『世界』を読む会

寅さんの博も読んでいる『世界』を読んで、話し合おう。

「地方創生」という名の「地方切り捨て」(金子勝)を読んで 巻 和泉

2014-10-30 13:07:10 | 日記

「地方創生」という名の「地方切り捨て」(金子勝)を読んで

                                 巻  和泉

                 (1)

 今「ブラック企業」に働く若者たちのルポを読んでいる。悲惨である。「お前は人間のくずだ」と罵倒されながら、自分の精神を破壊されるまで職場にしがみつく。どうしてだろうと思う。彼らはどうやら過酷な仕事を自分に課せられた試練だと思わされているようで、どんな無理難題でも従順に挑戦しようとする。戦前の軍隊の内務班における古参兵の執拗ないじめを思わせる事態が、戦後の明るい都会のど真ん中の企業で横行している。しかし今やブラック企業は特別な存在ではなくなりつつある。日本の企業全体が総ブラック化するような動きを、安倍政権の労働政策は強めている。軍隊のいじめは、だれも逃げられないという閉鎖された空間で可能だった。しかし現代の企業はそうではない。お互いに自由な契約関係で、偶然に結ばれている関係にすぎないはずだ。したがっていつでも自由に逃げればいい。ところが、彼らは精神と肉体が壊れるまで働き続けるのである。どうして逃げだそうとしないのだろうか。おそらく「終身雇用制」という幻想が彼らを縛りつけているにちがいない。自分の人生は会社での人生とそのまま重なっていて、それ以外の多様な世界と人生が見えなくなっている。少なくとも自分の人生をかける価値を感じられる世界が、これまでの生活のあらゆる場面で他には与えられてこなかったということだろう。都会は自由で豊かであり、田舎は不自由で何もないというイデオロギーをメディアは常にまき散らしてきた。ときに田舎の自然を賛美する番組はあるが、それは自然の賛美であって、そこにおける生活と人生の豊かさを伝えるものではなかった。

 人生は、夢や生き甲斐に導かれて始まり、自尊心や誇りに支えられて展開するものであろう。戦後七十年たって日本の資本主義が作りあげた現実は、働く人々の人生そのものと激しく対立して破壊するものになってしまった。

                 (2)

 安倍政権の新自由主義的な政策は、こうした総ブラック企業化の現実を地方の切り捨てを加速させながらいっそう激しく推し進めようとしている。「地方に雇用を生み出す産業戦略を」という副題をもつ金子論文は、今現実に都会で苦しんでいる若者たちに、新しい生き方の可能性を開く対抗軸として、田舎の生活と人生を構想するきっかけを与えてくれている。

 著者は安倍政権の成長戦略は、二〇世紀の「集中メインフレーム型」の発想から抜け出せないでいるという。したがって安倍政権が打ち上げる「地方創生」は、結局は「格差拡大と地域衰退を加速させ」ることになる。「増田レポートによる『選択と集中』論も、かつて小泉『構造改革』とともに行われた平成の大合併と言われる市町村合併を想起させる」にすぎない。著者はこれに対して、スーパー・コンピューターと情報通信技術の発達を背景にした、二一世紀の「地域分散ネットワーク型」の産業構造と社会システムを提唱している。それは食と農業・エネルギー・社会福祉の自給圏を基礎に構想されている。「地域の中小企業・農業者・市民が出資し、自らの地域資源を活かして、どのような再生可能エネルギーに投資するかを自ら決定する、エネルギー地域民主主義を生み出す」という展望も魅力的である。ただ再生可能エネルギーの買電を電力会社が拒否するなど、原子力ムラの妨害はすでに激しく始まっている。

「六次産業化」という用語をはじめて目にした。「六次産業化とは、地域単位で、一次産業、二次産業、三次産業を垂直的に統合することによって、コストを引き下げるとともに、地域に雇用を作り出すことで所得の向上を図る方法である」という。北海道士幌町や大分県大山町などの例が挙げられている。これに再生可能エネルギーの発電・売却を兼業とする「エネルギー兼業農家」との組み合わせを提唱している。こうした「自立的な地域経済を創り出す」ことを通じて、「農業は誇り高い職業としての地位を取り戻すことができるはずである」とある。大事なことはそういうことなのだ。コスト削減一辺倒、大規模経営による効率的経営というようなかけ声には、農業に従事することの「誇らしさ」が微塵も感じられない。私には「地域分散ネットワーク型」の産業構造と社会システムの中身がすべて理解できたわけではない。しかし目指そうとしている目標には深く共感できるものがある。

