*本編のネタバレになります。
「巡合」のラストの裏話です。
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12月23日月曜日
午後5時過ぎ、浩介さんがうちを訪ねてきた。部活の帰りらしく大きなカバンを持っている。
あいにくお兄ちゃんはお姉ちゃんのうちに行っていて留守、と言うと、浩介さんは玄関先でへなへなと座り込んでしまった。
「あーもうダメだー」
とかなんとか、ボソボソと独り言を言っている。
とりあえず上がるようすすめると、真面目な浩介さんは「女の子一人(両親も出かけていていなかった)の家に上がるわけにはいかない」と言い張るので、結局玄関で話をすることになった。
「で、どうしたの?」
お兄ちゃんには内緒にするから話してみて。と言うと、浩介さんはうーんうーんと悩んだ挙句、
「絶対に内緒にしてね」
と、念を押してからポツリといった。
「慶に、さけられてる……」
「さけられてる?」
そのわりには、校内ではいつも二人でいるのを見かけるし、写真部にもちゃんと二人で顔をだしてたよね?
そう言うと、浩介さんは、さらにうーんうーんと唸ってから、
「そうなんだけど……どうも距離がある」
「距離?」
「触ろうとするとよけられる」
「あらま……」
そういわれてみると、最近ベタベタ感があまりなかったかも……。
「あーーーーやっぱりあのせいかなーーーー」
浩介さんは頭を抱え込んでいる。これは重症だ。
「なにかあったの?」
「…………」
浩介さんはしばらく玄関の床をじーっと見つめていたが、ようやくボソリとつぶやいた。
「なにかあったっていうか……しちゃったの」
「しちゃった? 何を?」
「……………………キス」
「………………………え?」
なんですと?
「キス?」
「………うん」
「マジで?」
「うん……」
「…………」
ど、どうしよう……。
頭の中がぐわんぐわんしてきた。
「うわあ……」
神様……この世に生を受けたことを感謝します……。
生きててよかった……。
神様、ありがとう……。
「………南ちゃん?」
「あ」
思わず胸の前で手を組んでお祈りのポーズをしていた私。浩介さんからの呼びかけにハッと我に返った。
「あの……それ、いつの話?」
「後夜祭の時……」
一か月半も前の話じゃないの。
「無理やりしちゃったってこと?」
「いやいやいやいや」
浩介さんが慌てて首を振る。
「話ししてて……なんか自然に……」
「ほー……」
後夜祭……キャンプファイヤーの火に照らされる二人の姿……。
「………」
くっそーーーーっ!なんでその現場見逃したんだ私!!!
内心のグルグルを押し隠して、浩介さんに問う。
「で、そのあとそのキスについて何か話した?」
「話してない。なかったことになってる感じ……」
「なるほど。で、ギクシャクしてる、と?」
「うん……」
お兄ちゃん……なんでここで逃げるのよ。情けない。
「で、浩介さんはどうしたいの?」
「どうって?」
「お兄ちゃんと付き合いたいの?」
「-----ええええええ!?」
浩介さんが飛び上がる。
「そ、それは……っ」
「だってキスしたってことは、好きってことでしょ?」
「えっえええ?! で、でも……っその……っそれは……っ」
気の毒なくらい真っ赤になっている浩介さん。
「あの……っ」
まあまあ落ちついて、と浩介さんを座らせる。
「前に浩介さん、バスケ部の美幸さん、だっけ? 好きだったよね?」
「………あー……」
「彼女に対する気持ちと、お兄ちゃんに対する気持ちと、どう?同じ?」
「あー……うー……んと……」
浩介さんはしばらくうーんうーんと唸ってから、
「美幸さんは見てるとふんわり癒されて……ずっと見ていたい、とは思ったけど……」
「じゃ、お兄ちゃんは?」
「慶は………」
浩介さんはカバンのひもを無意味にガシガシと引っ掻きながら答える。
「一緒にいたい、と思う。だから今落ち込んでんの」
「今も一緒にいるじゃない」
「そうなんだけど……一緒にいて、頭なでたい、とか思ってて……。けど、さけられてて……」
「なるほど」
それじゃ。
「抱きしめたい、とか思う?」
「………思う」
「キスしたい、とか?」
「…………うん」
「それ以上のことも、とか?」
「それ以上って?」
浩介さんが眉を寄せる。
「男同士でそれ以上って何するの?」
「あー……」
そりゃそうだ。ノンケで真面目な男子高校生が男同士のそれ以上なんて知るわけないがな。
「まあ、それについては、必要とあらばおいおい説明します! とりあえず、今、大切なのは、浩介さんの気持ちよ!」
「おれの……気持ち」
「お兄ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「慶のこと……」
ふっと浩介さんの目が遠くを見つめた。
「中3の時からずっと憧れてた。高校入って友達になれて、いつも支えてもらってて……大好きだよ」
「友達として?」
「だと思ってたんだけど……」
「友達とキスしたいとは普通思わないわよね」
「うん………やっぱり普通じゃないよね」
浩介さんは大きくため息をついた。
「昨日今日と連休で慶に会えなかったじゃない? なんかおれ頭おかしくなりそうでさ、それで我慢できなくて来ちゃったんだよね……」
「そうだったんだ……」
「ま、会えたとしても、また近づいたらよけられて、それで余計に悶々としちゃうんだろうけど……」
「あのー……」
はい、と手を挙げる。
「思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと」
「思い?」
「抱きしめたいって思ってる。キスしたいって思ってるって、言えばいいじゃない」
「それは………っ」
浩介さんがビックリしたようにこちらを見た。
「そんなこと言って、嫌われたら……」
「そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?」
「…………」
「お兄ちゃんのこと……好き、なんでしょ?」
「…………」
こっくりと浩介さんが肯く。
よっしゃ!という内心のガッツポーズは押し隠し、浩介さんの肩をポンポンとたたく。
「6時頃帰るっていってたから、今から駅で待ってればお兄ちゃんに会えるはずよ」
「…………」
「駅前のクリスマスツリーのイルミネーション、すごく綺麗なの。告白にはバッチリのシチュエーションよ」
「南ちゃん………」
「頑張って!」
戸惑い気味の浩介さんを力をこめて押し出す。
告白……見に行きたいけど、さすがにそこは遠慮してあげるよ、二人とも!
