● 池田賢市・大森直樹・平山瑠子 「安倍政権の一五教育法と教育現場」を読んで
『世界』11月号 須山敦行
◎ 教育は、もともと自分の職業だったので、色んな情報を既知のこととして、進んで読む気持ちはあまりなかった。
この論考を読むと、教育を巡るあれこれの嫌な現象の本質をズバリ突いていて、改めて物事がよく見えるようになる気がした。
◎ 教育を巡る問題は、すぐれて人間、民主主義と関わる生き方の問題であり、フロムの言う資本主義によって疎外された、物を買うことによって生きる人間からの解放の視座がここでも重要になると思った。
事実
星条旗が掲げられ、出征する兵士に手紙を書く米国の幼稚園、小学校
↓
「格差社会(米国)でくらす人々の不満を
戦争と愛国心に『解消』する仕組み」
のなかに、ある
◎ 日本の政府による執拗な教育破壊の提案も、このような本質を持っているものであると把握すると理解可能になる。
第一の特質 財界のグローバル人材要求
財界のグローバル人材要求に直線的に対応
元新日鉄社長三村明夫(元中央教育審議会会長)
「成長の可能性のあるところは海外しかない。
企業は海外に出て行かざるをえない。
これに対応できる人材を求めている
《法案審議と教育現場における実態との隔絶》
現実の小・中・高・大における学生と子どもたちの圧倒的多数は、
グローバル人材となるために日々の生活を生きているのではない。
そうした学生と子どもたちの取り組みを応援するための議論が国会ではほとんど行われていない。
◎ 父母に語ろう。「あなたたちは、お子様を〈グローバル人材〉に育てて欲しいんですか?」と。
《小・中・高・大における日々の取り組みの劣化》
安倍政権下の教育政策が、
あまりにも直線的に財界の要求を受容することによって、
小・中・高・大における日々の取り組みを根底から劣化させていることだ。
◎ ずっと、学校は、教育を劣化させる悪法にさらされて、苦労し続けてきた。
(入試制度、学力テスト、観点別評価、道徳、選択教科、授業時数確保、などなど)
劣化1 小学校英語
「会話の英語」は使わなければすぐ消えてしまう
劣化2 学校の株式会社化
ピラミッド構造化 校長・副校長・主幹教諭・指導教諭
学校に求められているのは
管理職の権限の強化ではなく
(そういうことは、学校から、真面目な教育論からは全く出てこない。いつも、外部から圧力として出てくる)
学校を子ども中心の創造的な学習の場とするうえで、
鍵となるのは、教職員と子どもの決定権だ。
劣化3 グローバル人材養成に特化した教育政策 が
多数の人々を対象とした基本的な教育制度を劣化させることと引き換えに進められている
「複線的」選択機会の確立 「競争原理」
公立小・中の学校選択制の解禁
公立の中高一貫教育の制度化
第二の特質 ノンエリートへの愛国心教育
安倍政権が愛国心教育を重視しているのは、
軍事力を強化する施策との関連もあるが、
第一義的には、
格差拡大と能力主義がもたらす人々の不満が体制への批判に発展することに危機感を抱き、
体制を維持するイデオロギーの役割を愛国心に期待しているからだ。
ロータレントのレッテルを貼られた者は被差別意識をもち、体制に批判的になる恐れがある。
これらの人たちを従順に、分に従って生産に参加させ、経済成長のにない手に」するため
「いじめへの対応」を前面に掲げて、世論の批判をかわしながら、
道徳教育と愛国心教育の強化が進められている。
◎ なかなかずるいが、その通りだ。
戦前日本の愛国心教育の検証 は 重要だ
◎ 戦前日本の愛国心教育の検証を怠ってきたことを、問題視している。確かに、大切な視点だ。教育学者、がんばれ!
第三の特質 公立学校の民間委託
1「速く小さく進める」動き
「構造改革特区法」を利用した、株式会社化
2「遅く大きく進める」動き
教育委員会改革
◎ 注目していかなくてはいけない、重大な変化である。
第四の特質 原発災害下の子どもの軽視
安倍政権の教育関係の立法の中に、原発災害下の子どもの窮状の改善に係わる法は一つもない。
教職員・保護者・市民・マスコミはどうしたらよいか
1 教育再生実行会議(安倍政権下の教育政策の発信源の一つ)
の動向を押さえることだ。
2 中教審の動向についての現状把握と世論喚起が必要だ
今、世論の反対がおきなければ、財界の要求を受容した学習指導要領の第八次改訂が戦後最大規模で行われるだろう。
◎ という危機意識が、今、感じられないのが、危機である。
3 教育政策の基調となっている
「選択」「競争」「自己責任」の価値観が、
多くの人々に内面化され
安倍政権の諸政策を下支えしている事実
についても直視することだ
↓
いま人々の意識は、
教育を消費行動の枠組みでとらえることに
親和性を持ち始めている。
◎ この「教育を消費行動の枠組みでとらえること」という人々への視点は、重要だ。
フロムにあった。人間を、消費行動の主体に過ぎないようにとらえることへの批判。
教育の根底に、人間論、民主主義論が、ずしりとあるのだ。
教師としても、保護者や子どもに浸透している、損得で教育を考える「現実主義」に対して、明るい無限の未来へ進む、子どもの成長を喜ぶことで、対峙してきた自分を思う。
4 だが、
安倍政権の教育政策よりも、
教職員・保護者・市民が
眼前の子どもたちと発見してきた事実と言葉の方が、
実際のに教育史のなかで果たしてきた役割は大きい。
国家が定めた目的から教育を始めるのではなく、
子どもの生活の現実を教育の原点に据えること。
子どもたちが生活の事実から
詩や作文や物語をつくるとき、
人間が生きることを励ますこと。
教育現場の事実をふまえて、
今を生きている子どものための教育論と教育政策を
提起することが、
今日ほど必要とされているときはないと私たちは考えている。
◎ 高らかな呼びかけで、文は終えているが、苦しいが、進むしかないだろう。