読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

零式戦闘機

2011年01月15日 08時50分32秒 | ■読む
吉村昭著、新潮文庫刊
吉村さんの作品で最初に読んだのは、確か「高熱隧道」だったでしょうか。その他に「海の史劇」、「ふぉん・しいほるとの娘」、「破獄」、「戦艦武蔵」などを読みましたが、まだ何冊も読まれるのを待つ書籍が本棚に収められています。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/吉村昭
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さて、零戦を巡る書籍は数多く、私も結構な数を読んだと思います。そうした著作は当然ドキュメントで、それぞれに独自の視点から描かれていますが、一番多いのは開発にまつわる技術的な視点でした。本書も同様に技術的な側面を中心に取り上げていますが、受ける印象は大分異なるように思います。
吉村さんの作品は、奥様の津村節子さんの講演会でも窺いましたが、徹底的に事実にこだわっているとのことでした。例えば、本書では、名古屋の工場から各務原の飛行場へ、出来上がった飛行機を牛が牽いて運んだというエピソードが何度も登場します。当時の世界最先端のメカを、何とも原始的な方法で運搬せざるを得なかった状況が、日本の社会経済状況を端的に映し出しており感服しました。
また、ミッドウェー海戦以降、次第に敗戦の色が濃くなって行く中で、特攻の登場が淡々と記述されていますが、そこには、ある種の必然的な、止むに止まれず行った状況が描かれています。本作品は1968年(昭和43年)に出版されており、当時は、まだ、戦前の日本や戦時の状況を冷静に判断することなく、すべて愚劣な唾棄すべき行為であるというのが一般の見方でしたが、吉村さんは別な見方を提示しています。国や家族のために身を捧げる、という価値観がその行為に込められていたことを示しています。
全体に抑制が効いた作風はいつも通りで、過剰な思い入れがありませんが、この一点だけは異例とも感じる強さで記されているように思いました。また、沖縄戦での攻防も、単なる悲劇でなく、沖縄の人々の大きな犠牲と日本軍の必死の抵抗が、アメリカ軍に多くの犠牲を強いたこと、アメリカのB29爆撃機が軍事施設のない多くの地方都市に無差別爆撃を加えたこと、その爆撃の際は、周囲に焼夷弾をばらまき、火災で取り巻いて逃げ道を無くしてから、目標地域に爆弾を投下したことなど、淡々と終戦時のアメリカ軍の容赦のない攻撃と状況を描いています。静かな怒りが感じられました。
評価は4です。

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