この季節にしてはめずらしいひんやりとした風が、開け放した窓から吹き込んでくる。
目を覚ました僕は、少し泣いていたみたいだ。ベッドからゆっくりと起き上がり、見慣れた自分の部屋の風景を見回してから、ゆうべ眠る前に入れたハチミツ入りの紅茶の残りを飲み干した。
長い夢を見ていたみたいだ。現実みたいな長い夢・・・そんな表現がぴったりだ。
「パンプキンパイって言ったっけ…あの娘」・・・僕は短いため息を吐きながらつぶやく。
「で・・・オレはビリーブラウンだっけ、赤いブーツの・・・」・・・ほんの少し、口元から笑みが漏れる。
夢の中の感触、空気の匂い、興奮、切なさ…その全部が、目を覚ました今でも本物のように感じる。
全部が夢だったということに間違いはない。なぜなら、ここは確かに脱ぎ捨てた洋服や読み散らかした雑誌や本が散乱した僕の部屋で、実際に僕は干し草を積み上げて作ったベッドの上で眠ってはいなかったのだから。
僕はキッチンに行って冷蔵庫の中を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイが隠れてるかもしれないと想って。
僕は玄関に行って下駄箱の中を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイのサンダルが転がっているかもしれないと想って。
僕は部屋に戻って窓の外を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイが、僕が眠りから醒めるのを待ちながら、近所の子供たちと遊んでいるかもしれないと想って。
僕はギターの弦を爪弾いてハミングをしてみた。もしかしたらパンプキンパイが、「それって新しい唄?」って、嬉しそうに聞いてくるかと想って。
僕は床に頭をつけてガラステーブルの下をのぞいてみた。・・・あっ・・・あった。ひなげしの花びらが一枚。・・・見つけた。あるはずのない一片。まるで夢の続きみたいな・・・パンプキンパイのカケラ。
花びらをそっと手の平に乗せて窓際に立つ。頬にひんやりとした風があたる。僕は少しだけ幸せな気分になって、少しだけ笑った。
「現実みたいな夢じゃなくて・・・夢みたいな夢だったんだ・・・」
さよならパンプキンパイ・・・君と駆け抜けた冒険みたいな旅を忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・君と探した宝石箱みたいな時間を忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・君と出逢ったことを忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・ボクはキミをワスレナイヨ。
(おわり)
目を覚ました僕は、少し泣いていたみたいだ。ベッドからゆっくりと起き上がり、見慣れた自分の部屋の風景を見回してから、ゆうべ眠る前に入れたハチミツ入りの紅茶の残りを飲み干した。
長い夢を見ていたみたいだ。現実みたいな長い夢・・・そんな表現がぴったりだ。
「パンプキンパイって言ったっけ…あの娘」・・・僕は短いため息を吐きながらつぶやく。
「で・・・オレはビリーブラウンだっけ、赤いブーツの・・・」・・・ほんの少し、口元から笑みが漏れる。
夢の中の感触、空気の匂い、興奮、切なさ…その全部が、目を覚ました今でも本物のように感じる。
全部が夢だったということに間違いはない。なぜなら、ここは確かに脱ぎ捨てた洋服や読み散らかした雑誌や本が散乱した僕の部屋で、実際に僕は干し草を積み上げて作ったベッドの上で眠ってはいなかったのだから。
僕はキッチンに行って冷蔵庫の中を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイが隠れてるかもしれないと想って。
僕は玄関に行って下駄箱の中を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイのサンダルが転がっているかもしれないと想って。
僕は部屋に戻って窓の外を覗いてみた。もしかしたらパンプキンパイが、僕が眠りから醒めるのを待ちながら、近所の子供たちと遊んでいるかもしれないと想って。
僕はギターの弦を爪弾いてハミングをしてみた。もしかしたらパンプキンパイが、「それって新しい唄?」って、嬉しそうに聞いてくるかと想って。
僕は床に頭をつけてガラステーブルの下をのぞいてみた。・・・あっ・・・あった。ひなげしの花びらが一枚。・・・見つけた。あるはずのない一片。まるで夢の続きみたいな・・・パンプキンパイのカケラ。
花びらをそっと手の平に乗せて窓際に立つ。頬にひんやりとした風があたる。僕は少しだけ幸せな気分になって、少しだけ笑った。
「現実みたいな夢じゃなくて・・・夢みたいな夢だったんだ・・・」
さよならパンプキンパイ・・・君と駆け抜けた冒険みたいな旅を忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・君と探した宝石箱みたいな時間を忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・君と出逢ったことを忘れないよ。
さよならパンプキンパイ・・・ボクはキミをワスレナイヨ。
(おわり)