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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係11

2018年10月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 夏休みが明けても、『村上享吾が渋谷慶をわざと怪我させた』という噂は根強く残っていた。

「出所どこなんだよっ」

と、村上哲成は怒ってくれているけれど、本当のことなんか言えるわけがない。

 この噂をいまだに広めているのは、おそらく……

 村上の親友・松浦暁生だ。


***


 夏休み中の塾の帰り、松浦暁生に呼び止められた。村上哲成は用事があるとかで急いで帰ってしまったため、珍しく、松浦は一人だった。この二人はいつでも二人で一セットみたいに一緒にいるので珍しい。

 松浦は真面目な顔をして言ってきた。

「オレ、今日で塾辞めるんだよ」
「あ、そうなんだ……」

 休み時間に村上と話しているのが聞こえていたので、辞めることは知っていたけれど、知らなかったフリで肯いてやる。と、松浦は視線をそらしてポツリと言った。

「野球に専念しろって言われてさ」
「………」

 松浦は父親の意向で、野球の強豪校である私立N高校の推薦を取ることになったらしい。

「享吾も夏期講習で終わりだよな?」
「いや? 二学期からも続けるけど?」

 松浦の質問に首をふる。
 塾が役に立っているのかどうかはイマイチ分からないけれど、オレの母親は『みんな』がすることをオレもすることを望んでいるので、『みんな』が塾に通う限り、オレも通うことになる。

「そう、なのか?」
「え?」

 なぜか眉を寄せた松浦。何を言いたいのか分からず、オレも眉を寄せてしまう。

 しばらくの奇妙な沈黙の後……

「なんで?」
 松浦が短く、聞いてきた。

(なんで?)

 って、なんで?

「なんでって……」
「お前、この塾通う意味ないだろ?」
「え」

 断言され、戸惑ってしまう。

「そんなこと……」
「あるよな」

 松浦がなぜか、鼻で笑った。そして、ひどく嫌な……、いつもの爽やか野球少年からかけ離れた、嫌な表情になり、吐き捨てるように言った。

「お前、本当はすげえ頭良いだろ」
「……………」
「なんで隠してんだよ?」
「……………」

 それは………

「今日の数学の小テストも、さっさと出来たくせに、先生のところに持って行くの、わざと遅らせたよな?」
「……………」

 …………気がついてたのか。

「こないだの英語のテストは、はじめボーッとしてて、途中からやりはじめてたな。それでも5番目に提出に行けたよな」
「……………」
「その、出来るくせに出来ないフリしてんの、何なんだよ?」
「…………」

 言葉が………出ない。
 そんなオレに松浦は容赦なく詰めよってくる。

「バレてないとでも思ってたのか? ……ああ、テツは気が付いてないけどな」
「…………」

 テツ……村上哲成のことだ。奴のニカッとした笑顔を思い出して、胸がチクリとする。松浦が苛立ったように言葉を継いだ。

「気が向いた時だけやる気出すことにしてんのか? 球技大会の時もそうだったよな」
「…………」
「そういうの、すげえムカつくんだけど」
「………」

 松浦の、いつもからは想像できない、低い声………

「お前、オレのこともバカにしてんだろ? 必死こいて、一番に先生のところに持って行って、くだらないって」
「そんなこと……っ」

 そんなことあるわけがない。
 松浦はいつでも成績上位で、野球部のエースで、学級委員としてみんなをまとめていて……。そんな松浦をバカにする、なんて考えたこともない。

 何とか首を振ったけれど、松浦は、軽く肩をすくめた。

「バスケ部でもそうだろ? いつもスタメン入るか入らないかあたりにいて」
「……………」
「で、渋谷に怪我させて、華々しく活躍って作戦だったわけだ? 大成功だな」
「違……っ!」

 それは違う! そんなつもりはまったくない!

「そんなことしてな……っ」
「したんだろ」
「……っ」

 トンっと肩を小突かれ、よろめいてしまう。

「したんだよ。お前、したんだよ」
「……………」
「最低だな」
「……………」

 なんで……なんでそんな濡れ衣………

 呆然としていると、松浦は冷たい目で言い放った。

「テツは単純だから、お前の言うこと信じてるけど、オレはお前のこと許さねえから」
「……………」

 村上は……あの日、渋谷を試合に連れてきてくれて、本気出せって言ってくれて……。だから、オレはあの日初めて、本気でバスケが出来て、初めてバスケを楽しいって思えて……

「そう言ってる奴、オレ以外にもたくさんいるからな? 二学期からも話題に困んねえなあ」
「……………」

 それ、どういう意味だよ………と聞きたいけれど、言葉が出ない……

「ああ、それから」

 松浦は再びオレの肩を小突いて、オレを真っ正面から見た。

「塾、続けるとしても、テツに構うなよ?」

 なぜか、ニヤッとした松浦。

「あいつはオレの『シンユウ』だからな」
「………っ」

 ゾワッときた。なんだろう……親友って言葉なのに、冷たい、冷たい言い方……

 松浦は嫌な笑いを残して、いってしまった。


(村上……)

 村上のニカッとした笑顔を思い出す。クルクルした瞳を思い出す。

 村上は、オレのことを信じてくれるだろうか……


---

お読みくださりありがとうございました!
暁生君、良い子過ぎて裏があるんじゃね?と思ってらした方、大正解でございます。

続きは金曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。

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