次男夫婦の計らいで湯河原に行ってきた。だんだん老衰の度を深めていく両親の体を癒してあげたいという思いと、息子遥人を含めた5人で団らんの時を持ちたいという思いが重なっての計画であっただろう。昨年暮れからの計画であったが、ちょうどこの2月に私が倒れて緊急入院したことが重なり、願ってもない温泉休養を与えられたことになった。次男自らが運転する車でのお出迎えで、「何も要らない、手ぶらで来てくれ」という言葉に、すべてを委ねた心休まる旅であった。
宿は『山翠楼』という老舗旅館。藤木川の河岸に連なる温泉街の一番奥に当たる奥湯河原の一隅に佇む、まさに箱根の山懐に抱かれた宿…、という感じの旅館であった。ゆったりとした大広間のほかに二間(合計三間)の部屋どりという贅沢で、両親と、生まれた息子の双方を喜ばせたいという次男夫婦の思いが込められていた。以下にその贅沢のいくコマかを並べておく。
玄関の大広間の一隅に、「龍吟」と大書した掛軸がかかっているので聞けば、大徳寺の住職大亀の揮毫という。部屋に入ると、広い床の間に同じく大亀の「緑毛亀」の軸が下がっていた。
風呂は、8階の屋上に、二面に面して三つの大露天風呂が構えられ、270度の山々が臨まれる。これは気持ちよかった。残念ながら曇っていたが、夏にでも来て満天の星空を眺めたらいかばかりかと思いを馳せた。お湯の質もくせがなく、柔らかくて、湯河原温泉の良質性を実感した。
旅館のパンフレットより(上が屋上露天風呂、下が2階の大風呂)
食事も豪華であった。料理長主藤誠一氏(同じ「しゅとう」の苗字に感動)の署名入り献立表によれば、食前酒(冬香梅の梅酒)、先付(自家製 引き上げ湯葉)に始まり、デザート(自家製ゆばババロア)に至るまで実に12種の料理が次々に運び込まれた。そのうちの2種類「前菜」と「造り」だけを掲げておく。
前菜…瀬戸内産生子みぞれ和え、三島あずま茶わん蒸し、浦和産山東菜辛し浸し、宮崎産金柑蜜煮、伊勢湾産太刀魚棒寿し、遠州美味鶏の蒸し焼き、北海道羊蹄産の馬鈴薯チップ(右上は先付の湯葉)
造り…留萌産蛸、鹿児島県産本鮪、駿河湾産ごそ、真鯛炙り、噴火湾産帆立貝、これらを、伊豆天城の本山葵、梅醤油、特製出し汁醤油で食べる
いやあ~、いずれも全国各地の名産が取り込まれているのには驚いた。因みに、翌朝の朝食も、以下の通り盛り沢山。駿河湾産「真鯛のカルパッチョ」と、伊東「まるたつの鯵の干物」のおいしさに、ついに禁を破って朝から一杯やりました。満足、まんぞく……(ご飯のお米は北海道産「ゆめぴりか」、これもおいしかったなあ)