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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係10

2018年10月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 夏休みに入り、塾に通うことになった。駅近くにある総合塾だ。

「みんな通ってるんですって」

 と言う母に強制的に通うことを決められた。母は『みんな』という言葉に弱い。『みんな』がしていることをするように言う。

「一番下のクラスにはならないでね」

 とも言われた。この塾は、入塾する際にテストがあり、選抜クラス・普通クラス・基礎クラスの3つに分けられるそうだ。母は『みんな』がいる『普通クラス』に入って欲しかったようなのだけれども、

(どのくらいダメだと、一番下のクラスなんだ?)

 その基準が分からず、とりあえず普通に受けてみたら『選抜クラス』に入ることになってしまった。

(失敗した……)

 母の少し困ったような顔に、後悔する。その上、指定された教室に入り、さらに後悔した。

「お!キョーゴ!」
 村上哲成が、ニッコニコで手を振ってきて、

「よろしくな」
 松浦暁生が、その横で軽く手を挙げていて。

「………よろしく」
 この派手な二人とは絡みたくないのに……、という心の声は腹の中にしまい込んで、なんとか手を挙げ返した。


***


 渋谷慶をわざと怪我させた、という噂のせいで、一学期の終わりはクラスでも部活でも浮いていたので、正直、塾で学校の連中に会うのは気が重かった。
 でも、『選抜クラス』は半分以上が駅の反対側の学校の生徒だし、うちの学校の生徒も、ボス的存在の松浦暁生が普通に接してくれているからか、塾では特に無視されるということもなく、平穏に毎日を過ごせて助かっている。


「キョーゴは志望校決まってんのか?」
「いや……」
「三者面談の時なんて言われた?」
「あ、いや……」
「こら、テツ」

 しつこくオレに迫ってきた村上哲成の頭に、コン、と、松浦暁生の拳骨が落ちてきた。

「そういうことは聞くなよ。享吾、困ってるだろ」
「えー。なんでー。知りたいじゃーん」

 頭の上から離そうと、松浦の手を掴んだ村上。でも全然離れなくて、「はーなーせーよー」と騒いでいる。それを余裕で受けながら、笑っている松浦。

(この二人、ホント仲良いよな……)

 いつもじゃれ合っている感じがする。そこにオレを巻き込むなって……と思うけれど、席が隣なので離れることもできない。

「やっぱり、白高?」
「…………」
「花高?」
「そう……だな」

 松浦に止められながらも、しつこく聞いてくる村上に、軽く肯いてやる。

 学区のトップは、白浜高校。その下が花島高校となっている。担任には、頑張れば白浜高校に行ける、と言われたけれど、母は、花島高校に行ってほしいようだ。やはり、学区トップ校は、母にとっては負担なのだろう。

 村上は「そっかそっか」と肯くと、いつものように、ニカッと笑った。

「オレは絶対白高なんだ! 去年白高の体育祭いったらさー、応援合戦がすげー面白くて、いいなーって思って。な? 暁生」
「ああ……うん」

 ちょっと戸惑ったように肯いた松浦。それに気が付いた村上が「あ」と口に手を当てた。

「暁生、やっぱり、N高の推薦……」
「まあ……うん……」
「やっぱり、お父さんが?」
「ああ……」

 その後は、二人でボソボソと話し始めたので、聞かないようにしていたけれど、少し聞こえてきてしまった。
 松浦の父親はN高の野球部出身で、息子を自分の母校に入れたいらしい。でも、母親は、学区トップ校である白浜高校に行かせたいらしく、毎晩、自分の進路のことで両親が喧嘩をしているそうだ。

(……大変だな)

 白高に入れるだけの頭の良さと、推薦をもらえるだけの野球の実力があるせいで、両親の喧嘩を引き起こしているなんて。あればあるで悩みになる恵まれた力。やっぱり、松浦暁生は選ばれた人間なんだな、と思う。

 オレは違う。オレは『みんな』の中の1人だ。特別な存在にはなりたくない。なってはならない。




【哲成視点】

 夏休みから、村上享吾も同じ塾に通いはじめた。

 オレの親友・松浦暁生は、村上享吾のことをあまりよく思っていない。オレにも仲良くするなって言っていた。でも、本人は普通に接している。暁生は、嫌いな相手だからといって、無視したり喧嘩したりするような、心の狭い奴ではないからな!
 だから、オレも気にしないで、いつも通りに接することにした。一応、暁生の前ではあまり仲良くはしないけど。


