寒い冬だった。いや、その寒さは今も続いている。異常な寒さを感じたのは、83歳の年寄りだけではなかったようで、だれに会っても寒さを訴えていた。しかし、季節は必ず移ろう。
散歩コースにしている松澤病院一周の一角にある公園の早咲き桜が、いつの間にか3,4分咲きとなっており、その下を黄色い菜の花が満開を誇っていた。
家に帰ると、娘が雛人形を飾っていた。しかも、音楽室のグランドピアノの上と、リビングのテレビの横、それに玄関の3ケ所に飾っていた。ピアノの上のお飾りには、以前はぼんぼりやお供え物がついていたが、それらは省略されいたが私の心は和んだ。ともすれば失われがちな伝統行事を、守り続けるというのは大変なことかもしれない。
「いいものだなあ~」と私がつぶやくと、娘は、「…しかし、心にゆとりがないと出来ないこと…」と言った。実は、昨年は雛人形は飾られなかった。娘の心にゆとりができたのだろうか? それとも、無理をしてでも伝統を守ろうとしたのだろうか?
新宿3丁目に、『家路』といううたごえ居酒屋がある。うたごえ喫茶『ともしび』の中心メンバーだった橋本安子さん(通称P子さん)が、ご主人の春樹さんと『ともしび』から独立し、続けてきた店だ。
かん板には「うたとピアノとともだちと」と書かれてある。文字通り、戦後うたごえ運動の中で生まれた「うた」を、P子さんの温かい「ピアノ」に合わせて、たくさんの「ともだち」が歌い継いできた店だ。その「ともだち」の絆は固く、あの盛衰の激しい新宿の飲み屋街で40年の営業を続けてきたのだ。
3年ほど前に残念ながらご主人の春樹さんが他界したが、周囲の支えで40周年を迎えた。P子さんは、確か85歳を迎えるお年と思われるが、『家路』を支える体制は強固で、この祝う会には170人が集まった。それは「店を絶対にやめさせない」というメッセージと受け取った。素晴らしいことだ。
『ともしび』時代を加えれば、P子さんは、戦後70年をうたごえ運動に捧げつくしたと言っていいだろう。私も、組合運動を通じて歌唱指導や演劇指導を受け、大変なお世話になった。戦後史に一つの文化的足跡を残した人といえるだろう。
ただ、参加者の高齢ぶりが気になった。おそらく平均年齢70歳前後だろう。『rともしび』に行ってもそうだし、私は、団塊世代がいなくなったらうたごえ運動は消えるのではないかと危惧している。
しかしそれでいいのかもしれない。たくさんの素晴らしい歌を残した。歌手上条恒彦や作曲家いずみたくなどを生んだ。この大きな文化運動は、必ずや歴史に痕跡を残すだろうから。
一年で一番寒い時節と言われる2月上旬に入って、最高気温17、18度かと思えば、翌日は1度や2度と下がる。テレビは、前日かき氷を食べている風景を流していたが、今日は超寒波の雪景色を追っている。
政治も経済も一般庶民生活も異常だ。国の海図と言われる統計はイカサマであったし、賃金水準などの経済指標も、都合が悪くなると首相自身がモノサシを変える。何でもありになってきた。
庶民生活も、親が子供をいじめ殺すという考えられないことが頻繁化してきた。子供は、親だけを頼りに生きようとするのであるが、ついに耐え切れず親から逃げ出す。しかし、その逃げ出した子供を保護すべき児童相談所が任務放棄して子供を暴力親のもとにつき返す。
地上の荒れようをどうしようもなく、気象も異常を続けているのではないか?
地球は悲鳴を上げているのではないか?
今日の毎日新聞夕刊の特集ワイドは、「伝えたい戦争の不幸と愚かさ」と題して、元NHKアナウンサー鈴木健二氏の著書『昭和からの遺言』(幻冬舎)の紹介と、鈴木氏の見解を伝えている。鈴木氏の主要な提言は、題する如き「不幸と愚かさ」の典型である戦争の告発と、その戦争を防止するためには「第一に武器を持たないこと」と強調している。90歳の「昭和からの遺言」を重く受け止めたい。
ところが現実には正反対のことが推し進められている。米ソ双方の「INF(中距離核戦力)協定」からの離脱である。私は、何度も書いてきたが、21世紀は、新たな世界戦争の危機が発生するのではないか、という不安を感じてきた。主として中国の軍事大国化と覇権主義的動きを警戒しての不安が主因だ。
米ソ双方とも、相手国の新兵器開発を離脱の理由に挙げているが、その底辺には、中国の軍事大国化があると報じられているので、私の不安は、総合的に当たってきたのではないかと、いっそう不安がつる。
それにしても、本気で核兵器の拡大競争をやろうと思っているのだろうか? 武器とはそもそも、人を殺し世を破壊する以外に役に立たない代物だ。しかも核兵器となれば、一発の使用で何十万、何百万の人命を奪う、つまり、「使用してはならないもの」だ。それを、世界の超大国が先頭に立って拡大競争をやろうというのだろうか?
まさに鈴木氏の言う「愚かさの典型」ではないか?
人類は進歩を続けているのだろうか?