旺文社の学習雑誌「中一時代」の1974年11月号に掲載されたミステリー小説「潮騒の中の少女」は、ルネ・シマールを主人公に設定して書かれたものでした。作者は「せき らん」さん。このファト・ミステリーのために撮影された力丸恒美さんの写真は、「時代」シリーズの折り込みポスターにも使われていました。
「前編」として紹介いたしました前回のあらすじは、来日公演でK市を訪れていたルネが殺人事件に巻き込まれてしまうという内容でした。
季節は秋、この雑誌が発売された1974年の秋に来日はありませんでした。写真は2回目の来日時に撮影されたということがわかりました。また、ルネが来日中、1カ所で3日間も連続で公演するということは到底無理なことでしたが、ルネが3日間の公演を行う大都市で、第三埠頭まで備えた大きな港のあるという設定のK市とは、どこかモデルになる都市が存在するのでしょうか? 夕方の公演を行った翌日にカナダに出発できる場所にある都市…。成田空港は1978年5月20日開港ですから、1974年当時は羽田だけが、カナダに出港できる唯一の国際空港でした。完全なる創作でも、推理してみるのも楽しいですね。でも、お付きの運転手が殺されているのに事情聴取もなく、公演は中止にならないし、マネージャーもつかずに知らない異国の地で、ファンにかこまれずにお買い物できてしまうというのも不自然ですが、「名探偵コナン」ばりのルネの推理と行動力をお楽しみいただきたいと思います。
さて、中編の今回は、どんな展開になるのでしょうか?!
ルネ・シマール 長谷直子が特別出演
フォト・ミステリー
ほんとうに死ぬかもしれない……空いっぱいに星がちらばり、かすかに吹きぬける潮風が、ルネの心をここちよくとおりすぎた……
潮騒の中の少女
作/せき らん 写真/力丸恒美 構成/石垣好晴
翌日、直美がむかえにきたのは、午後一時の時報がなってすぐのことだった。市の中心までタクシーを利用して、街中を歩き始めるころには、昨夜のショックも消え、ふたりの表情には明るさがもどっているかにみえた。ルネはカナダにいる兄弟たちへのおみやげ選びに夢中になり、一時間ほどがまたたくまにすぎていった。
直美は、腕時計に目をやり、もうそろそろ会場へむかおうかと、ルネに声をかけようとして、ふと、そのことばをのみこんだ。ルネがある店の前に立ち、じっとその店内に視線をくぎづけにしている。その店はペット・ショップ、いわゆる小動物を売っている店であった。
「ルネ、いったいどうしたの?」
そんな直美の声を背にして、ルネはゆっくりとペット・ショップに入っていった。
「いらっしゃいませ……」
店の奥からかぼそい声がきこえ、人影がゆらいだ。
ルネがみつめていたのは、その声の主、ひとりの少女だった。
「……ナオミ、あなたには、すでに三度ほどお会いしています、と通訳してください。」
直美は、ルネの奇妙な態度とわけのわからないことばにとまどいながらも、そのとおりに日本語に訳して少女に伝えようとした。すると、少女はかすかな笑いをうかべながら、あざやかなフランス語を話しだした。
「私はフランス語がわかります。でもあなたとお会いするのははじめてですが……」
ルネと直美は、驚いたように顔を見合わせた。少女のおもかげには、どこか日本人ばなれしたかげがあった。
「そうですか。それではぼくの思いちがいかもしれません。それにしてもあなたのフランス語はみごとです。」
ルネはゆっくりと店内を歩きながら、なにか考えているようすだった。突然。
「ところで、ぼく、まもなく自分の国へ帰るのですが、できれば、日本にしかいない動物をつれて帰りたいのですが、相談にのっていただけませんか?」