 塾は『選抜クラス』なので、まどろっこしくなくていい。学校の授業だと、そんなの知ってるし!ってことをクドクドやるから面倒くさい。塾はみんな、ガツガツ授業についてくるので楽しい。

 そんな調子で、夏休みは塾づくしと暁生と遊んで終わりを迎えようとしていたのだけれども……

「……ごめんな」

 夏休みの終わり近く、暁生に謝られた。やはり、父親の意向に従って、私立N高校の推薦を受けることにしたそうだ。

 昨年、暁生と一緒に白浜高校の体育祭と文化祭を見にいった際に、生徒の自主性に任された自由な校風を暁生も気に入って「一緒に白浜高校に行こう!」って約束していたから、「ごめん」なわけだ。

 でも、暁生の人生だ。謝る話じゃない。頭を下げ続けている暁生の両腕をバンバン叩いてやる。

「全然、ごめんじゃねえよ! 野球、応援するからな!」
「………うん」

 暁生はしばらくうなだれていたけれど、

「な、テツ」
「?」

 ふいに、両肩を掴まれた。

「お前もN高受験しないか? お前の内申と偏差値だったら、N高受かるだろ?」
「え………」

 切羽詰まったような暁生……初めてみた。

「オレ、テツと一緒の高校に行きたい」
「暁生……」

 それはオレだってそうだし、確かに、N高は成績的には行ける学校ではあるけれど……でも……

「………ごめん」

 今度はオレが頭を下げた。

「私立は、無理だ。うち、金ないから……」
「…………」
「…………」
「…………そっか」

 しばらくの間の後、ポンポンと肩を叩かれた。見上げると、いつもの落ちついた暁生がいた。

「ごめん。変なこと言って。忘れてくれ」
「…………」

 暁生……

 なんでも出来る暁生。勉強もスポーツも、クラスをまとめることも。友達もたくさんいる。女子にもモテモテ。でも、そんな暁生がオレを頼ってくれてる。それはすごく、すごく、嬉しい。

「暁生、高校別々になっても、オレ達は親友だからな!」
「……………そうだな」

 暁生はふっと笑って、ポンポンと頭を撫でてきた。

「オレ達、親友だもんな」
「おお!」

 幼稚園の時からずっと変わらない。オレ達は親友だ。

 ………でも。この日を境に、暁生とはあまり遊べなくなってしまった。
 暁生は高校からの硬式野球に備えて硬式野球のクラブチームに入ったため、塾も辞めてしまい、オレは受験勉強と、合唱大会の準備が本格的に始まったからだ。


***


 二学期になって数日……せっかく落ちついていた、「村上享吾が渋谷慶にわざと怪我をさせた」って噂が再発した。

 出所はどこなんだろう?って腹が立ってくる。腹が立っているのは、渋谷本人も同じで、

「だから、享吾のせいじゃないって言ってんだろ!」

と、いちいち怒っているらしい。でも、渋谷が体育を見学しているのをみると「かわいそう」と思う奴も多いらしく、なかなか噂は消えてくれない。

「気にするなよ?」

 村上享吾に言っても、奴は無表情でうなずくだけだ。せっかく同じ塾に通いはじめたというのに、夏休み明けから更に距離が空いた気がする。

(………なんだろうなあ)

 球技大会やバスケの試合でのあの輝きと、この無表情。どっちが本当の顔なんだろう。

(ホント、よくわかんねえ奴だな)

 でも…………悪い奴ではないってことは、オレは知っている。

 

--

お読みくださりありがとうございました!
あいかわらずBLのL無し。でも、受験生だもんね。勉強勉強! あ、でもその前に、合唱コンクールがはじまります。

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。

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4444日

2018年10月10日 00時00分00秒 | ご挨拶・作品紹介

本日このブログ、

開設 4444日

でございます。

↓↓↓





↑↑↑

4000日の時に、「次は4444日ですかね?」とコメントをいただいたのですが、その時は、まだまだ先だな~~~と思っていたのに、もう来た!!気が付いてよかったー!!
時が経つのが早すぎて……ホントあっという間ですねえ。

長々とお付き合いくださっている方、本当にありがとうございます。
新しく目に止めてくださった方、本当にありがとうございます。

学生時代、誰にも見せることなくノートに小説を書き綴っていたころには、こうして人様に読んでいただけるすっばらしい幸せな将来がくるなんて、想像もできませんでした。
もう、有り難すぎて、どんな言葉で感謝の気持ちを申し上げていいものやら……本当にありがとうございます。

