高樹のぶ子著、横浜カセット文庫
以前、日本経済新聞を購読していた時に「甘苦上海(がんくうしゃんはい)」が連載されていました。私の苦手な恋愛小説の類なのではないかと思いながら読んでいましたが、途中で新聞購読を止めたので、本当は何なのかは知りません。しかし、ストーリーの視点が独特で読み進むのに少し苦労した記憶があります。
本作品を聞き終えて、著者に非常に興味を持ちました。男女の性愛を微に入り細に入り描いているのですが、それが、即物的でなく心と心の交流であるという性の不可思議な側面を見事に描いているからです。知と情のバランスが見事であると感じました。ネットでお顔を拝見すると、知性が勝って意志的でいて、内に深い情念を感じました。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/高樹のぶ子
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さて、本作は、7時間28分の長い作品でした。主人公は、頑固一徹な刀鍛冶の一人娘である「千桐(ちぎり)」です。故あって、結婚で設けた一人娘共に離婚後、実家に帰ります。そして父が弱り初め、生活に苦しくなった頃、かつて、父の取材番組を制作したスタッフの一人と再会し、やがて急速に近づきます。その過程が非常に細やかで、普段冒険小説を好んで読んでいる私には、サスペンスを読んでいるような感じがしました。微に入り細に入り心の襞に分け入って描写する文章の連続には、本当にびっくりしました。多分、本で読んでいたら途中で投げ出してしまったことでしょう。しかし、朗読者の力も相まって、やがて作品世界に引き込まれて行きました。特に、終盤の別れと純粋無垢な精神世界への旅立ちが心を打ちました。決して好みの分野ではありませんが、深い悲しみとも、生きる悲しみとも感じる浮き世の切実さを見事に表現し、生きる意味を考えさせる名作でした。
評価は5です。
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