水曜日に「高齢者てんかん」の講演会に行ってきた。てんかんの話を聞くことはめったにないので良い機会だと思うが、出席は少なかった。もったいない。
高齢者はWHOによれば65歳以上になる。「高齢発症てんかん」だと高齢者になってから発症したてんかんで、「高齢者てんかん」だと若いころに発症して高齢になった患者さんも含むので、区別して下さいという。てんかんの発症率は小児期から若年期で多く、その後は低下するが、高齢者でまた増加する。有病率は1%なのでcommon diseaseになる。
てんかん診断のステップは、1)発作性エピソードが本当にてんかん発作かどうか、2)てんかん発作のタイプは何か(全般発作、部分発作)、3)発作の原因は何か。
(発作型)
発作型として、15歳未満では欠神発作・ミオクロニー発作が多いが、大人では減る。65歳以上では複雑部分発作が大部分で、二次性全般化強直間代発作になるのは1/4。その他の型は年齢で変わらない。
高齢発症てんかんは複雑部分発作が多い。その特徴は、不注意・もうろう・健忘など非特異的発作徴候が多い。発作後もうろう状態が数時間から数日続く。側頭葉てんかんが6~7割になる。
(病因)
高齢発症てんかんの病因は、脳血管障害性が最も多く、次に神経変性性(アルツハイマーなどの認知症)。その他は脳腫瘍などがあるが、比率としては特発性も多い。脳血管性は17~69%、認知症性は2~14%と報告で幅が広いが。
発作間欠期脳波は約1/3が正常(日本では15.7%)で、てんかん放電検出率は26~37%(日本では72.1%と高い)。脳血管障害後のてんかんは異常波が出にくいそうだ。
(鑑別) 高齢者での鑑別
鑑別は、失神・TIA・認知症・PNES(心因性非てんかん性発作)・RBD(レム睡眠行動異常)。けいれん性失神convulsive seizureというのもある。
認知症
1)症状の変動でみる(分、時間、日数)。分の単位ではてんかん、日の単位では認知症だが、てんかんでも長いものがあるそうだ。2)認知症として非典型的なものはてんかんを疑う。3)初回脳波が正常な時は、再検あるいは睡眠時の記録をとる、だめならビデオ脳波。
アルツハイマー病の仮設として、てんかん性活動(アミロイドβの問題)がアルツハイマー病発症(タウの問題)に先行するのではという。アルツハイマー病になってからてんかんが発症することもあるが。
心因性非てんかん性発作 psychogenic non-epileptic seizure(PNES)
これは故意に発作を起こしているわけではないそうだ。若い人だろう。提示されたビデオも若い女性だった。
レム睡眠行動異常 REM sleep behavior disorder(RBD)
これは起こせば覚醒して夢の話をする。REM without atonia。てんかんはREMにはほとんどないそうだ(1%くらい)。
(治療)
高齢発症てんかんは、再発率が60~90%ある。高齢者では初回でも治療を開始する(若年者は2回目から治療するが)。1)先行する脳損傷、2)てんかん性脳波異常、3)有意な脳画像異常、4)夜間の発作があれば治療する。
高齢者は他の薬を多く内服しているため、相互作用の少ない薬を使用する。また高齢者は忍容性が低い。新規てんかん薬(2006~2010年に発売)は副作用・相互作用が少ない。トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタムがある。さらに新規のペラパネル、ラコサミドが出ている。てんかん診療ガイドラインご覧くださいという。
高齢者では極少量で開始して、ゆっくり漸増する。中里教授の本には、start low and go slowとある。
ペラパネル(フィコンパ)を販売するエーザイの会だった。普通パンフレットなどをまとめて入口で渡されるものだが、なぜか薬のパンフレット・メモ用紙・ボールペンがテーブルにバラバラに並べてあって自分で持っていく形式だったので、私はメモ用紙だけ持って入った(宣伝になってない?)。ビデオ脳波の影像を多数持っているのは、さすがてんかん講座。
会場の神経内科医から、「レビー小体型認知症で見られる意識変動とてんかん発作との鑑別は?」という質問が出た。それは難しくて、脳波をとってもよくわからないそうだ。専門医レベルの話。