読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

捕食者なき世界

2020年10月13日 10時10分46秒 | ■読む

ウィリアム・ソウルゼンバーグ著、文春文庫刊
地球上では、多様な植物が太陽光を利用して、水と二酸化炭素を光合成により炭水化物を生み出しています。その植物を食べることで生きている生物がおり、更にその生物を食べて生きるいる生物がいる。この食物連鎖の上位に立つ者が捕食者で、ある環境、場所において頂点に立つ生き物を頂点捕食者と言います。
そのような成り立ちから、生物は植物を底辺としたピラミッド型の生物の存在のパターンを思い描いていました。そこでは、ある階層で生存可能な生物の数は、より底辺の生物の生存数によって存在が規定されるということです。

しかし本書では、頂点捕食者を人間が排除することによって、それより下位の階層生物が減少し豊かな自然が失われことを明らかにした生物学者の活躍を描いています。つまり、上位の捕食者が存在しなくなると、ピラミッドの下位の階層へ複雑な影響を及ぼし、多くの場合、豊かな生命世界が失われ、自然環境が破壊されることがあることが明らかにされたのです。

例えば、アメリカのイエローストーン公園では、オオカミなどの頂点捕食者が駆除されることによって、被食者であるシカの数がとんでもなく増え、食べられる範囲の植物をことごとく食い尽くし、その失われた植物(若木を含む)によって確保されていた環境が失われて、鳥類、昆虫、小さな動物などが生息できなくなり、川の堤防を守っていた植物が失われて、堤防の崩落を招いたとのこと。他の地域からオオカミを連れてきて、回復の途上であるとのことです。

多様な生物相は、食物連鎖で形成される生物全体によって支えられているので、ある生物を駆除したり、本来存在しない生物を持ち込んだりすると、その環境が変わることは考えてみれば当然です。しかし、頂点捕食者の存在が、これほどに大きな働きを有していたことは予想できないことでした。

本書では、氷河期に、ユーラシア大陸からアメリカ大陸に移動した人類の祖先が、アメリカ大陸に生存していた大型生物(その多くが頂点捕食者)を殺し尽くしながら南進したことも紹介しています。農耕が始まる前のできごとで、動物を、特に大きな動物を殺して食料を手に入れていたのでしょう。地球上の最上位にいる頂点捕食者である人間は、農耕技術を取り入れたことにより生き延びましたが、以上の経緯を振り返ってみると、人類の悪業は計り知れないと感じました。
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捕食者  ○頂点捕食者
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評価は5です。

※壁紙専用の別ブログを公開しています。
カメラまかせ 成り行きまかせ  〇カメラまかせ 成り行きまかせその2


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