読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

暴かれた地域医療の実像

2011年06月30日 19時30分26秒 | ■読む
伊藤恒敏著、日本医療企画刊
千葉県銚子市立総合病院の再建を模索した経過と、それを取り巻く銚子市での騒動を記録し、論評した著作です。著者は東北大学医学系に所属する教授です。ある時、「地域医療-医師の偏在について」と題したシンポジウムで演者となった著者は、その時の聴衆の一人であった銚子市議会議長から、後日、銚子市で医師不足に関するセミナーでの講演を依頼されます。
その時点で銚子市立総合病院の経営は危機に瀕しており、再建計画が策定されていましたが、実効性のない内容であったとのことです。また、病院の立て直しが、過去の市長選での争点となっており、市政の重要課題でありながら、打開策が見いだせない状況にあった。そうした渦中に足を踏み入れた著者は、やがて、市からの要請を受け、周囲の反対を押して病院の再建への道を模索する動きに身を投じて行きました。
しかし、その後、病院の経営が更に悪化し、市が適切な措置を取らなかったために、市は病院を廃止せざるを得ない状況に追い込まれます。その時の市長が選挙公約で「絶対につぶさない」と約したにもかかわらず廃止になったため、やがて市長のリコール運動が起き、実際に市長は失職してしまいます。そして、その後の市長選では、前市長、元市長に加え、リコール運動で活躍した人々が立候補し、元市長が当選します。
しかし、病院の破たんを招いたのは、この当選した元市長が以前の在職した時代の失政によるものと、著者は判断しています。そして、一連の騒動を通じて、一部の市議会議員の無責任で無見識な放言、医療問題に十分な知識を持たないで政策をアピールする政治家(市長立候補者)、政治家に依存して、自ら学び考えようとしない無責任な市民に、著者は憤りを覚えます。
最もな話です。今回の震災で日本人の美徳に世界の賞賛が集まりましたが、その一方で、物事の本質についての考察や、様々な事柄に関する議論の習慣を持たない日本人の特質は、混迷を極めている日本の政治状況とあいまって、将来の日本の在り方に大きな障害要因となるのではないかと思います。
今日では、医療だけでなく、社会福祉のすべての分野で必要となる莫大な費用を、増税で賄うしかないことが誰の目にも明らかであっても、不安定な政権基盤であってみれば、失点を被るこうした決断は困難であり、政治的なリーダーシップを発揮する資質を持つ政治家も不在です。そうした折、目の前に大きな陥穽が待ち受けているのに、毎日毎日、その破滅への道を歩き続けている私達日本国民の在り方にこそ、問題があることを、本書は指摘しています。
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URL => http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200901084061851671
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評価は4です。

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