井筒和幸監督、
『パッチギ!LOVE&PEACE』、Tジョイ久留米にて鑑賞。
この作品のチケットを買う際、『スモーキング・エース 暗殺者がいっぱい』とどちらを観るかで迷いました。
単純に上映期間のことだけ考えれば『スモーキング・エース』を先に観た方がいいんですよ。公開が先の方が普通は上映終了も早いので。
それが何故『パッチギ!LOVE&PEACE』の方を観ることにしたかというと理由はいたって単純、前作が面白かったからに他なりません。
前作『パッチギ!』は、恋や友情、暴力、歌、生命の賛歌など、およそ物語を構成する要素が絶妙のバランスで配合され、さらに骨太のメッセージも内包した、娯楽映画の傑作だと思っています。
このことだけで『パッチギ!』は手放しで素晴らしいと褒め称えてよいと思うのですが、それに加えて特筆すべきはヒロイン役の沢尻エリカの可愛さ、でしょう。
あの作品の中で彼女は本当にオーラを発しまくっていました(ちなみに今の沢尻エリカはあんまり好きではありません。可愛い女の子は好きだけど、可愛ければ何でも許されると考えている女の子は嫌いなので)。
で、『パッチギ!LOVE&PEACE』なのですが、一言でいうとバランス、悪し。
まずは暴力描写。
過激な暴力シーンはもちろん前作にもあったわけですが、それがギリギリのラインで娯楽映画の範疇に収まっていた、そう思います。
ところが本作ではそれが突き抜けすぎ。冒頭の乱闘シーン、駅員の佐藤からケリを入れられた男がレールに頭を思い切りぶつけ、白目を剥いてどくどくと血を流しながらピクピク痙攣するんですよ。ちょっと、、、シャレにならない。
これがアクション映画やバイオレンス映画でならともかく、娯楽映画となると正直ドン引きしてしまいます。少なくとも「アイツは元々頭のおかしいヤツやったから(気にすんな)」みたいな台詞だけで済まされもなぁ、と思います。
次にユーモア。
前作におけるユーモアの描写はセンスが絶妙だったと思います。プッと吹き出してしまうシーン、クスリと笑えるシーンが作品の随所に散りばめられていました。
ところが本作におけるユーモアセンスは最悪。例えば登場人物がやたらとすっ転ぶんですよ。水泳大会でADはプールにどぼーんと落ちちゃうし、佐藤は佐藤で転んで小銭を撒き散らすし、おそらくはそれらは笑いを狙ったものだと思うんですが、ことごとく笑えない。おかしくもない。
あと主人公たちの父親が戦場で逃げ回る戦闘の再現(回想?)シーンがあります。
これが本当によく出来ていて、未見ですが出来だけ比べれば某都知事が音頭を取った某作品よりも上なんじゃないかって思えるぐらいです。戦闘機の爆撃で肉片が吹っ飛ぶところとか超リアル。
なのですが。
正直うざいんですよ。回想シーンや再現シーンって本編に対して主と従の関係にあると思うんですが、本作においてはそれがでしゃばりすぎ。
前作では強制連行された朝鮮人の身の上を涙ながらに語る老人の姿が印象的だったのに比べ、本作では戦闘シーンの出来のよさが作品のプラスに繋がっていないんですよ。あぁ、リアルだねぇ、悲惨だねぇ、力が入ってるねぇ、、、だから何?って感じで。
本作が伝えようとしている(であろう)こと、差別なんてものはくだらない、とにかく生きるということこそが大切なのだ、というのは正しいと思います。
でも残念ながらそれが伝わってこない。伝えようとすることは正しくても伝え方が正しくない。
ヒロインが映画の舞台挨拶で、戦闘から逃げた父親を恥ずかしいと思ったことは一度もない、っていうシーンがあるんですよ。それなりに感動的なシーンではあるんですが、続いて乱闘シーンに突入しちゃうんですよね。
戦闘から逃げることは恥でも何でもない、生きることこそが尊いのだ、そうヒロインに語らせておきながら、これって一体どういう意味???と首を傾げずにはいられません。
乱闘シーンに始まり、乱闘シーンで終わるというのは共通するのですが、本作と前作の大きな違いは前作では乱闘に突入しても新しい命の誕生という報を耳にして主人公はその乱闘を放棄して病院に駆け込み、生まれたばかりの我が子を抱くんです。その姿は感動的です。
一方本作ではヒロインが感動的なスピーチをしたあとに、そのスピーチを否定するが如く乱闘に突入するので、感動もへったくれもありません。
この二作品は自分にはまったくスタンスが異なるように思えました。
この他にもバランスが悪いなぁと思うところがあって(それは割愛します)、自分は右翼でも左翼でもないですが、思想的な問題を抜きにして本作を高くは評価しません。
あと一つだけ、これはいっても詮無いことかもしれませんが、ヒロイン役の中村ゆりが前作の沢尻エリカに比べるとやっぱり、、、華がないと思います。決して彼女が悪いってわけではないし、頑張ってはいたと思うんだけど、相手が悪かったといわざるをえません。
前作における沢尻エリカは可憐さの化け物みたいな存在感でしたからねぇ。