おもむろにシュウが言った。
「サエコさんって家にいるときいつもスカートだったよね? 今もそう?」
「うん」
「じゃ、右手の中指の爪立てて、右足の膝小僧の上クルクル丸かいて」
「何それ?」
「いいからいいから。おまじないみたいなもんだよ。膝伸ばして座ってね」
何のおまじないだ? 訳もわからず、ソファから下りて、言われた通りにしてみる。
「したよ?」
「そしたら、その指を太股の内側をすべるように伝ってきて」
「え」
「いいからいいから。そうしたら下着の横から指を中に入れてみて」
「それって」
それって。
「いいから。してみて。ね?」
シュウの甘えた声。めまいがする。
「……入れたよ」
溜息とともに言葉を吐き出す。思っている以上に、繁みの中が湿っている。
「濡れてる?」
「……ん」
息が苦しい。
「んー。このままだとしにくいから、下着脱いじゃおうか。でも、全部脱いじゃダメだよ。腿の途中まで下ろすだけだよ。その方が感じるんだよね? ね? サエコさん?」
「……バカ」
そんなことまで覚えてるんだ。十年も前のことなのに。
そう。私は全裸で抱き合うよりも、服を着たままのセックスに快感を覚える。恥ずかしくて他の男性に言ったことはないのだが、シュウはなぜかそれをすぐに見抜き、ストッキングをはいたまま、その箇所だけ破って下着の横から挿入する、とか、ブラジャーのホックを外さず、無理矢理乳首の上まで引き上げた状態で愛撫する、とか、私の快楽のツボをおさえたセックスを色々してくれた。
シュウの優しい声が続く。
「濡れてるところで指を湿らせてから、上のクリクリしたところ、ゆっくり丸をかくように触って」
「……あ」
電流が体に走り、思わず声が出てしまう。
「うわ、その声。本物だ。ぞくぞくする。オレも出しちゃお」
たぶん、シュウも全部は脱いでいない。彼も服をすべて脱ぐことは少なかった。
「覚えてるよ。シュウの形。割れ目のところ、指でグリグリってすると、すぐ透明の液が出てくるの」
「ん……出てきた」
シュウの溜息まじりの声。
「覚えてるよ。爪を立てると、ビクビクってなる」
「オレだって覚えてるよ。人差し指でクリトリスを強く押しながら、中指を中に入れて、中で指を曲げると……」
「あ」
ダメだ。声が抑えられない。
「もっと強く……」
思い出す、シュウの愛おしい形。
「ぎゅって強くつかんで……」
「指でかき回して……」
「もっと早く……」
寄せ来る快楽。頭がおかしくなりそうだ。
「ねえ、サエコさん。入れてもいい?」
「……いいよ」
ああ、と天井を仰ぐ。目をつむる。
「あ……入っ……た」
「あああっ」
確かに、シュウを感じた。息が洩れる。中が熱い。熱い。
「動かすよ?」
「ん……」
ゆっくりと腰を動かす。動かすたびに、ちょうど『あたる』。快楽の波にのまれる。
「あ、あ、あ、あ」
言葉にならない。呼吸が苦しい。
「いきそう……サエコさん……は?」
「ん……い……く」
携帯電話を掴む手から汗が流れてくる。電話越しにシュウの快感に溺れる息使いが聞こえる。オレ達、溶け合っている……。
「………あっ」
頂上についた。そして急降下。
声にならない声が出る。大きな溜息。
「うわっ」
同時にシュウの驚いたような声。なんだ?
「ど、どうしたの?」
「いや、ちり紙スタンバってたんだけど、勢い強すぎて、全部受け止められなかった」
「……バカ」
笑いがこみあげてきた。
「早く拭かないと臭くなるよ?」
シュウがあわてて拭いている様子が目に浮かんで、笑いが止まらない。
「うわ~このズボン明日も履こうと思ってたのに汚れちゃったよ。コインランドリー行って来ようかな」
「まだやってるの?」
「うん。十二時までやってるはず」
時計を見ると、もうすぐ十時だった。……夫が帰ってくる時間だ。現実に戻らなければ。
「シュウ君、電話ありがとうね」
「いや、こちらこそ、その……ありがとう。久しぶりに何て言うか……気持ちよかった」
「……うん。私も」
あんな頂点に達したのは本当に久しぶりだ。
恥ずかしい。私達、電話越しに何をしてるんだか……。
でも、今、確信したこと。これだけは伝えたかった。
「シュウ君、私、本当に君のことが大好きだったよ。……たぶん、今も」
「サエコさん……」
電話の向こうのガサガサいう音が収まった。汚れを拭いていた手を止めたらしい。シュウの真剣な声が聞こえてきた。
「サエコさん、オレもね、サエコさんのこと大好きだよ。今、すごいそう思ったの」
「うん」
「でも」
「うん」
でも、の先は言わなくても分かっている。お互い、今いるパートナーの方が大事なのだ。
「お幸せに。シュウ君」
「幸せになってね。サエコさん」
「幸せだから大丈夫」
「はは。ごちそうさま。オレも幸せになるよ」
「はいはい。さっさと結婚しなさいな」
あはは、と笑って、「じゃ、ばいばーい」で電話を切った。
「……シュウ」
切ない。でも……嬉しい。シュウが私を特別に思っていてくれた。ずっと忘れずにいてくれた。それがどんなに嬉しいことか。
でも、もう二度と会うことはないだろう。
もうすぐ夫が帰ってくる。シチューを温め直そう。子供達の布団をかけ直しにいこう。それが私の今の現実の幸せ。たぶん、これ以上はない幸せ。
