さいたま芸術劇場へ、行ってきました。
蜷川幸雄さん演出、中川晃教さん・美波さん、國村 隼さん、瑳川哲朗さんらによる、エレンディラです。
劇場に入ると、大量のスモークで場内が霞んでいて、蜷川さん演出の舞台を観に来たという実感が湧いてきます。
2回の休憩を含めて4時間10分の舞台がどのように進んでいくのか、早くも気持ちが高まります。
オープニング。
ガーゼの様に薄く、所々が裂けている白い幕が膨らみ、ステージ奥から風が吹き抜けてくる。
アンバーの照明の中、広い舞台の奥から、人々が歩いてくる。
前から2列目の上手の座席からは、ステージよりも少しだけ高い位置から観るため奥行きがとても広く感じられ、幻想の世界に紛れ込んだような世界に息をのみます。
先月の歌舞伎座・十二夜とは違う意味で、時間・空気感を強く感じさせる美しい世界です。
2階席や3階席からはどのように見えるのか、興味が湧いてきます。
もう一つ印象的な効果となるのが、スコールの様な雨。
何度か降る雨が、ライティングとも相まって南米の風土をイメージさせます。
ただし、1列目の方には飛沫が飛んできそうです。
雨が上がると、ステージ上で降って来た水を処理するのが、何とも言えませんが。
彼らは何かを運んでいて、やがてそれは1人の年老いた羽の生えたウリセスと名乗る天使だと解ります。
この年老いた天使の謎を解くところから、話が始まります。
男女の語り手が下手に現れ、淡々と進んでいきます。
中川晃教さん演じる、不思議な力を内に秘めた青年ウリセス。
美波さん演じる、父の死後祖母に引き取られ、祖母の世話をする少女エレンディラ。
2人以上に目が向くのが、まるで『千と千尋の・・・』の湯婆婆をも思わせる様な大柄の瑳川哲朗さん演じる『おばあちゃん』です。
彼女は、実の孫娘エレンディラが招いた火災を償うために娼婦として働かせる、現実的には考えられない人物です。
美しい娼婦エレンディラを求めて集まる男達。
父親と行商の途中、エレンディラと出会ってしまったウリセス。
愛に目覚めた2人は、ついに祖母の下抜け出し、逃避行に。
それも束の間、2人は捕らえられ、引き離されてしまう。
悲しみのウリセスの歌声は、エレンディラの名を呼びながら幕が下ります。
このシーンは、WICKED1幕ラストのエルファバの絶唱にも似た迫力です。
この他にもウリセスが歌うシーンがあるのですが、音響が強すぎて私の位置からは歌声が聞き取り難く残念でした。
エレンディラと2人で歌うシーンも、エレンディラの声がほとんど聞こえてきませんでした。
ミュージカル『モーツアルト』でもタイトルロールを演じているだけに、じっくり聞かせて欲しかったと思います。
実の祖母から娼婦となる事を命ぜられても抵抗をしないエレンディラを、祖母に従順な女の子と思っていたのですが、3幕に入ると様相が変わってきます。
再会したウリセスに対して、『おばあちゃん』と離れる事を決め、『おばあちゃん』を殺す事を決意するエレンディラ。
エレンディラの決意に、願いを叶えようとするウリセス。
しかし、簡単には死に至らぬ『おばちゃん』。
この時、エレンディラの様子がそれまでとは明らかに変わってきます。
ウリセスに向けられた厳しい言葉のと視線に、いったい何が起きたのかと思わされます。
エレンディラを苦しめた『おばあちゃん』が死んだ後、何かに取り付かれたように走り、逃げ去るエレンディラ。
ラストのシーンで、態度が変わったエレンディラとウリセスの秘密が明らかに。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの原作を元にした、南米の不思議な物語の世界で1人の旅人となった気分でした。
まだ始まったばかりのエレンディラ、詳しくは劇場で。