あいかわらずの、大きな事件の起きない「友達の友達の友達の話なんだけど……」のこのブログですが、細々と続けていく予定ですので、末永くお付き合いいただけると幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



追記。
2019年9月13日を持ちまして長期休載に入りました。
↑細々と続けていく予定でしたが状況が変わってしまい……
またいつか戻ってこられたら、どうぞよろしくお願いいたします。



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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係9

2018年10月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 その試合での村上享吾はものすごかった。光のオーラを纏っているようだった。

「享吾、いつもと全然違う」

と、渋谷も目を丸くしていた。渋谷によると、スピードもまるで違ったらしい。


 バスケ部は残念ながら負けてしまったのだけれども、村上享吾の活躍は結構な噂になり、翌日、クラスでも話題になっていた。

「実は享吾君って、かっこよくない?」
「私は球技大会の時から気がついてたよ!」

 なんて女子達がコソコソと話しているのが聞こえてきたくらいだ。


「享吾、すごかったんだって?」

 帰り道、幼なじみで親友の松浦暁生にまで言われた。

「テツ、観に行ったんだろ?」
「うん。すごかったんだよー」

 思い出しても興奮してきてしまう。あの時の村上享吾の、光の塊みたいな姿。あんな風に戦えたらどんなに気持ちいいんだろう……

 伝わらないもどかしさの中、どんなに「すごかった」のかをなんとか説明していたところ、

「そうか……」

 なぜか暁生の瞳が曇った。……何?

「どうかした?」
「いや……嫌な噂を聞いてたから……」
「噂?」

 って、まさか……

「まさか、キョーゴがスタメン奪うために渋谷をわざと怪我させたって噂のこと?」
「……………」
「暁生、信じてんの?」
「………………信じたくはないけど」

 暁生はふうっと大きく息をついた。

「その活躍を聞いたら、本当のことのような気がする」
「でも、荻野も違うって……」
「違うにしても」

 立ち止まった暁生は、眉を寄せて言葉を継いだ。

「渋谷が気の毒すぎる。中学最後の大会だったのに。今までバスケ部引っ張ってきたのは渋谷なのに」
「………………」

 それはそうだけど……でも………

「でも……キョーゴはそんなことする奴じゃねえよ」
「………………。ずいぶん仲良いんだな」
「え」

 ポン、と頭に手を置かれた。

「本当に、享吾って信用できる奴なのか?」
「……………」
「オレも学級委員会で一緒だから、少しは話したことあるけど、何て言うか……つかみどころのない奴だよな?」

 ジッと暁生の目がのぞきこんでくる。

「テツ」
「……………」
「お前は単純で騙されやすいから心配だよ」
「そんなこと……」
「オレはさ」

 ふっと笑った暁生の手が、ポンポンと頭を撫でてくる。

「オレは、テツのお母さんにテツのこと頼まれてるから」
「……………」
「あんま、変な奴とは関わんなよ?」
「暁生………」

 変な奴って……村上享吾は別に変な奴だとは思わないけど……

「分かったか?」
「うん………」

 とりあえず、うなずいた。いつものように。暁生の言うことには、いつもそうやってうなずいてきた。

(でも………)

 村上享吾は、よく分からない奴ではあるけれど、悪い奴ではない。それだけは、オレは、分かっている。

 だから、オレは…………




【享吾視点】

 クラスの雰囲気がまた変になった。また、コソコソと噂されている。

 週明け初日はわりと好意的な視線が多かったのに、2日目からは冷たくなっていき、3日目には、無視してくる奴が増えた。

 理由は、渋谷に怪我をさせた件だ。せっかく噂は落ち着いてきていたのに、日曜の試合で本気を出しすぎたせいで、「やっぱり、わざと怪我をさせたらしい」と言われてしまっている。

(………別にいいけど)

