今回は拙著『旅のプラズマ』に返る。
「はるかな国で」というくくりで、中南米のコスタリカと地中海に浮かぶ二つの島--シチリアとサルデーニャを採り上げたが、そのサルデーニャについて。
はるかな国…というのは本当にそうで、直行便がない(少ない?)ので長時間のトランジットを含め行くだけで時間がかかる。しかしそれだけに魅力も大きい。
何故サルデーニャなどに行ったかというと、そこには豊富な羊毛を使って「一日7センチの丁寧さで織っているタペストリー」があると聞いたからだ。勤務していたホームメーカーの宣伝品としてその買付けに行ったのである。島にはイソラISOLAという産品輸出を取り仕切る機構があり、その機構の会長(アッシリ氏)自らの案内を受けた。
アッシリ会長はモルゴンジョーリという小村の工場(といっても織機2~3台を置いた民家であるが)を案内してくれた上、500メートルも登る山の山頂に近い山小屋で盛大なパーティを開いてくれた。パーティの席上、わが代表が謝辞を述べたつもりで、「わが社は年間一万戸の家を建てている。タペストリーの需要も相当ある」と発言したところ、それに対するアッシリ会長の答弁が強烈であった。要旨以下のとおり。
「われわれは多くの物を作ろうとは思っていない。あなた方が多くの物を望む気持はわかるが、われわれは先ず島を守りたい、人を守りたいのだ。この世は物のためにあるのではなく人のためにあるのだ。多くの物を作るより良い物を作りたい。良い物をを作ればよい社会になるのだ。われわれは島の文化を守りたいのだ」
私はヘビー級のパンチで顔面を殴られた気がした(実際に殴られたことはないが)。
物中心の工業社会、利益中心の高度(?)資本主義社会にドップリ浸かって生きる私たちは、人間の生き方の原点を遠く遠く離れてしまっているのではないか?
パーティを終わり戸外に出ると、野生の馬がゆっくりと草を食んでいた。モルゴンジョーリは人口1100人、織姫たちも、大らかマンマも、村の村長さんも、その笑顔は底抜けに明るかった。