映画『ガタカ』のキャラクターについての考察、ジェローム編。

　映画『ガタカ』で、ジェロームがなぜ自ら死を選んだのか、その理由がわからない、という人を多く見かけます。
　確かに宇宙飛行士になるというヴィンセントの夢を献身的に応援してきたジェロームが、友人が夢を叶えた直後、自ら命を絶つのは不可解なようにも思えます。

　彼がなぜ自ら死を選んだのか、の前に、彼が死を選んだことによってどういった事態が起こりうるのか、その可能性について考えてみたいと思います。
　異臭に気づいた隣人が警察に通報し、家宅捜索が行われ、焼却炉の中の死体からＤＮＡが採取されるかもしれません。
　これはあくまで可能性の問題なので誰にも否定出来ないことなのです。
　ＤＮＡが採取されれば今タイタンに向かっている男がジェローム・ユージーン・モローではない別の誰かだということがわかります。
　地球に帰還したヴィンセントはＤＮＡ偽称の罪によって裁かれることになるでしょう。
　なぜジェロームはもっとウィンセントに迷惑がかからないやり方で死を選ばなかったのでしょうか？
　例えば、ボートを借りて沖に漕ぎ出し、足に重石をつけて海に飛び込めば、死体が出てくることはなく、ＤＮＡが採取されることも１００％ありません。
　もちろん下半身が不自由なジェロームがそのやり方を選択するのは困難です。
　しかし困難であるというだけで不可能ではないはずです。
　なぜジェロームはヴィンセントに迷惑がかからないやり方で死を選ばなかったのか？
　答えは一つしか思いつきません。
　ジェロームは自分がどのような死に方をしたとしてもそのことでヴィンセントに迷惑をかけることはない、そう考えたのです。
　でもおかしいですよね。
　ジェロームの死がヴィンセントに迷惑をかけるかもしれないということはあくまで可能性の問題なので誰にも否定出来ないはずです。
　なぜジェロームはそれを否定出来たのか？
　やはり答えは一つしか思いつきません。
　ジェロームはヴィンセントが地球に帰還することはない、そう考えたのです。
　ヴィンセントが地球に帰還することがないのであれば、ジェロームがどういう死に方をしてもそれでヴィンセントに迷惑をかけることはないですから。
　そしてこれは同時にジェロームがなぜ自ら死を選んだのか、という疑問の答えにもなります。
　ジェロームはヴィンセントの心臓の障害のことを知っていました。
　彼に宇宙飛行士としての適性が欠けることも、宇宙に行けば死んでしまうであろうことも。
　すべてを知った上で彼の宇宙飛行士になるという夢を応援していたのです。
　この心情はいささか理解しがたいかもしれません。
　ただ、彼がそういった心情であった、ということを踏まえると、彼の死に不可解さは消えるのではないでしょうか。

　明日はアントンについて考察してみてみたいと思います。