著者は論文の最後の部分で「正社員であってもブラック企業で働く若い世代に対して、未来に希望が持てる社会ビジョンを語ることが今ほど必要な時はない」と述べている。その通りだと思う。ただ残念ながら、「地域分散ネットワーク型」の産業構造と社会システムの中身が、まだまだ私の中に明確なイメージで浮かんでこない。このイメージをもっと豊かに、そこに身を置く一人一人の生き方として膨らましていく仕事が必要になっていると思った。

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インタビュー スンダラーム・クマール 「日印市民の連帯で原子力協定にNoを!」を読んで

2014-10-26 17:39:09 | 日記



● 10月号 インタビュー スンダラーム・クマール 「日印市民の連帯で原子力協定にNoを!」を読んで

                                    須山敦行
                                       
◎ 《全体的な感想》

 首相が原発外交を進めて、インドと何かをしたようだが、その実態を知らなかったが、理解することが出来た。大事な事実を知ったことは、嬉しいことだ。
 日本の皆さん、頑張って下さいと、まっすぐに訴える、まっすぐな言葉が、心に入ってくる。
 国内の私たちに悪い政治を行う政府を持っているということは、世界に害を及ぼす政府を持っているということなのだ。私たちが民主主義のために努力することは、世界の平和、世界の幸福のためでもあるんだ。


◎《内容の要点》

インドに対するダブルスタンダード

核開発を進めるイランや朝鮮民主主義人民共和国への国際社会の対処と比べると、明らかに二重基準(ダブルスタンダード)です。核実験を強行したが、非難どころか、国際社会から六番目の核兵器保有国との称賛を受けたのですから。
インドは、諸外国が原子力に関連する規制を撤廃し、核兵器保有国と認めるのと引換えに、原子炉の大量輸入を約束したと言えます。
インドは、世界の原子力産業の復活(「原子力ルネサンス」)のための巨大市場とみなされたのです。


日本どうした 安倍君どうした Ⅰ核兵器開発競争の激化

日本は1945年の敗戦以来、平和主義の中心とみなしたNPT体制の擁護に努めてきた国です。その日本がなぜNPT体制を完全崩壊させようとするのでしょうか。日本が協定合意によりインドを「核兵器国」と認めることは、重大かつ誤ったメッセージを世界に発することになります。

日印協定は、ただの二国間協定であるだけでなく、世界に非常に大きなインパクトを与えることになります。日印協定が締結されれば、インドはさらに原発と核兵器増産を手に入れることができます。

日本どうした 安倍君どうした Ⅱ原子力ルネサンスに関わって

GEと日立の合弁子会社が四基の原発を輸出
東芝の子会社であるウェスチングハウスにも原発輸出計画があり
フランスのアレバと三菱重工業の合弁会社はジャイタプールでの原発を一万GWの「世界最大の原理力パーク」とうする計画を推進しています。
このように欧米諸国から発展途上国への前近代的な進出、それも原発での経済進出が行われようとしている。
残念ながらそうした動きの中心にいるのが日本企業です。

どうしてフクイチ事故の責任も負わないメーカーに原発を輸出することができるのでしょう。
そして、企業の金儲けのため、日本という尊敬される立場を捨ててしまうことがよいのでしょうか。

安倍首相は、核搭載可能なミサイルが目の前をパレードするのを、インド大統領と並んで観閲したのです。

私たちは、こうした安倍首相の政治姿勢を含めて、反対行動を行いました。
「安倍さん、あなたは歓迎しますが原発はいりません」。
このプラカードを全国の人びとが掲げ、写真を撮り、それをネット上で世界へ広めました。
http://www18.ocn.ne.jp/~nnaf/126x.html
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/41c7ca6716449e607857f3f92a995447
http://blog.goo.ne.jp/mayumilehr/e/fc957a10b3ece8fbf6d0855d133f1f8b


日本の皆さんへお願い

私たちが日本に求めているのは、再生可能エネルギーの技術、いまある老朽化した原発を廃炉とする技術です。

日本の人びとにお願いします。
どうか、インドに原発を売らないで下さい。
安倍首相に原発輸出をやめさせることができるのは、有権者である皆さんです。

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苫米地真理 「尖閣『固有の領土』論を超え、解決の道をさぐる」を読んで

2014-10-19 18:40:57 | 日記

● 10月号 苫米地真理 「尖閣『固有の領土』論を超え、解決の道をさぐる」を読んで

                                       須山敦行

◎ 《全体的な感想》

 問題を分かりきったこと、検討に値しないこととしないで、冷静に経過を振り返って、一から改めて考える姿勢を持っている。自分も、きちんと理解しているわけではないのに、何となく分かったような気持ちでいたが、経過をたどって再検討することで、大事なポイントを把握することができた。
 この問題では、「国益」を優先する「政治主義的」対応や、ある側に立った対応になりがちであるが、人気や受けよりも、事実を大切にする立場であり、それだけに、大いに参考になるものだった。
 そして、具体的な対応策まで提示しているのが、素晴らしい。
 筆者の「尖閣『問題』への処方箋」は、現実的であり、賛成だ。

