今日は日直で病院に出ている。一昨日の10月4日に下痢・腹痛・発熱で内科外来を受診して、内科の若い先生が診察していた。10月1日から38℃台の発熱があり、翌2日から下痢(水様便)が始まった。
外来で点滴500ml1本を行って整腸薬を処方していた。血液検査で白血球数正常域でCRP1.7だった。BUN17.1・血清クレアチニン1.05だった。体格の良い方で脂肪肝がある。
カロナールを処方されたこともあるが、4日から解熱していた。水様便は続いていて、食事がとれないという。腹部は平坦(肥満)・軟で圧痛はなかった。外来で点滴を2本くらいするつもりで検査も出したが、BUN32.7・血清クレアチニン5.10(eGFR 8)と上昇していた。解熱dして、CRP1.2と微差だが低下していた。炎症のピークは過ぎていたが、脱水症・急性腎前性腎不全に陥っていた。
便培養は提出されていなかったので、スワブで採取した。連休明けまで入院して、点滴を継続することにした。特にこれといった原因食物はなく(覚えていない)、同症状の人も周囲にいなかった。
施行しなくてもいいだろうが、腹部CTで確認すると、小腸~大腸に消化液・便汁が貯留していた。特に腸管壁肥厚は指摘できず、腸間膜リンパ節の腫脹もなかった。カンピロバクター?。
認知症でグループホームに入所している84歳女性が、昼食時に食事(ミキサー食とろみ付)をのどに詰まらせたとして、施設職員が連れてきた。一時的にチアノーゼを呈したというが、受診時は酸素飽和度94~97%だった。施設では吸引ができないそうだ。看護師さんが吸引したが、液体様のものが引けただけだった。
CTで見ると、喉頭~気管~主気管支内に食物らしいものは指摘できない。食道裂孔ヘルニアがひどく、食道上部まで食物が詰まっていて、これは苦しそうだ。1回それを嘔吐した。肺野に浸潤影は(まだ)ないが、誤嚥性肺炎に準じて抗菌薬と点滴で経過をみることにした。
Dr.たけしの本当にスゴい症候診断3 (CareNeTV)
第5回 急性下痢症へのアプローチ
上田剛士先生(洛和会丸太町病院)
下痢
便重量200g/日以上
臨床的には便の正常変化や1日3回以上の排便を目安に下痢とみなされることが多い(確かに定義は難しそうだ)
急性 2週間以内
遷延性 2~4週間以内
慢性 4週間以上
1つの目安で明確な基準はない
急性下痢症のPitfalls
ほとんどの急性下痢は急性胃腸炎であり対症療法のみでよいが・・・
1)薬物や毒物(アナフィラキシーショック・TSS)
2)内分泌緊急疾患(甲状腺クリーゼ・副腎不全)
3)消化管出血
これらを見落とすと死につながる
↓
・全身状態とバイタルサインが重要
・便色の確認を怠らない(直腸診が身を助く)
( 1)2)まで考えることはしてなかった。水様便頻回を確認しないと下痢と言わないことが重要だが、水様便頻回でS状結腸癌穿孔もあった)
下痢ではないが・・・
骨盤内炎症疾患(虫垂炎・腸腰筋膿瘍)でも軟便・頻便はありうる
急性胃腸炎の原因
急性胃腸炎 毒素型
熱がない場合、毒素型の可能性を考える
熱なし+嘔吐型→食品内毒素型(耐熱性)
・ブドウ球菌
潜伏期1~6時間
罹患期間24~48時間
代表的な食品 握り飯、仕出し弁当
・セレウス菌
潜伏期1~6時間
罹患期間24時間
代表的な食品 米や小麦を原料とする焼き飯・スパゲッティなど
熱なし+下痢型→生体内毒素型
・ウェルシュ菌
潜伏期8~16時間