 もうすぐ夏休みに入る。それまでの辛坊だ。

 それに……………

「キョーゴ、キョーゴ! ゴミ捨て一緒に行こうぜ!」
「………………」

 みんなの態度がおかしくなっていく中、村上哲成だけはいつもと変わらなかった。いつも通り、ヘラヘラとオレに絡んでくる。

「………………村上」
「あ?」

 ゴミ捨てに向かいながら、村上に聞いてみた。 

「オレと一緒にいると、お前まで無視されたり………」
「しねーよ」

 肩をすくめた村上。

「したとしたって、ほっとけばいいだろ。別に悪いことしてるわけじゃねえし」
「でも………」
「キョーゴ」

 村上が強い口調で言葉を遮ってきた。

「お前が渋谷をわざと怪我させたんじゃないって、オレは知ってる。渋谷自身もそう言ってたし、現場を見てた荻野もそう言ってた」
「……………」
「お前は悪くない。そのうちみんなも分かるって」

 振り向いた村上。黒目がちな瞳が眼鏡の奥でクルクルとしている。

「だから、気にすんな」
「……………」
「な?」

 村上の、いつもの「ニカッ」とした笑顔………

「……………」

 なんとかうなずくと、村上はゴミ箱を持ち直してまた歩きだした。

(村上………)

 その後ろ姿についていきながら、大きく息をつく。

 やっぱり、お前は変な奴だな……。
 

---

お読みくださりありがとうございました!
すっかり中学生の青春物語。やっぱり「BL」の「L」が抜けてる……そんな真面目なお話をお読みくださり本当にありがとうございます!

続きは金曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係8

2018年10月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


「かなりマズイ感じなのよ」

と、バスケ部の荻野夏希が教えてくれた。

「享吾君、バスケ部女子からだけじゃなくて、1、2年の男子からも無視されてるの」
「え、何で」

 バスケ部女子は、別名『渋谷慶親衛隊』って言われるくらい、渋谷のファンが多いから、渋谷に怪我させた村上享吾が無視されるのは分かる。でも、下級生男子って……

「男子まで?」
「うん。バスケ部男子って、実は渋谷君のファン多かったし……それに変な噂も流れてて」
「噂?」

 荻野はちょっと眉を寄せると、

「享吾君が、渋谷君からレギュラー奪うために、わざと怪我させたんじゃないかって……」
「はあ?」

 意味が分からない。

「奪うって……元々キョーゴだってレギュラーじゃん」
「んー、そうなんだけど、毎回スタメンってわけではないからねえ」
「……………」

 そうだとしても、あの滅多にやる気をださない村上享吾が、スタメンを奪うために人を怪我をさせるなんて、考えられない。

 なんてこと、下級生達は知らないわけか……

「こないだは渋谷君抜きでも何とか勝ったみたいだけど、今の嫌な雰囲気では次の試合はきつそうなんだよねえ。それに、このまま引退は享吾君が可哀想だし……」
「そっか………」

 うなずいてから、ふと、思い出した。

「あれ? 荻野も渋谷親衛隊じゃなかったっけ? キョーゴのこと怒ってないんだ?」
「私は現場見てたからさ」

 荻野は軽く肩をすくめた。

「あれはどっちも悪くないよ。渋谷君の運が悪かっただけ」
「ふーん」

 それでも怒ってる奴はいるだろうけど、そうじゃない奴がいるっていうのは心強いかもな……

「で、テツ君にお願いがあるんだけど!」

 言葉の調子を変えて、荻野が言った。

「野球部って負けたから、もう部活ないよね?」
「…………。嫌なこと言うな、荻野」

 ムッとしてみせる。

 確かに、野球部は負けた。でも、相手は優勝候補の中学で、ピッチャーは市選抜のエース投手で、そいつがこの日はメチャメチャ調子が良くて……。だから、しょうがなかったんだ。

