「1955年(昭和30年)11月の戦後保守合同で結党された自由民主党が54年間担ってきた政権が、2009年(平成21年)9月16日、民主党に交代。」
「民主党は今後実施する事業仕分けにおいて、ODAも対象にするとのことで、大いに歓迎ムードではあるが、従前より不思議でならないことがある。例えば中国。わが国からODAやアジア開発銀行による資金援助を受けながら、他の国に援助を実施している。同じことなら、中国への援助を止めて、中国が援助している国へ、わが国から直接援助を行う方が理に叶っていると思うが、どう思う?」
「どう思う?」って、かなりの無茶振りとは思いますが、わが国のODAについて確認することによって、この問いかけに、少しは応えられるのではないかと思います。
ODAとはOfficial Development Assistance(政府開発援助)の頭文字を取ったものです。政府または政府の実施機関が、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立てるために、資金や技術の提供を行うことです。提供先は開発途上国(二国間援助)または国際機関(多国間援助)になります。
有償資金協力(円借款:貸し付け)についてはOECF(海外経済協力基金)が担当し、贈与についてはJICA(国際協力事業団)が担当しています。
わが国は、戦後はODAの受け手でした。その後、戦後賠償の意味での出し手となり、援助の主旨・理念が整備されて今日に至っています。
中国に対して、戦後賠償がなされていないことを不思議に思われるのではないかと思いますが、終戦後、中国は敗戦国に賠償を求める権利を放棄したからに他なりません。このことは日本国内ではあまり知られていません。(『日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明(日中共同声明)』を覚えている世代の人数が減少している。)
さて、中国のODAですが、2007年10月、米国の対外経済援助研究機関の「グローバル開発センター」が発表した調査報告では、中国の対外援助が年間約20億ドルに上り、アジア、中南米、アフリカなどの諸国への経済援助を増大し始めたことを指摘しています。
20億ドル(2007年当時で約2300億円)は日本の平成19年度(2007年度)のODA総額の約3分の1に相当します。日本は今も中国に年間1000億円(約8.7億ドル)程度の援助を供与しており、中国はその倍以上の額を他国に供与するという奇妙な現象が続いているのです。
質問の着眼点はこのことだろうと思います。
同報告書はさらに中国の援助が欧米諸国や日本のODAとは異なり、受け入れ国に政治的透明性、人権尊重、腐敗防止、環境保護、経済管理の円滑さなどの条件をつけていないことが特徴だとし、その分、自国側の政治、戦略の狙いを顕わにして追求できると述べています。
日本政府は、中国へのODAに関する国民からの批判を受け、有償資金協力(円借款)と無償資金協力について、2008年度を最後に打ち切りとしました。
しかし、国民向けには対中国ODAを削減すると表明する一方で、アジア開発銀行を経由した対中国援助を増加させることでODAを補完する方針を打ち出しています。アジア開発銀行を経由した対中国援助は1986年から2007年までの間に2兆3000億円が行われてきましたが、さらに2008年から2011年までの間に5000億円の資金援助を行うとしています。
54年の永きに亘る自民党政権下での官僚らしく、国民への説明がなされないまま、『アジア開発銀行による資金援助はODAではない』という理屈で、すり替えを見事遣って退けたと言えるでしょう。
2009年11月、米軍沖縄基地撤退による基地跡地の原状復帰費用を日本政府が肩代わりするという、日米政府間での国家機密レベルの密約があったことが明白な事実となりました。
これと同様、戦後のわが国政府と中国政府との間にどのような申し合わせがあるのか知る由も有りません。
わが国政府は、中国は勿論のこと、他の国々に対する援助や協定について、国民に対する秘密主義を早々に撤廃し、実施に至る背景や妥当性を分かり易く十分に国民に説明し、詳らかにする義務があるのではないでしょうか。
〔参考〕
○ 外務省・外交政策・ODAのページ
○ 外務省・ODA総合戦略会議に寄せられた意見の概要