ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

ロジャーの時代。

2015-07-14 22:41:56 | Weblog
ウィンブルドンのテニス、かつての王者ロジャーフェデラーがノバクジョコビッチに負けた。
相変わらず、ロジャーフェデラーはいい顔をしていた。ギリシャの彫刻のようなチカラのある顔をしていた。

センセイの想い出を、少し。

僕は主に大宮駅の路上で、詩を書いたポストカードを売っていた。
センセイは絵が上手で、なんでかしらないが、僕の隣で似顔絵を描く商売を始めた。センセイは僕のことが大好きだったから、僕にくっついていたかったのだろうと、想う。停職中で仕事には行かなくてもいいし。暇だし。

センセイが持っているクリアファイルに、色々な人の似顔絵を描いた紙が入っている。
その中に、ロジャーフェデラーの顔があった。
「センセイ、テニス知ってんの?なんでフェデラー?」と僕は聞いた。
するとセンセイは、「昨日偶然テレビで試合を観ていて、なんてチカラのある顔をしているんだ!と、思わず描いてしまいました」

しゅうちゃんのモノマネとは違って、センセイが描いたフェデラーは、とてもよく似ていた。


最近センセイと一緒に飲んだという女の子から連絡が来た。センセイが逝ってしまう二ヶ月前に飲んだそうだ。
センセイは相当病んでいたそうで、その女の子はセンセイに「死なないでね」と言葉を送ったらしい。

それでも、ヤツは死ぬんだよ。そういうヤツなんだね。その女の子がどんなに辛い想いをするかなんて関係ないんだね。そう、そういうヤツなんですよ。
教師なのに生徒に頭突きするし。教師なのに似顔絵を描いて金をもらっているのがバレて処分されるし。


ある時、センセイが僕に言った。
「シング様は、タオに精通されていらっしゃるんですか?」
僕は答える。「タオって何?」

タオとはtao、道。哲学。
タオについて、僕は説明出来ない。なんとなくしか理解していない。なんとなく素晴らしきものだという解釈をしている程度。
センセイは、僕が作るポストカードに書いてある言葉を見てそう思ったのだそうだ。たぶんこんなふうに思ったのだと想う。
「この人は、万物の真理を理解する尊い人に違いない」。シング教、シング教。シング様、シング様。

タオについてはセンセイに教わった。仏教や神道について、日本の神々、八百万の神々についてもセンセイと語り合った。僕らが信じるべき神々の存在について、語り合った。大変気が合う僕らだった。センセイは僕に、知らないことをたくさん教えてくれた。

ある時、突然センセイがこう言ってきた。
「僕はキリスト教に改宗します」

・・・はぁ?

どうにもこういうことらしい。
惚れた女がキリスト教の信者だと。ちなみに、センセイは既婚者の子持ち。

ちょっと、センセイ、センセイ。待って、待って。僕らの神様はさぁ、いつも話していた神様はさぁ。ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ。どういうこと?

すると、センセイはこう言い放った。

「私は、ずっとキリスト教こそが唯一の宗教だと信じていたのです」

真顔で。

taoは?仏教は?八百万の神々は?とか?そういうのはもう要らないらしい。

その後、教会で洗礼を受け、クリスチャンネームを頂いたとかなんとか、ウキウキ顔で小躍りしていたセンセイを、僕は覚えている。

そういうヤツなんですよ、ヤツは。ホントにね。

でもさ、僕はさ、センセイのそういうバカバカしいところが、好きだったんだなぁ。


センセイ、ロジャーフェデラーの時代は終わってしまったみたいだよ。
でもさ、ロジャーフェデラーはやっぱり今でも強いんだよ。惚れ惚れするくらいに強いんだよ。