そして夜8時頃、ようやく帰宅したお兄ちゃん。
その顔を見れば、うまくいったということは一目瞭然!
だけど、内緒にするって浩介さんと約束したから何も言わないでおくよ。でもお兄ちゃんの今の幸せは、私の影での支えがあったおかげなんだからね!
・・・
で。以下単なる下ネタです。上記の話から1年7か月後の話。
「南ちゃん、売ってる場所教えてくれれば自分で買いに行くから……」
「ぶぶー。ダメです。教えません」
浩介さん大学1年生。お兄ちゃん浪人1年生。私高校三年生。
お兄ちゃんが予備校から帰ってくるまで時間がある。今がチャンス。
お兄ちゃんと浩介さんが付き合うことになったあと、私は親友・天野っちのお姉さんと相談して、「それ以上のこと」が書かれた本と、その行為がスムーズに行われるためのローションを浩介さんにプレゼントした。報告をすることを条件に。
でも、浩介さんはのらりくらりとかわして今まで話してくれなかった。が。ようやくチャンスが巡ってきた。浩介さんのほうから、あのローションの購入先を聞いてきたのだ。と、いうことは、使い終わるくらいの回数は事をしたって事よね?
「南ちゃん………なにを聞きたいの?」
「んーまず、どちらがどっちなのかってこと」
そう。名付けて、どちらが受か論争。
天野っちと天野っちのお姉さんとそのお友達とかと、よくその話になる。どうやって決めるのだろう?と……。
お兄ちゃんと浩介さんとでいえば、背の高さでいえばお兄ちゃんが受かなと思うんだけど、性格的には案外とお兄ちゃんのほうが男らしいところあるし……。
「慶には絶対に内緒にしてよ……」
「当然です。絶対に話しません」
お口にチャックの仕草をすると、浩介さんはやれやれと息をついてからポツリポツリと話し出した。
初めのうちは、両方試してみた、のだそうだ。
でも、お兄ちゃんが受になることが多くなり、最近は100%お兄ちゃんが受、なのだそうだ。
「それはなんで?」
「なんで……って、うーん……」
「そっちのほうがしっくりくる、とか?」
「うーん、それもあるけど……」
「あるけど?」
「慶、体柔らかいからね。それが一番の理由かも。おれ体固いし」
「……それ関係あるの?」
「あるよ。柔らかくないとできない体位とかあるもん」
「……なるほど」
想像してたら……頭クラクラしてきた。鼻血が出そうだ。ああ、まだまだ未熟だな私……。
「もう、いいでしょ?! 話したんだから、売ってる場所を……」
「いやいや、今回はまあこれでいいとして……はい」
新しいローションの入った紙袋を目の前に突き出す。今回も天野っちのお姉さんが用意してくれたのだ。
「なくなったらまた言ってね」
「だから、教えてくれれば自分で買いに行くって……」
「いいからいいから。お兄ちゃん帰ってくる前にカバンにしまってっ」
「………」
不承不承の顔で浩介さんがカバンにしまう。
今度までに質問事項をきちんと整理しておこう……。
と、思ったのに……。
この件に関して聞けたのは、これが最後になってしまった。浩介さんが大学の友人に聞いたとかで自分で入手できるようになってしまったからだ。ちぇーっ。
まあでもとにかく。二人がちゃんと事をできたのは、そう、私のおかげです!!!
感謝してよ、お兄ちゃん……って思うけど、浩介さんとの約束なので兄には内緒です。私ってば本当に影の支えだわ!
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年末に何を書いているんでしょうか。私^^;
それ以上、の話、今ならネットで調べたりできるでしょうが、当時(慶たちが高2のときは1991年)はそんな便利なものなかったのでね。購入先も調べられないからね。そんな時代でした。
ちなみに慶はそれ以上の方法、知ってました。南の愛読書をコッソリ読んでたから。南が兄が読むように仕向けてたからね。ほーらやっぱり南ちゃんのおかげ♪
は~南ちゃん視点、楽しすぎた~♪
書いてすっきりしたので、今年はこれで書き納めとします。
6月30日からはじまった昔のノート整理。
お付き合いくださりありがとうございました。
無事に全部シュレッターかけ終わりました。
来年からはペースを落として、更新していこうと思います。
次は慶たちが大学生の時の話を書きたいな、と。
それでは皆さま、良いお年を。
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