読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

隠蔽捜査

2009年07月10日 20時05分03秒 | ■読む
今野敏著、新潮文庫刊。
今野さんの作品を初めて読みました。良かったです。登場人物が類型的ですが主人公の歪んだ性格が非常に魅力的です。こうしたヒーローに初めて巡り会いました。今野さんの情報は下記のURLで大まかな様子が分かります。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/今野敏
     http://www.age.ne.jp/x/b-konno/
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しかし、本作では、格闘の描写などの圧倒的な魅力はまったくありません。よって、人がどう生きるべきか、という少しく重苦しいテーマを孕んで物語が進んで行きます。生まれ落ちた時から持ち合わせた、肉体的・精神的資質に成長の過程で加わる様々な刺激によって私たちの精神世界が形作られて行く。そのことは避けようのない道筋ですが、その有り様は一人一人異なります。主人公は幼少期に負った心の傷をバネにして、刻苦精励の果てに国家公務員試験の上級職を突破し、エリートとして仕事に励んでいる。ありがちです。
本作の主人公はかなり変人です。家庭は妻が取り仕切る世界で、自分はエリートとして国家の治安に全身全霊を捧げる。そして、常にベストを尽くし手抜きをしない。自身の出世は、より高く幅広い権限を手に入れて、国家のために働くための手段と心に決めています。もちろん、労苦に対する報酬は人並みに望みますが、他人からは何を考えているのかわからない変人と見られています。(無論、直属の部下や新聞社の幹部などの一部の人は、その愚直さに心を寄せていますが。)
不器用に生きることしかできない主人公は「原理原則に従うことが最善である」と考えますが、周囲は「建前しか言わない」と評しています。しかし、本人は他の生き方は知らないし出来ないのです。「もっと大人になれ」をいう周囲の忠告に揺れながら、自身の信念に従うしかない性。心が揺れる。そうして到達した結論に従って、自分の利害を勘定に入れずに行動する。ちょうど宮沢賢治の「雨にも負けず」の主人公のように。
貫くことの難しい生き方ですが、私にとって手本としたい生き方です。
評価は5です。

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