 うちで唯一のヒットは、うちのエース・松浦暁生のレフト前ヒットの1本のみだった。

 それなのに、0対3で迎えた最終回、暁生は、ツーアウトで回ってきた打席をオレに譲ってくれた。

「公式戦に一度も出てないのはテツだけだから、出してやってください」

 そう言って、監督に頭を下げてくれて、「思いきり振ってこい!」って送り出してくれて……

 結果はもちろん三振だったけど、初めて公式戦の打席を経験させてもらえて、中学で頑張ってきた印をもらえた気がした。

 何しろ負けた相手は優勝候補。暁生も他の野球部員もスッキリした顔をしていたし、みんなそれぞれやりきったんだ、と思う。

 でも、これで引退というのは、正直寂しい。まだ引退じゃないバスケ部が羨ましい。

「どうせ野球部は終わりだよ!」

 わざと怒って言ってやると、荻野は「ああ、ごめんごめん」と手を振った。けど、全然反省している調子はない。まあ、荻野はそういう奴だ……

「………だからなんだよ?」
「うん。だから、今度の日曜日空いてるよね?」
「おお」

 肯くと、パチン、と目の前で手を合わされた。

「渋谷君を、今度の試合に連れてきてほしいの」





【享吾視点】

 怪我をした渋谷慶を試合に呼ぶことに関しては、バスケ部内で意見が割れて、結局「呼ばない」に決まったため、誰も誘わないことになっていた。

 それなのに、

「おーい!」
「!!」

 試合が始まる寸前、上からの声に見上げると、渋谷慶と村上哲成が、体育館のギャラリーの手すりから身を乗り出してブンブン手を振っていたため、驚いて固まってしまった。

「渋谷……っ」
「おお!渋谷!」
「渋谷先輩!」

 わあっと部員たちから歓声が上がる。と、渋谷はますます大きく手を振った。

「頑張れよー!」

 渋谷の明るい声に、みんなが嬉しそうに手を振り返している。

 渋谷……元気そうだ。見舞いに行かなくては、と思いながら、行けずにいたので、その変わらないキラキラ感を確認できて少しホッとする。
 ぼんやりと眺めていると、渋谷がオレに向かって、大きく叫んだ。

「享吾!」
「…………」

 渋谷……。渋谷の膝のあたり、サポーターみたいなものが巻かれている。痛々しい……

 本当は、渋谷もここにいたはずなのに。オレとぶつかるのをよけようとしたために怪我をした渋谷。オレがあの時、取りにいかなければ……

 どんな顔をして渋谷を見ればいいのか分からない。戸惑ったまま見返すと、

「おれの分も、頼むな」
「…………」

 渋谷の真剣な瞳に、胸が掴まれたようになる。

 渋谷……。右手に杖みたいなものを持ってる。それに頼りながら歩いてるってことか……
 ああ、オレがそっちにいられればよかったのに。そうすればこんな……

「キョーゴ!」
「!」

 思考を破る甲高い声に、ハッとすると、渋谷の横で村上哲成が、ブンブン手を振っている。

「キョーゴ、本気出せよ! それが渋谷に対する一番の励ましになるぞ!」
「………」

 村上……

 いつものように、『ニカッ』と笑った村上。

「本気、出せ!」
「………っ」

 ぐっと背中を押されたような気がした。

 本気……本気。


 出せるだろうか。




--

お読みくださりありがとうございました!
BLって、ボーイズラブの略ですよね……。なのに、全然、ラブが無い!題名に偽りあり!

でも、きっと、そのうちラブの話も…………ちゃ、ちゃんと出てくるのかなあ。不安で一杯な今日この頃💦

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただきたくよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係7

2018年10月02日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 何が起こったのか、はじめは分からなかった。

 気が付いたら、渋谷慶が呻き声をあげながら膝を抱えて倒れていて、「先生呼んでこい!」と、上岡武史が下級生に向かって怒鳴っていて、女子部員の悲鳴が体育館に響き渡っていて……

 その後、渋谷は顧問の先生に車で病院に連れていかれ、練習は中止となった。

「あれ、ヤバイかもな……」
「来週の試合、どうすんだよ」

 みんながボソボソと話している声が遠くから聞こえてくる。頭の中が真っ白だ。体が固まってて動かない……

「享吾」
「!」

 とん、と肩を叩かれ、現実に引き戻された。振り返ると、眉間に皺をよせた上岡武史が立っていた。

「お前は本当に大丈夫なのか? 一緒に病院行けばよかったのに」
「いや、オレは………」

 オレは尻もちをついたくらいで何ともない。渋谷はおそらく咄嗟に方向転換しようとして、膝に変な負荷がかかったのだろう。避けずにぶつかってしまえばこんなことにならなかったのに……

「渋谷は今度の試合ダメだろ。お前まで出られなくなったら、確実に次に進めなくなる。おかしいと思ったらちゃんと病院行けよ?」
「……………」

 渋谷は今度の試合ダメ……

 すうっと背中に冷たい汗が流れる。

 今日の午前中、他校の体育館で行われた公式戦では、試合終了間際に、渋谷と上岡武史の連携プレーによる逆転ゴールがあり、皆、大興奮だった。

 『緑中の切り込み隊長』とあだ名されている渋谷は、あの小さな体でコートを駆け回り、相手を翻弄し、味方にパスを回していく。渋谷がいたから、今日も勝てた。夏のトーナメント戦、負けたら3年はそこで引退だ。その渋谷が、今度の試合、ダメ……?