「サエコさんって家にいるときいつもスカートだったよね? 今もそう?」
「うん」
「じゃ、右手の中指の爪立てて、右足の膝小僧の上クルクル丸かいて」
「何それ?」
「いいからいいから。おまじないみたいなもんだよ。膝伸ばして座ってね」
何のおまじないだ? 訳もわからず、ソファから下りて、言われた通りにしてみる。
「したよ?」
「そしたら、その指を太股の内側をすべるように伝ってきて」
「え」
「いいからいいから。そうしたら下着の横から指を中に入れてみて」
「それって」
それって。
「いいから。してみて。ね?」
シュウの甘えた声。めまいがする。
「……入れたよ」
溜息とともに言葉を吐き出す。思っている以上に、繁みの中が湿っている。
「濡れてる?」
「……ん」
息が苦しい。
「んー。このままだとしにくいから、下着脱いじゃおうか。でも、全部脱いじゃダメだよ。腿の途中まで下ろすだけだよ。その方が感じるんだよね? ね? サエコさん?」
「……バカ」
そんなことまで覚えてるんだ。十年も前のことなのに。
そう。私は全裸で抱き合うよりも、服を着たままのセックスに快感を覚える。恥ずかしくて他の男性に言ったことはないのだが、シュウはなぜかそれをすぐに見抜き、ストッキングをはいたまま、その箇所だけ破って下着の横から挿入する、とか、ブラジャーのホックを外さず、無理矢理乳首の上まで引き上げた状態で愛撫する、とか、私の快楽のツボをおさえたセックスを色々してくれた。
シュウの優しい声が続く。
「濡れてるところで指を湿らせてから、上のクリクリしたところ、ゆっくり丸をかくように触って」
「……あ」
電流が体に走り、思わず声が出てしまう。
「うわ、その声。本物だ。ぞくぞくする。オレも出しちゃお」
たぶん、シュウも全部は脱いでいない。彼も服をすべて脱ぐことは少なかった。
「覚えてるよ。シュウの形。割れ目のところ、指でグリグリってすると、すぐ透明の液が出てくるの」
「ん……出てきた」
シュウの溜息まじりの声。
「覚えてるよ。爪を立てると、ビクビクってなる」
「オレだって覚えてるよ。人差し指でクリトリスを強く押しながら、中指を中に入れて、中で指を曲げると……」
「あ」
ダメだ。声が抑えられない。
「もっと強く……」
思い出す、シュウの愛おしい形。
「ぎゅって強くつかんで……」
「指でかき回して……」
「もっと早く……」
寄せ来る快楽。頭がおかしくなりそうだ。
「ねえ、サエコさん。入れてもいい?」
「……いいよ」
ああ、と天井を仰ぐ。目をつむる。
「あ……入っ……た」
「あああっ」
確かに、シュウを感じた。息が洩れる。中が熱い。熱い。
「動かすよ?」
「ん……」
ゆっくりと腰を動かす。動かすたびに、ちょうど『あたる』。快楽の波にのまれる。
「あ、あ、あ、あ」
言葉にならない。呼吸が苦しい。
「いきそう……サエコさん……は?」
「ん……い……く」
携帯電話を掴む手から汗が流れてくる。電話越しにシュウの快感に溺れる息使いが聞こえる。オレ達、溶け合っている……。
「………あっ」
頂上についた。そして急降下。
声にならない声が出る。大きな溜息。
「うわっ」
同時にシュウの驚いたような声。なんだ?
「ど、どうしたの?」
「いや、ちり紙スタンバってたんだけど、勢い強すぎて、全部受け止められなかった」
「……バカ」
笑いがこみあげてきた。
「早く拭かないと臭くなるよ?」
シュウがあわてて拭いている様子が目に浮かんで、笑いが止まらない。
「うわ~このズボン明日も履こうと思ってたのに汚れちゃったよ。コインランドリー行って来ようかな」
「まだやってるの?」
「うん。十二時までやってるはず」
時計を見ると、もうすぐ十時だった。……夫が帰ってくる時間だ。現実に戻らなければ。
「シュウ君、電話ありがとうね」
「いや、こちらこそ、その……ありがとう。久しぶりに何て言うか……気持ちよかった」
「……うん。私も」
あんな頂点に達したのは本当に久しぶりだ。
恥ずかしい。私達、電話越しに何をしてるんだか……。
でも、今、確信したこと。これだけは伝えたかった。
「シュウ君、私、本当に君のことが大好きだったよ。……たぶん、今も」
「サエコさん……」
電話の向こうのガサガサいう音が収まった。汚れを拭いていた手を止めたらしい。シュウの真剣な声が聞こえてきた。
「サエコさん、オレもね、サエコさんのこと大好きだよ。今、すごいそう思ったの」
「うん」
「でも」
「うん」
でも、の先は言わなくても分かっている。お互い、今いるパートナーの方が大事なのだ。
「お幸せに。シュウ君」
「幸せになってね。サエコさん」
「幸せだから大丈夫」
「はは。ごちそうさま。オレも幸せになるよ」
「はいはい。さっさと結婚しなさいな」
あはは、と笑って、「じゃ、ばいばーい」で電話を切った。
「……シュウ」
切ない。でも……嬉しい。シュウが私を特別に思っていてくれた。ずっと忘れずにいてくれた。それがどんなに嬉しいことか。
でも、もう二度と会うことはないだろう。
もうすぐ夫が帰ってくる。シチューを温め直そう。子供達の布団をかけ直しにいこう。それが私の今の現実の幸せ。たぶん、これ以上はない幸せ。