さて、肝心のワイフ狸のお産だけど、犬のお産から二週間ほどたったころに始まった。でもこれは軽くいった。
母犬がお返しとばかりに、狸の巣に入り浸っていたけど、こちらとはテレパシーが通じないので、コミュニケーションがとれない。
ワイフ狸の気持ちの支えにはなったようだけど、こちらにはあまり役には立たなかった。
まあこの犬のお産でこちらのやることがまだ鮮明に頭に入っていたことが一番の功績だったんだろう。
何日かすると狸の赤ん坊も陽の当たるところへでてきた。
こちらは三匹。ワイフ狸も犬の母親と同じような満足そうな目で赤ん坊たちを見ている。
でもそれからしばらくするとワイフ狸は出産の祝いに来たり、古狸を訊ねてくる狸たちの接待にかかりっきりになって、子供たちの世話をあまりしなくなった。
子狸たちを巣穴から出してくるのも母犬だし、子犬と子狸を一緒に遊ばせて見ているのも母犬。
そんなありさまをみて、古狸はちょっと苦い顔をして、まだ若いから母親の自覚がないのかなってこぼしていたのだけど、私の目にも犬の母親の子犬への態度と比べると雲泥の差に見えてしまう。
でもそれを見ていながら思い出した。
昔、飼っていた猫が子供を産んだ。お腹が大きくなっていくのがわかっていたし、出産間際には人のそばに来てふうふう言っていたので、押入れに箱を置いてやったら、そこで子供を産んだ。二三日した時、子猫を一匹づつ加えて人の前に一列に並べ、「みゃあ」って鳴いて、見ていてくださいって頼んでから出かけていた。最初の時には五分もしないうちに「みゃあ」と鳴きながら帰ってきて、しばらく私と子猫が遊んでいるのを見ていて、それから子猫をまた口に銜えて箱に戻していた。
それからは天気のいい日には子猫を巣から連れ出して、庭で遊ばせていた。そのときには必ず「みゃ~」って人を誘うので、この親子の遊びに付き合っていた。
この猫は結構母親としては厳しい躾をしていて、子猫が何か悪いことをすると「ぎゃっ」と泣き声をあげるくらい強く噛まれていた。でも噛んだ後、両手でその子猫を抱えるようにして、みゅ~、みゅ^と泣いている子猫の頭をぺろぺろとずっと舐めてあやしていた。
その話を古狸にすると、母親が恋しくなって涙がでそうな話だなってしんみりしていた。
それとはまったく性格の異なる猫がいた。ものすごい甘えん坊で、寝るときも絶対に私の右の腕を枕にしないと寝ないような子だったけど、この子のときも押入れで箱の中で子供を産んだ。
でも産んだ直後も、外へ出かけたくなると勝手に出て行ってしまい、遊び疲れないと帰ってこなかった。
この猫は気のいい猫で、飢えている野良猫がいると自分の食事に連れてきて、その猫に分けてやっていた。そうしているうちに家に住み着いた猫がいた。
この猫は野良の性格が残っていて、どうしても人間が怖い。だから寝るときも、上の猫のまねをして一緒に寝室には来るのだけど、布団のすみでしか寝なかった。
この猫が同じころにやはり子供を産んだ。このときにはお腹が大きくならなくて、子供がいることに気が付かなかったのだけど。ある日珍しく人の布団に入ってきて、腕に頭を乗せて寝始めた。変だなっておもっていると、なんとなく胸の辺りがぬるぬるする。失禁したのかって布団を挙げてその猫をみると、なんと子供を産み始めていた。
吃驚して、箱を押入れに用意し、猫を移し、この猫もやはりそこで子供を産んだ。
ということで、家には二匹の親猫とその子供たちが居つくことになったのだけど、最初の親猫は前述したように子猫の面倒を見ない。
後から来た野良猫が全部の子供の猫を遊ばせたり、面倒を見ていた。
ある日いつものようにこのら猫が家の外で子供たちを遊ばせていたら、犬を散歩させている人が通りかかった。野良猫は毛を逆立てて、子猫たちと犬の間に入り「フー」と威嚇の声をだした。
そのとき、どこにいたのか、家の猫がまるでバスケットボールみたいに体中の毛を逆立てて、ギャーというような声を出して、子猫を守っている野良猫と犬の間に飛び込んできて、体中を低くして、犬に向かってうなり声を出した。
犬も飼い主もその剣幕に恐れをなして回れ右をして帰っていった。
様子がわからなくてけろっとしている子猫たちとは別に、その野良猫と家の猫はしばらくは警戒心をとかないで、犬の帰った後をにらみつけていた。
近頃の若い母親はって思いで彼女を見ていたので、ちょっと感動して、二匹を抱いてやったが、二匹とも腕の中でしばらくはぶるぶると震えていた。
「どんな世の中になっても母親は母親だよな、俺はそれを信じたいよ」
古狸はしんみりとつぶやいた。
今日も岬は風のない、暖かいいい日になった。
05/01/2006 10:04:01