ルネのことばをききながら、少女は、左右にならべられたオリのなかの動物たちにいとおしげに手をさしのべていたが、
「もうしわけありませんが、それはできません……」
「日本の動物を、外国につれていって、ものめずらしさの対象とするために、かわいい動物たちをあなたにゆずるわけにはまいりません」
少女は、ほとんど無表情にそういいきった。
「わかりました。あなたがそういうだろうということは予想していました。ぼくもカナダではずいぶん動物たちを殺したり傷つけたりしましたから。鹿をつかまえそこなったはらいせに、犬を棒でなぐって殺したり……。まあ、その意味ではその意味では動物をかう資格などないかもしれません。
でも動物は人間のために生きているんだから、多少、ぎせいになってもかまわないと思いますがね」
直美は、びっくりしてルネの顔をみた。いったい何をいいだすのか? すくなくとも直美が知っているルネは、動物を殺すことはおろか、いじめることすらできないやさしい心の持ち主のはずだ。それが平然とおそろしい告白をしている。
ルネのことばをきいた少女の態度も不可思議だった。底光りする両眼を見開いて、心なしか唇をふるわせている。
「人間の楽しみのためには動物たちをぎせいにしてもいいとおっしゃるのでいか」
「ええ、だってしかたがないと思いますよ」
その眼光だけがギラギラかがやいている少女の心の中をさぐるように、ルネはいいはなった。
「ルネ、そろそろ会場へいかないと……」
直美は、まるで、一刻も早くこの場から逃げ出さなければ不吉なことでも起こりかねないといったようすで、すでに入り口のほうへあとずさりしていた。
「ああ、わかったよ、ナオミ……。それでは、きみ、かってなことばかりしゃべってしまったけど気にしないでください。さようなら」
と、少女に別れをつげて入り口のほうへいきかけたが、ふと思い出したようにいった。
「そうだ、ナオミ、今夜ステージがおわったら、ぼく港へ散歩にいきます。日本最後の夜ですからね。このまえいった第三埠頭のところにもう一度いってみたい」
「なんですって! 今夜はステージがおわったらだいじな打ち合わせがあるはずでしょ。なにをへんなこといいだすの」
「まあいいから。とにかく会場にいそぎましょう」
直美は、あきれたというようにルネをにらみ、口をつぐんだ。そしてふたりは、少女の視線を背にうけながら、ペット・ショップをでていった。(後編に続く)
ルネの彼らしからぬ発言と、ミステリアスなペット・ショップの少女。ルネの活躍と殺人事件の意外な結末に乞うご期待!
「前編」として紹介いたしました前回のあらすじは、来日公演でK市を訪れていたルネが殺人事件に巻き込まれてしまうという内容でした。
季節は秋、この雑誌が発売された1974年の秋に来日はありませんでした。写真は2回目の来日時に撮影されたということがわかりました。また、ルネが来日中、1カ所で3日間も連続で公演するということは到底無理なことでしたが、ルネが3日間の公演を行う大都市で、第三埠頭まで備えた大きな港のあるという設定のK市とは、どこかモデルになる都市が存在するのでしょうか? 夕方の公演を行った翌日にカナダに出発できる場所にある都市…。成田空港は1978年5月20日開港ですから、1974年当時は羽田だけが、カナダに出港できる唯一の国際空港でした。完全なる創作でも、推理してみるのも楽しいですね。でも、お付きの運転手が殺されているのに事情聴取もなく、公演は中止にならないし、マネージャーもつかずに知らない異国の地で、ファンにかこまれずにお買い物できてしまうというのも不自然ですが、「名探偵コナン」ばりのルネの推理と行動力をお楽しみいただきたいと思います。
さて、中編の今回は、どんな展開になるのでしょうか?!