 

◎ 《内容の要約》

外務省HPの見解

 外務省HPの見解は、
「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在していません
という立場である。
 
 しかし、この立場の問題点は、
 1895年 尖閣諸島を編入する閣議決定、の後、日本政府は、一貫してこれらの主張をしてきたように考えがちであるが、実は、1895年の閣議決定の根拠を「先占の法理」と表明したのは1972年になってからである。
ということだ。


「棚上げ」方式の対応の現実

 実際には、日本政府によって「棚上げ」方式に基づいた対応がなされていた。

※「尖閣問題は『棚上げ』するとの暗黙の了解が首脳レベルで成立したと理解している」(1972年9月日中国交正常化交渉当時の外務省条約課長・栗山尚一)


2010年9月の漁船衝突事件から

 ところが、2010年9月の漁船衝突事件において菅内閣は、
それまでの「暗黙の了解」である「棚上げ」に基づいて行ってきた実務対応を、公式見解である「領有権問題も棚上げも存在しない」に合わせて実施してしまった
 それにより、中国側に、これまでの〝暗黙の了解〟を変更するのではないかとの疑心を抱かせ、解決を困難にしてしまったのではないか。
 そして、2012年9月の尖閣「国有化」以降、中国による尖閣諸島の実効支配も視野に入れた行動が目立っている。
 この状況下において、自国に有利な事実のみを根拠に論争を続けていては、不測事態を防ぐことが困難になるだろう。


領有権主張の背景 石油資源

 1968年 国連アジア極東経済委員会とアジア海域沿岸鉱物資源共同探査調整委員会の提携による海底調査の結果、豊富な石油埋蔵の可能性があることが明らかになった。
 そこで、「中国や台湾の領有主張は、石油が出てからの後出しジャンケン」だ的な言説は、日本領有の根拠として巷間に流布している「定説」である。
 しかし、1970年9月までは、日本政府も領有権について主張していないのである。
 72年9月の国交正常化交渉で周恩来が述べたように「石油が出る」からこそ、日本も台湾も中国も注目したのである。


「棚上げ」の歴史的事実

 日本政府は一貫して「棚上げ合意」の存在も否定している が
 1978年8月に日中平和友好条約を締結した園田直外相は、
 沖縄開発庁などが行った調査開発に中国側が抗議したことに関して、79年5月30日、当時の政府見解とは異なる視点から以下の答弁をしている。
 「棚上げ」を主張した小平発言を評価しながらも、政府見解として否定している「棚上げ」という言葉を使うわけにはいかず、「あとの答弁はお許しを願いたい」という言外から「棚上げこそ国益なのだ」という園田の〝思い〟がうかがえる名答弁である。

※ 〈 日本の国益ということを考えた場合に、じっとしていまの状態を続けていった方が国益なのか、あるいはここに問題をいろいろ起こした方が国益なのか。私は、じっとして、小平副主席が言われた、この前の漁船団のような事件はしない、二十年、三十年、いまのままでもいいじゃないかというような状態で通すことが日本独自の利益からいってもありがたいことではないかと考えることだけで、あとの答弁はお許しを願いたいと存じます。
 私は有効支配は現在でも日本の国は十分やっておる、こういう解釈でありまして、これ以上有効支配を誇示することは、実力で来いと言わぬばかりのことでありますから、そのようなことは日本の国益のためにもやるべきでない 〉(衆議院外務委員会)


「日清戦争」と閣議決定

 1895年に、1885年に最初に上申してから10年後に閣議決定したことは
「10年前は弱小国日本としてアジアの超大国中国に遠慮しなければならなかったのに反し、中国が弱体化したため遠慮の必要がなくなって、正しいと信じたことを実行できた」のだろう。
 それゆえ、
「日本が、日清戦争の最中の火事場泥棒の如く、下関条約という正式の両国外交交渉の場で尖閣諸島の領有権画定が問題となる前に、近代法の知恵を利用して『無主物先占』宣言をあえてした」と中国側が認識することを、「100%間違いである」と断定するのには躊躇せざるを得ない。


中国側の弱点

 一方、中国側の主張の最大の弱点は、1971年になってから唐突に領有権を主張しはじめたことである。
 しかも、1945年には米国や英国と並ぶ戦勝国であったにもかかわらず、中華民国は尖閣諸島の返還を求めなかったのである。