「享吾先輩のせいだよっ」
「しーっ! ミコちゃん……」

 再び頭が白くなっていく中で、女子達がコソコソと言っているのが聞こえてきた。

「だって、享吾先輩が強引に止めにいったから!」
「あれはしょうがないって……」
「でも!だからって、渋谷先輩が……」
「…………」

 そう。だからって、渋谷が怪我をすることはない。オレが怪我をすれば良かったのに。

 そんなことはオレが一番そう思ってる。


***


 その日の夕方、顧問から電話がかかってきた。

『膝前十字靭帯損傷』

と、いうのが、渋谷の怪我の名前だそうだ。しばらく入院、折をみて手術、その後、リハビリに通うことになり、再びバスケが出来るようになるには、半年以上かかるという。

(半年以上……?)

 気が遠くなる……。


「享吾……っ、あなたなんてことしたのよ……っ」

 案の定、顧問から説明を受けた母は、オレよりも真っ青になった。

「今から渋谷さんのお宅にお詫びに……何か手みやげ……駅前の和菓子屋さん何時まで……自転車で買いに……雨が降ってるから無理……」

 母は爪をかみながら、廊下をウロウロしている。

「よりによって、どうして渋谷君……あんな派手な子……母親もいつもみんなの中心にいるみたいな人で……あの人に嫌われたら……」
「……お母さん」

 ブツブツ言っている母の腕を軽く叩いて、注意をこちらに向けさせる。

「駅前の和菓子屋はまだやってる。オレ、買ってくるよ。いくらくらいの何がいい?」
「ああ……ああ、そう……そうね。一刻も早くね。すぐにお詫びにいかないと、早く行かないと、でもまだ病院かしら、いないかしら、でもいなくても行くってことが大切よね、こういうのは早く……早く……」
「…………」

 自分の考えの中に入っていってしまった母を置いて、オレはとりあえず家を出た。午後から降りだした雨は、やむ雰囲気はない。パーカーをかぶって自転車にまたがる。

「…………冷たい」

 顔に雨が当たる。でもそれが心地よい。このまま雨に打たれて、溶けてなくなってしまいたい。


**


 母と一緒に渋谷の家を訪れたところ、渋谷の母親はビックリした顔をして出迎えてくれた。

「気にしなくていいのに~。保険おりるし大丈夫よ?」

 渋谷の母親は、サバサバしていて、顔も性格も渋谷にそっくりだ。

「でも、うちの息子のせいで、渋谷君……」
「え、何言ってんの」

 母の思い詰めた顔の前で、渋谷の母親は、ブンブンブン、と手を振った。

「練習中の事故なんて、どっちのせいでもないでしょ」
「でも、享吾のせいだって、顧問の水田先生が……」
「やだ、水田先生、なに言ってんの」

 眉をよせた渋谷の母親。こういう顔も渋谷にそっくりだ。

「享吾君のせいじゃないから。やあね。先生に文句言っとくね。ホント気にしないで。っていうか、享吾君は大丈夫なの?」
「………」

 小さく肯くと、渋谷の母親はホッとしたように、胸に手をあてた。

「良かった。慶も享吾君のことすごく心配してるのよ。退院したら是非遊びにきてね?」
「……………」

 何とか「はい」と返事をする。と、渋谷の母親はニッコリと微笑んだ。

 その笑顔も、渋谷にそっくりだな、と、思う。



 渋谷の家を出てからも、雨はまだ降り続いていた。並んで歩く母は、ずっとブツブツ言い続けている。

「享吾のせいじゃない。享吾のせいじゃないって。それならどうして水田先生はあんな言い方したのかしら。享吾、水田先生に嫌われてるのかしら。でも渋谷さんは享吾のせいじゃないって言ってるんだから、大丈夫、大丈夫……水田先生よりも渋谷さんの方が影響力あるから大丈夫……」
「…………」

(オレ……似てるな)

 どっちの人間についた方が得か、とか考えるところ、そっくりだ。子供はやはり母親に似るものなんだろうか。


『サーンキュー』

 ふと、なぜか、村上哲成のニカッとした顔が頭をよぎった。

(あいつの母親も、ああいう風に笑うのかな……)

 そうだとしたら、村上の家はさぞかし明るくて呑気な雰囲気なんだろう。

 それはそれで、少し、羨ましい。




---

お読みくださりありがとうございました!
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