臼杵を書いたついでに、大分の酒について触れておく。
わが家に帰ってまず飲む酒は「一の井手」という酒である。臼杵市内の久家本店の造る酒で、蔵はわが家のすぐ近くにある。かつて大吟醸「慶」で全国新酒鑑評会の金賞をとったこともある酒だ。最近は「九六位」という大吟醸が有名。臼杵湾の海の幸アジやサバなどによく合う柔らかい酒である。
私が家に帰ると、親戚や知人が酒を持参してくれるが、「あの酒飲みには酒であれば何でもよかろう」と思われていたのか、かつてはアル添酒や三増酒が多かったが、最近は純米酒や吟醸酒を届けてくれるのでうれしい。蔵自体が純米酒の生産量を増やしてきたのではないかと頼もしく思っている。
臼杵市内にはもう一つ、「宗麟」という酒を造る小手川酒造がある。臼杵の生んだ大作家野上弥生子の生家で、ここには弥生子の直筆になる「白壽」のラベルをつけた名焼酎もある。
昨年臼杵と合併した野津町の酒「龍梅」をはじめて飲んだ。高校時代からの親友S君が持参してくれたのだ。芳香、味ともにバランスのよい大吟醸であった。このようなすばらしい酒がたくさん生まれてきているのだ。
大分県は、三和酒類の「いいちこ」や「下町のナポレオン」、二階堂の「麦焼酎」など焼酎――特に麦焼酎が有名であるが、清酒もすばらしい酒がたくさんある。現在でも清酒を作る蔵が38蔵存在しており、有名どころをざっと挙げてれば、「西の関」、「八鹿」、「薫長」、「千羽鶴」、「老松」など。中でも国東半島の「西の関」は名酒として名高い。
この西の関は、吟醸酒を市販した最初の蔵としても有名だ。今でこそ一般市民が吟醸酒を飲んでいるが、昔は杜氏仲間の研究用の酒で、鑑評が終われば一般酒にブレンドされていた。それを、「こんな美味しいものを世間の皆さんに飲ませないのはもったいない」と市販を始めたのがこの蔵だ。昭和38年のことであるので半世紀近く前のことである。
その意味でもわが故郷は先駆的であったと自負している。