母犬がお返しとばかりに、狸の巣に入り浸っていたけど、こちらとはテレパシーが通じないので、コミュニケーションがとれない。
ワイフ狸の気持ちの支えにはなったようだけど、こちらにはあまり役には立たなかった。
まあこの犬のお産でこちらのやることがまだ鮮明に頭に入っていたことが一番の功績だったんだろう。
何日かすると狸の赤ん坊も陽の当たるところへでてきた。
こちらは三匹。ワイフ狸も犬の母親と同じような満足そうな目で赤ん坊たちを見ている。
でもそれからしばらくするとワイフ狸は出産の祝いに来たり、古狸を訊ねてくる狸たちの接待にかかりっきりになって、子供たちの世話をあまりしなくなった。
子狸たちを巣穴から出してくるのも母犬だし、子犬と子狸を一緒に遊ばせて見ているのも母犬。
そんなありさまをみて、古狸はちょっと苦い顔をして、まだ若いから母親の自覚がないのかなってこぼしていたのだけど、私の目にも犬の母親の子犬への態度と比べると雲泥の差に見えてしまう。
でもそれを見ていながら思い出した。
昔、飼っていた猫が子供を産んだ。お腹が大きくなっていくのがわかっていたし、出産間際には人のそばに来てふうふう言っていたので、押入れに箱を置いてやったら、そこで子供を産んだ。二三日した時、子猫を一匹づつ加えて人の前に一列に並べ、「みゃあ」って鳴いて、見ていてくださいって頼んでから出かけていた。最初の時には五分もしないうちに「みゃあ」と鳴きながら帰ってきて、しばらく私と子猫が遊んでいるのを見ていて、それから子猫をまた口に銜えて箱に戻していた。
それからは天気のいい日には子猫を巣から連れ出して、庭で遊ばせていた。そのときには必ず「みゃ~」って人を誘うので、この親子の遊びに付き合っていた。
この猫は結構母親としては厳しい躾をしていて、子猫が何か悪いことをすると「ぎゃっ」と泣き声をあげるくらい強く噛まれていた。でも噛んだ後、両手でその子猫を抱えるようにして、みゅ~、みゅ^と泣いている子猫の頭をぺろぺろとずっと舐めてあやしていた。
その話を古狸にすると、母親が恋しくなって涙がでそうな話だなってしんみりしていた。
それとはまったく性格の異なる猫がいた。ものすごい甘えん坊で、寝るときも絶対に私の右の腕を枕にしないと寝ないような子だったけど、この子のときも押入れで箱の中で子供を産んだ。
でも産んだ直後も、外へ出かけたくなると勝手に出て行ってしまい、遊び疲れないと帰ってこなかった。
この猫は気のいい猫で、飢えている野良猫がいると自分の食事に連れてきて、その猫に分けてやっていた。そうしているうちに家に住み着いた猫がいた。
この猫は野良の性格が残っていて、どうしても人間が怖い。だから寝るときも、上の猫のまねをして一緒に寝室には来るのだけど、布団のすみでしか寝なかった。
この猫が同じころにやはり子供を産んだ。このときにはお腹が大きくならなくて、子供がいることに気が付かなかったのだけど。ある日珍しく人の布団に入ってきて、腕に頭を乗せて寝始めた。変だなっておもっていると、なんとなく胸の辺りがぬるぬるする。失禁したのかって布団を挙げてその猫をみると、なんと子供を産み始めていた。
吃驚して、箱を押入れに用意し、猫を移し、この猫もやはりそこで子供を産んだ。
ということで、家には二匹の親猫とその子供たちが居つくことになったのだけど、最初の親猫は前述したように子猫の面倒を見ない。
後から来た野良猫が全部の子供の猫を遊ばせたり、面倒を見ていた。
ある日いつものようにこのら猫が家の外で子供たちを遊ばせていたら、犬を散歩させている人が通りかかった。野良猫は毛を逆立てて、子猫たちと犬の間に入り「フー」と威嚇の声をだした。
そのとき、どこにいたのか、家の猫がまるでバスケットボールみたいに体中の毛を逆立てて、ギャーというような声を出して、子猫を守っている野良猫と犬の間に飛び込んできて、体中を低くして、犬に向かってうなり声を出した。
犬も飼い主もその剣幕に恐れをなして回れ右をして帰っていった。
様子がわからなくてけろっとしている子猫たちとは別に、その野良猫と家の猫はしばらくは警戒心をとかないで、犬の帰った後をにらみつけていた。
近頃の若い母親はって思いで彼女を見ていたので、ちょっと感動して、二匹を抱いてやったが、二匹とも腕の中でしばらくはぶるぶると震えていた。
「どんな世の中になっても母親は母親だよな、俺はそれを信じたいよ」
古狸はしんみりとつぶやいた。
今日も岬は風のない、暖かいいい日になった。
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