くて大きな犬が現れました。
 その犬は恐らく先祖が狩猟犬だったのでしょう、本能的に私に襲い掛かってきました。
 恐怖のあまり身がすくんで動けない私を助けてくれたのはやはりDrでした。
 Drは必死の形相でその犬を追い払ってくれたのです。
 自分自身が襲われることも顧みずに…。

 私は私の生みの親であり、命の恩人であるDr.エイブラハム・ジェイコムズのことを心から尊敬しています。
 Drと一緒に暮らせてとても幸せでした。
 でも少しだけ、本当にほんの少しだけですが、私はDrを恨んでもいるのです。
 もし私が普通のウサギだったら、こんなにもいろいろなことで悩んだり、苦しんだりせずに済んだかもしれないと思うのです。
 それがつらくて私はDrの元を去ることにしました。

 でもやっぱり何も言わずに出てきたのは良くないことでした。
 一言、挨拶をしてから出るべきでした。
 だから、一度Drの元に戻ろうと思います。
 戻って感謝の言葉と別れの言葉をきちんと伝えたいのです。
 ウサギだから礼儀知らずなのだ、とは思われたくないですから。


                      Dr.エイブラハム・ジェイコムズの謝罪へ続く 
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そしてブライアンはいなくなった  Bryan,far away その2.

2013-04-12 21:02:48 | そしてブライアンはいなくなった
 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの独白からお読みください。


 アイリーン・キャンベルの懺悔


 あぁ、神様!!
 私は罪を犯しました。
 私はDr.ジェイコムズの飼っていたウサギのブライアンをDrの元から盗み出したのです。
 あ、いえ、よく考えると違いました。盗んだのではありません。正確には盗んだのではなく連れ出したのです。
 だって、それを望んだのはブライアン自身なのですから。私自身にはブライアンを盗む理由なんてありませんもの。

 Drが研究室でウサギを飼っていることはもちろん知ってました。そのウサギの名前がブライアンだということも。
 でもブライアンが特別なウサギだなんて知りませんでした。本当です。嘘なんかじゃありません。だから私にはブライアンを盗む理由なんてないのです。

 あの日、Drの外出中にゲージの外にブライアンがいるのを見つけて「大変!」と思いました。
 ブライアンをゲージの外に出したのは私じゃありません。ゲージの扉の鍵をかけ忘れたのも。
 でもDrの外出中に研究室の中で何か粗相があれば、それは私のせいになるに違いない、そう思いました。
「おいで、いい子だからこっちへおいで」
 私はそう言いながらゆっくりとブライアンに近づきました。ゆっくりと近づきながら恐る恐る手を伸ばして、捕まえた!!そう思った瞬間、ブライアンは私の手をすり抜けました。
 それから時間にして十分ほどでしょうか、ブライアンと私は追いかけっこを繰り広げました。
 たった十分ほどの追いかけっこでしたが私はくたくたに疲れ果てました。
 私はウサギを飼ったことなどありませんし、生態にも詳しくありませんが、これだけは断言出来ます。
 ブライアンは世界で一番捕まえにくいウサギである、と。
 単にすばしっこいってだけじゃないんです。まるでこちらが次にどのように動くかがわかっているかのように逃げるんです。
 気がつくとブライアンはDr愛用の年代物のデスクトップのパソコンの前にちょこんと座っていました。
 これはいよいよいけない!
 単に研究室を逃げ回っただけでなく、万が一にもパソコンの中のデータが消える羽目になったら、私は首になるだけじゃなく、Drに殺されてしまうかもしれません。
 お願い、お願いだから動かないで…。
 私の願いも空しくブライアンはプイと顔を背けると、その鼻先で器用にキーボードの起動キーを、続けてアルファベットのキーを五回押しました。
 するとモニターに【HELLO】の文字が浮かびました。
 インターネットでピアノを弾いている犬の動画を見たことがあります。ピアノを弾いていると言っても鍵盤を適当に叩いているだけでメロディを奏でているわけではありませんでした。
 ウサギが適当にパソコンのキーボードのキーを五回押して、それが【HELLO】という単語になりうる可能性はどれぐらいだろう、私はへたりこみながら考えました。
 しかしそれが偶然でないことはすぐにわかりました。
 さらに続けてモニターに【IRENE】と浮かんだからです。

