奥野信宏著、岩波書店刊
著者は名古屋大学を経て、2005年から中京大学総合政策学部長を勤め、理論経済学が専門であるとのことです。
近年の政治は、市場主義と政府の役割を巡って大きく揺れ動いているように思えます。かつては、民間と行政との役割分担が明らかで、民間では賄えない社会資本やサービスを行政が担当していましたが、現代にあっては、行政活動も、市場という価値基準で民間と同じ土俵で評価されようとしています。
こうした動きにより、確かに行政の無駄が大きく減ったことは間違いないと思うのですが、「市場原理主義」とでもいうべき議論は何とも醜悪に感じます。最近のNHKの「ハーバード 白熱教室」で、サンデル教授が繰り広げる議論を見ていても、そのことは強く感じます。(誠に素晴らしい講義で、感動して見ています)
私は本書で多くのことを確認し、学びました。著者が本書で示した意見や認識で目にとまったのは、以下の通りです。
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●・・・その一方で、市場経済において行政は何をなすべきかについて、国民に共通の理解があるとはいえず、行政を背負う中央官僚も、かつての揺るぎない自信を失っている。
●・・・市場というのは、さまざまな欲求をもって自分勝手に振る舞う人々を、争うことなく社会のひとつの意志に集約する仕組みであり、人の知恵の結晶である。市場が機能することで経済は動いている。しかし市場の機能はもともと不完全で、まかせておけば社会におのずと調和が生まれるというわけにはいかない。不完全な所は行政が補わなければならない。不完全な市場機能を補完して人々の満足を高めることが、経済学からみた行政の存在理由である。
●社会資本の崩壊は古来から文明の崩壊を暗示する。わが国では、過去に整備された社会資本の維持更新がこれから急激に増加する。
●広域的で長期的なことは市場は苦手であり、それは行政の役割である。しかし役人がいくら優秀だといっても人である。一般人に見通せない遠い将来を見通せと要求しても無理である。そのため役人には、状況が変われば計画を見直す柔軟さが求められるし、住民にはそれを許す寛容さが必要である。
●地方分権は、住民の負担と受益の関係を明確にするという意味では有効だが、それだけでは問題は解決しない。広域的な意志決定主体を作る方策として市町村合併や道州制の導入がある。市町村については、人口当たりの財政支出が最も小さいのは人口30万人から50万人の自治体で、その規模の自治体が自治体経営として効率的だという研究がされている。
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などなど、引用が大変に多くなりましたが、非常に現実的で納得の出来る議論が展開されています。良書です。
評価は5です。
著者は名古屋大学を経て、2005年から中京大学総合政策学部長を勤め、理論経済学が専門であるとのことです。
近年の政治は、市場主義と政府の役割を巡って大きく揺れ動いているように思えます。かつては、民間と行政との役割分担が明らかで、民間では賄えない社会資本やサービスを行政が担当していましたが、現代にあっては、行政活動も、市場という価値基準で民間と同じ土俵で評価されようとしています。
こうした動きにより、確かに行政の無駄が大きく減ったことは間違いないと思うのですが、「市場原理主義」とでもいうべき議論は何とも醜悪に感じます。最近のNHKの「ハーバード 白熱教室」で、サンデル教授が繰り広げる議論を見ていても、そのことは強く感じます。(誠に素晴らしい講義で、感動して見ています)
私は本書で多くのことを確認し、学びました。著者が本書で示した意見や認識で目にとまったのは、以下の通りです。
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●・・・その一方で、市場経済において行政は何をなすべきかについて、国民に共通の理解があるとはいえず、行政を背負う中央官僚も、かつての揺るぎない自信を失っている。
●・・・市場というのは、さまざまな欲求をもって自分勝手に振る舞う人々を、争うことなく社会のひとつの意志に集約する仕組みであり、人の知恵の結晶である。市場が機能することで経済は動いている。しかし市場の機能はもともと不完全で、まかせておけば社会におのずと調和が生まれるというわけにはいかない。不完全な所は行政が補わなければならない。不完全な市場機能を補完して人々の満足を高めることが、経済学からみた行政の存在理由である。
●社会資本の崩壊は古来から文明の崩壊を暗示する。わが国では、過去に整備された社会資本の維持更新がこれから急激に増加する。
●広域的で長期的なことは市場は苦手であり、それは行政の役割である。しかし役人がいくら優秀だといっても人である。一般人に見通せない遠い将来を見通せと要求しても無理である。そのため役人には、状況が変われば計画を見直す柔軟さが求められるし、住民にはそれを許す寛容さが必要である。
●地方分権は、住民の負担と受益の関係を明確にするという意味では有効だが、それだけでは問題は解決しない。広域的な意志決定主体を作る方策として市町村合併や道州制の導入がある。市町村については、人口当たりの財政支出が最も小さいのは人口30万人から50万人の自治体で、その規模の自治体が自治体経営として効率的だという研究がされている。
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などなど、引用が大変に多くなりましたが、非常に現実的で納得の出来る議論が展開されています。良書です。
評価は5です。
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