このブログにも何度かご登場願った飲み仲間の会に、銀行時代の同僚による「四人会」がある。その中の蒐集家で名高いS氏が、「家の押し入れの奥から40年前の酒(『西の関』秘蔵酒))が見つかった。是非とも味わってみてくれないか」と言う。一方、山登りの好きなK氏が、「それなら、古酒に対抗して、白馬登山の折見つけた「八方尾根・黒菱」(『白馬錦』を醸す大町市の薄井商店の新作)の新酒を持参しよう」と、これまた珍しい酒を提供してくれた。
「八方尾根・黒菱」は、長野県農業試験場(須坂市)が育種し2017年度に県の認定品種となった「山恵錦」という米で醸した今話題の酒。実に清涼感にあふれた、まさにピカピカの新酒である。
問題は「40年もの」の方である。半分破れかけたラベルを見ると、「清酒 西の関 大吟醸 昭和54年製」とある。昭和54年は1979年であるから、40年前に造られたものに違いない。問題はその後である。S氏はこれを1999年に祝い品として頂いたという。つまりその時点ですでに「20年古酒」であったことになる。S氏はこれを冷蔵庫に仕舞い、大事に保存した。ところが2011年、故あってS氏は酒を断つことになった。冷蔵庫ともどもすべての酒を処分したが、この祝い品だけはもったいなくて新聞紙にくるみ、押し入れの奥に仕舞い、本日まで忘れていたというのだ。
見れば確かに2011年8月の日付の読売新聞にくるんである。新聞にくるまってあるとはいえ、また押し入れの奥とはいえ、猛暑の夏は30度をはるかに超える気温にさらされたのではないか? 私の想像は、かなり老(ひ)ねて、とても飲めないのではないか、というものであった。
ところが驚いたことに、色は黄金色に輝き、味はまろやかな熟成味を帯びて、品格のある枯淡の味に育っていた。これには驚いた。最近は夏も越せない酒が多いとも言われる中で、40年の熟成(エイジング)に堪えうるとは、さすがに西の横綱と言われた『西の関』さんの造りではある。
一方の「八方尾根・黒菱」は、青天白日の下に浮かぶ八方尾根の稜線のように爽やかで、それぞれが主張しあって見事な味のバランスを示してくれた。大満足の夜でした。
向かって左「40年もの」、右『八方尾根・黒菱』の親酒