罹患期間24~48時間で回復
代表的な食品 給食のカレー、シチュー(前日の過熱調理食品) 芽胞形成
・セレウス菌
潜伏期10~16時間
罹患期間24~48時間で回復
代表的な食品 食肉製品、野菜、スープ
・毒素原性大腸菌(ETEC)
潜伏期1~3日
罹患期間3~7日
代表的な食品 水・食品の糞便汚染 旅行者下痢症で多い
・腸管出血性大腸菌(EHEC)
潜伏期1~8日
罹患期間5~10日
代表的な食品 牛肉、野菜(スプラウト)
潜伏期で鑑別
6時間未満
セレウス菌、ブドウ球菌
12時間以上48時間までが多い
腸炎ビブリオ、サルモネラ、
毒素原性大腸菌、ノロウイルス
48時間以上
カンピロバクター
急性胃腸炎 大量下痢±発熱±嘔吐型(小腸型)
・腸炎ビブリオ
潜伏期2~48時間
罹患期間2~5日
特徴・代表的な食品 7-9月(夏)の魚介類 1日の最低気温が15℃以上 海水温が20℃で繁殖
・ノロウイルス
潜伏期24~48時間
罹患期間24~60時間
特徴・代表的な食品 11月-4月(冬)の生ガキなど 糞口感染・塵埃感染も
・ノロウイルス以外のウイルス
潜伏期10~70時間
罹患期間2~9日
特徴・代表的な食品 原因を特定することは難しい
体温で鑑別
熱が出ることは少ない
ブドウ球菌、ウェルシュ菌
高熱となる
赤痢、カンピロバクター、サルモネラ
炎症性下痢型(大腸型)
高熱・血便・しぶり腹・激しい腹痛
・(非チフス)サルモネラ(嘔吐→下痢の進行)
潜伏期1~3日
罹患期間4~7日
代表的な食品 牛肉のたたき、レバ刺し、食肉、調理品(特に鶏肉)、うなぎ、スッポン、生卵
・カンンピロバクター
潜伏期2-5日
罹患期間2~10日
代表的な食品 食肉(特に鶏肉)、飲料水、サラダ 続発症としてのGBS
・赤痢
潜伏期1-3日
罹患期間4-7日
代表的な食品 旅行者帰国者、二次感染
・腸管出血性大腸菌(EHEC)
潜伏期1-8日
罹患期間5-10日
代表的な食品 牛肉、野菜(スプラウト)
特徴
サルモネラ、カンピロバクター
高熱・血便・しぶり腹、激しい腹痛の大腸型の急性胃腸炎
腸管出血性大腸菌
無熱性血便が典型的
カンピロバクター、腸管出血性大腸菌
潜伏期は長い
罹患部位による推測
回盲部炎
カンピロバクター、サルモネラ、 エルシニア (亜急性や再発性である場合)ベーチェット病、クローン病、悪性リンパ腫、結核
上行結腸炎
感染性腸炎 腸炎ビブリオ、サルモネラ、カンピロバクター
腸管出血性大腸菌 薬剤性大腸炎左半結腸炎
偽膜性腸炎、虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎
全結腸炎
カンピロバクター、腸管出血性大腸菌
偽膜性腸炎、潰瘍性大腸炎
(サルモネラ腸炎や虚血性腸炎では直腸炎は来さない)
急性下痢症のまとめ
・急性胃腸炎と診断する前に
1)アナフィラキシーショック・TSS
2)甲状腺クリーゼ・副腎不全
3)消化管出血
を否定する
・急性胃腸炎の原因の推定には
48~72時間以内の生もの摂取歴と流行状況の確認が重要
カンピロバクターと腸管出血性大腸菌は潜伏期が例外的に長い
・高熱、激しい腹痛、しぶり腹、血便→細菌性感染を疑う
・無熱性血便→腸管出血性大腸菌を考える
・腹部超音波検査や便のグラム染色→補助診断として有用 カンピロバクターのガルウィング(カモメのようなら せん菌)
それにしても上田先生はすごい。