 私は結局私のアパートメントにブライアンを連れ帰りました。
 そうしたのはブライアンに説得されたからですが、しかしあの時の私は目の前で起こった非現実的な出来事のせいでとても精神状態がまともだったとは言い難く、時間が経つにつれてとんでもないことをしてしまったと思うようになりました。
 でも今さらブライアンをDrに引き渡す気にはなれません。
 何といってもブライアン自身がDrの元から逃げ出すことを望んだのですから。

 それにしてもブライアンはどうしてDrの元から逃げ出すことにしたのでしょうか。
 そのことを尋ねてもブライアンは答えてくれません。
 もしかしたらブライアンはDrから虐待を受けていたのでしょうか。それとも何か新たなる実験の被検体にしようとしていたのでしょうか。

 私はどうすればいいのでしょうか。
 神様、どうか良い知恵をお授けください。




                            ブライアンの述懐に続く
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そしてブライアンはいなくなった  Bryan,far away その1.

2013-04-05 23:14:56 | そしてブライアンはいなくなった
 Dr.エイブラハム・ジェイコムズの独白


 ブライアンがいなくなった。

 ブライアンは私が飼っていたウサギである。
 いや、飼っていたという言い方は正しくないかもしれない。
 だが私とブライアンの関係を端的に言い表すのは難しい。

 ブライアンは殺処分されるところを衛生管理課から私が譲り受けた。外見は小学校で飼育されているような、よく見かけるタイプのウサギである。 
 ただ、よく見かけるタイプのウサギに比べるとブライアンは頭がよい。
 どれぐらい頭がよいのかというと私とチェスの勝負をして互角に戦えるぐらいである。
 ちなみに私はチェスの全米チャンピオンだったことがある。
 もちろんブライアンは生まれつき天才ウサギだったというわけではない。
 彼の大脳皮質に私が開発したαチップを埋め込んだのだ。
 そうすることでブライアンの知能は飛躍的に向上した。

 ブライアンが普通のウサギでないことは誰も知らない。助手のアイリーン・キャンベルでさえも知らないはずだ。
 ブライアンは私以外の第三者がいるときは完璧に自らをどこにでもいるウサギに見せかけることが出来た。

 ブライアンは彼自身の意思で私の元から逃げ出したのだと見て間違いあるまい。
 外部からの侵入者がわざわざウサギ一匹を盗み出すとは考えにくいし、何らかのアクシデントによりゲージの外に出たのだとしても、普通のウサギのようにそのまま気紛れにどこかへ行ってしまうということもやはり考えられない。
 ブライアンは逃げ出したのだ。

 その結論に私は少なからぬショックを受けている。
 なぜなら私とブライアンの関係は極めて順調であると私は思っていたのだ。
 私はブライアンの三度の食事に、有機栽培された最高級のニンジンを毎日用意した。
 今どきの最高級のニンジンは決して安くない。
 私の日々の食事であるヌードルよりもよっぽど高級なぐらいだ。
 ブライアンはそのニンジンをいつも私の手から受け取って貪るようにボリボリと美味しそうに食べていた。

 それにチェスだ。
 私がチェスをブライアンに教えたのは無聊ゆえだったが、ブライアンには天賦の才能があった。
 好敵手とのチェスほど心躍るものはない。
 ブライアンも私同様楽しんでいるものとばかり思っていた。

 ブライアンは今どこにいるのだろう?
 研究室の中にいないことは間違いない。
 研究所の中にもおそらくいないだろう。
 だとすれば研究所の外ということになるが、それについては考えたくない。
 ブライアンは外の世界がどれほど危険なのかわかってないのだ。
 それに彼一人では食事もままならないだろう。
 彼は今無事でいるのか?彼の身が心配でならない。



                         アイリーン・キャンベルの懺悔へ続く
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