ルネ・シマール 長谷直子が特別出演
フォト・ミステリー
ほんとうに死ぬかもしれない……空いっぱいに星がちらばり、かすかに吹きぬける潮風が、ルネの心をここちよくとおりすぎた……
潮騒の中の少女
作/せき らん 写真/力丸恒美 構成/石垣好晴
翌日、直美がむかえにきたのは、午後一時の時報がなってすぐのことだった。市の中心までタクシーを利用して、街中を歩き始めるころには、昨夜のショックも消え、ふたりの表情には明るさがもどっているかにみえた。ルネはカナダにいる兄弟たちへのおみやげ選びに夢中になり、一時間ほどがまたたくまにすぎていった。
直美は、腕時計に目をやり、もうそろそろ会場へむかおうかと、ルネに声をかけようとして、ふと、そのことばをのみこんだ。ルネがある店の前に立ち、じっとその店内に視線をくぎづけにしている。その店はペット・ショップ、いわゆる小動物を売っている店であった。
「ルネ、いったいどうしたの?」
そんな直美の声を背にして、ルネはゆっくりとペット・ショップに入っていった。
「いらっしゃいませ……」
店の奥からかぼそい声がきこえ、人影がゆらいだ。
ルネがみつめていたのは、その声の主、ひとりの少女だった。
「……ナオミ、あなたには、すでに三度ほどお会いしています、と通訳してください。」
直美は、ルネの奇妙な態度とわけのわからないことばにとまどいながらも、そのとおりに日本語に訳して少女に伝えようとした。すると、少女はかすかな笑いをうかべながら、あざやかなフランス語を話しだした。
「私はフランス語がわかります。でもあなたとお会いするのははじめてですが……」
ルネと直美は、驚いたように顔を見合わせた。少女のおもかげには、どこか日本人ばなれしたかげがあった。
「そうですか。それではぼくの思いちがいかもしれません。それにしてもあなたのフランス語はみごとです。」
ルネはゆっくりと店内を歩きながら、なにか考えているようすだった。突然。
「ところで、ぼく、まもなく自分の国へ帰るのですが、できれば、日本にしかいない動物をつれて帰りたいのですが、相談にのっていただけませんか?」
ルネのことばをききながら、少女は、左右にならべられたオリのなかの動物たちにいとおしげに手をさしのべていたが、
「もうしわけありませんが、それはできません……」
「日本の動物を、外国につれていって、ものめずらしさの対象とするために、かわいい動物たちをあなたにゆずるわけにはまいりません」
少女は、ほとんど無表情にそういいきった。
「わかりました。あなたがそういうだろうということは予想していました。ぼくもカナダではずいぶん動物たちを殺したり傷つけたりしましたから。鹿をつかまえそこなったはらいせに、犬を棒でなぐって殺したり……。まあ、その意味ではその意味では動物をかう資格などないかもしれません。
でも動物は人間のために生きているんだから、多少、ぎせいになってもかまわないと思いますがね」
直美は、びっくりしてルネの顔をみた。いったい何をいいだすのか? すくなくとも直美が知っているルネは、動物を殺すことはおろか、いじめることすらできないやさしい心の持ち主のはずだ。それが平然とおそろしい告白をしている。
ルネのことばをきいた少女の態度も不可思議だった。底光りする両眼を見開いて、心なしか唇をふるわせている。
「人間の楽しみのためには動物たちをぎせいにしてもいいとおっしゃるのでいか」
「ええ、だってしかたがないと思いますよ」
その眼光だけがギラギラかがやいている少女の心の中をさぐるように、ルネはいいはなった。
「ルネ、そろそろ会場へいかないと……」
直美は、まるで、一刻も早くこの場から逃げ出さなければ不吉なことでも起こりかねないといったようすで、すでに入り口のほうへあとずさりしていた。
「ああ、わかったよ、ナオミ……。それでは、きみ、かってなことばかりしゃべってしまったけど気にしないでください。さようなら」
と、少女に別れをつげて入り口のほうへいきかけたが、ふと思い出したようにいった。
「そうだ、ナオミ、今夜ステージがおわったら、ぼく港へ散歩にいきます。日本最後の夜ですからね。このまえいった第三埠頭のところにもう一度いってみたい」
「なんですって! 今夜はステージがおわったらだいじな打ち合わせがあるはずでしょ。なにをへんなこといいだすの」
「まあいいから。とにかく会場にいそぎましょう」
直美は、あきれたというようにルネをにらみ、口をつぐんだ。そしてふたりは、少女の視線を背にうけながら、ペット・ショップをでていった。(後編に続く)
ルネの彼らしからぬ発言と、ミステリアスなペット・ショップの少女。ルネの活躍と殺人事件の意外な結末に乞うご期待!