十一曲目。「スワッグマンズストーリー」(singのアルバム Troubles From Heavenに収録)。
swagman〜
オーストラリア各地を放浪して働いた人々のことである。名前の由来は、彼らが棒で肩にかけて吊るしていた所持品や寝具を指すスワッグswagに由来する。彼らの特徴は、ハエから視界を守るために帽子から吊るしたコルクと、荷物に掛けていたビリー(湯沸し道具)である。
〜オーストラリア辞典より抜粋
世界で一番優しい人の話をしよう。
マークの話をしよう。
マークバクストン、オーストラリア人。
ビクトリア州メルボルンの海沿いの街、セントキルダ。
セントキルダの小さな繁華街、アクランドストリートにはカフェやケーキ屋が数多く並んでいる。ショーウィンドウに並べられたケーキの色は、日本人の僕の目には少し毒々しすぎる。
アクランドストリートからカーライルストリートに少し入ると、そこがブレシントンストリートの始まり。並木道みたいな通りをトコトコと歩いていくと、左側に建つレンガ造りのアパートメントにたどり着く。左右交互順番に数えていって、84個目の建物。
僕の部屋は二階。マークの部屋は一階。
ブレシントンストリート84番地。僕はこの場所でマークと出逢った。
僕は時々マークの部屋のドアをノックした。
マークはメルボルン博物舘で働いているのだが、ミュージシャンでもある。
マークの部屋にはエレキギターやベースギターが置いてある。
僕はマークの部屋を訪れては、音楽の話をしたり、マークの曲を聴いたり、僕の唄を聴いたり、ギターを弾いたりしていた。
時々、マークは僕をパーティーに招待してくれた。マークの知り合いの色々な国の旅人に混じって、一緒に朝まで騒いでいたものだった。
マークは時々、手料理を振る舞ってくれた。白くて長いコック帽をかぶって、手料理を振る舞ってくれた。オーブンで鶏を丸ごとを焼いてみたり、野菜のシチューを煮込んでみたり、手料理を振る舞ってくれた。
マークは、マークが働いている博物舘の裏口から僕をこっそりと招き入れて、博物舘の中を案内してくれた。
マークが休みの日には、「ボタニックガーデンへ行こう!」と言い、植物園へ連れて行ってくれた。
一度だけ、僕がマークを招待して、手料理を振る舞った。伝統的な日本料理だ!と言って、天ぷらを振る舞った。
スーパーで魚介や野菜を買い込んで、マークを部屋に招待した。
天ぷら屋を真似てね。一品揚げる毎に、マークの座るテーブルへ運んだ。「エビです」・・・「ナスです」・・・「マッシュルームです」といった具合にね。
マークはひどく喜んでくれた。喜んでくれた証拠に、マークが他人に僕を紹介してくれる機会があると、必ず天ぷらの話を加えて僕を褒めてくれた。「その天ぷらがな、一種類ずつ、順番に、次々とテーブルに運ばれてくるんだぜ!すごいだろ?」と、嬉しそうに語ってくれた。
僕はメルボルンで四ヶ月を過ごした。
そして、マークに別れを告げて旅に出た。はるか彼方、北へ向かった。
つづく。
「Swagman's Story」
頭から被った毛布の裏には
すり切れたあの娘の写真と世界地図
ポケットにはいつもバーボン忍ばせて
胸には何処で拾ったのか赤い薔薇
ラジカセの中の宇宙に見とれてた
Hey Mr.Daddy Swagman 行ったことのない国
目を閉じて空想の中思い描いてた
Hey Mr.Daddy Swagman 気の向くままに生きて
遠い国に憧れて涙を流してる
星の降る夜には恋を語るロマンティスト
It is mine, it is yours too あふれる想い
繁華街の下ではいつもハーモニカ
吹いてりゃ誰もが目を背けてつぶやく
「あんたらいい気なもんね」とOffice lady
「とっとと地獄へ堕ちちまえ」と三揃えが言う
Everybody hate us always like that
いかしたビートでかき消せ on my mind
なぁ!Hey buddy!So c'mon!
Hey Mr.Daddy Swagman ガソリンスタンドの隅
世界地図を広げて踊り明かしたね
Hey Mr.Daddy Swagman 聞こえて来るRockn' roll
東の空を指さして月に吠えながら
笑顔も痛みさえも分け合って過ごした
It is mine, it is yours tooあふれる想い
Everybody hate us always like that
Everyday we do always like that
風に飛ばされた薔薇の花びら
瓦礫の山の上に昇る Honey moon
We can go anywhere, so c'mon!
Hey Mr.Daddy Swagman 行ったことのない国
目を閉じて海風の中思い描いてた
Hey Mr.Daddy Swagman 気の向くままに生きて
風の匂い探しながら歩き続けてく
星の降る夜には不器用だけどロマンティスト
It is mine, it is yours too あふれる想い
笑顔も痛みさえも分け合って過ごした
It is mine, it is yours too あふれる想い