筆者の見解

 筆者の見解は、先占の法理だけを根拠に日本の領有を主張するには無理があると考えるが、中国が1971年に至るまでに日本の領有に対して一貫して抗議を行わなかったという事実に鑑み、日本の主張に分があるというものである。
 したがって、尖閣諸島は日本の領土である


筆者の提案

 だが、上述した歴史的経緯と1970年になってから領有権を主張したことを考慮すれば、中国側の主張をすべて退けるのではなく、領有権問題の存在、少なくとも「主張の違い」を認めた上で、「新たな棚上げ論」による現状凍結の明文化を提起したい。

 2012年の尖閣「国有化」以降、
中国も実行支配をするのだという姿勢を示している。
しかし、それでも現段階においては、日本の実効支配の度合いが強いのが「現状」である。
中国側がこれ以上の実効支配を強めることのないよう、この「現状」を凍結することが、日本に有利な条件であり、国益にかなう。


落としどころ

 習近平国家主席は、2013年7月30日
 「『主権はわが国に属するが、争いは棚上げし、共同開発する』との方針を堅持し、相互友好協力を推進し、共通利益の一致点を探し求め、拡大しなければならない」(中国共産党中央政治局の第八回集団学習会)と述べている。同時に、国家の核心的利益は犠牲にできないとも言及し、海洋権益を断固として守るよう指示したという。
 つまり、
 中国側は力による一方的な実効支配を目指すのではなく、「棚上げ」と「共同開発」を問題解決の〝落としどころ〟とすべく探っているものと考えられる。


尖閣「問題」への処方箋

 まず、尖閣諸島の現状凍結を明文化し、さらに調査開発などについては進め方を協議すべきだ

※「国家の領土と主権は分割できないが、天然資源を分かち合うことは可能である」(馬英九台湾総統)

 双方の主張の違いは棚上げにし、資源問題は共同で行うことを目指して話し合いのテーブルにつくべきである。

 自民党が先の総選挙での公約に掲げた「公務員の常駐化」や「周辺漁業環境の整備」など、現状を変更する行為は行わないことをまずは水面下で約束し、「現状」を維持し凍結することを確認する。

 防衛当局間による「不測の事態の回避・防止のための取組」を進展させる。
 日中防衛当局間の海上連絡メカニズムを構築し、「海上事故防止協定」を締結すべきだ。

 「尖閣諸島は日本の領土である」ということは、あらゆる手段を尽くして主張しつづけ、国境を画定するための交渉をすべきであるだろう。
 両者の主張が異なる領土問題を永久に棚上げすることは、かえって問題を抱えつづけることになりかねない。
 「〝合意がないという事実〟から出発して、いかに合意できるかを考え」、何らかの形で国境を画定するための努力をすべきである。
 → 名嘉憲夫の著作に多くの示唆がある。

※  名嘉憲夫『領土問題から「国境画定問題」へ』明石書店2013年

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《 10月号 私の注目した三点 》

2014-10-15 19:37:23 | 日記



《 10月号 私の注目した三点 》

● 巻和泉   ・「さらなる『選択と集中』は地方都市の衰退を加速させる」 岡田知弘
         ・「『地方創生』という名の『地方切り捨て』」 金子勝
         ・「魅力にあふれた『消滅する市町村』」 大江正章

● 須山敦行 ・「尖閣『固有の領土』論を超え、解決の道をさぐる」 苫米地真理
         ・「日印市民の連帯で原子力協定にNoを!」 スンダラーム・クマール
         ・「『地方創生』という名の『地方切り捨て』」 金子勝

 

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10月例会、なんとかやった。11月に期待!

2014-10-12 18:25:13 | 日記



人が来ない。
孤独な会なのに、大丈夫か?
10月、やったのか?
なんとか、複数参加でやりました。
でも、喫茶店のオーナーに、次回は予約席を半分にしてもらいます、と言われてしまった。
どうしよう? 何か人を集めるいい手はないか? という私に、M君が「長い目でやろう。」とありがたい忠告。
少なくとも、参加している私には、とても勉強になっている。
めげず、来月もやります。
第2水曜日ですよ。 

◎ 『世界』を読む会  11月例会 の 予定

● 日 時 11月12日(水) 午後7時
● 場 所 喫茶アンデス 練馬区豊玉北5-17-9 井上ビル 2F
      電話 03-5999-8291
     お店を予約しています。
        練馬駅[A2]から徒歩約0分  
● 持ち物 雑誌『世界』11月号
● 連絡先 須山
      suyaman51@mail.goo.ne.jp

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