チューゴク!チューゴク! (『邂逅』19号)----------

 妻と街中を歩いているとき、またはスーパーで買い物をしているとき、彼女から、「チューゴク!チューゴク!」と声をかけられることがある。妻は中国人でもないし、周りに中国人らしき人、観光客もいない。もちろん、彼らのように大声で叫ぶわけでもないから私にしか聞こえない。むしろ子どもを諭すように小声で私にささやくのである。だから、私たちがこんな秘密めいた声のやりとりをしているのを誰も知らないであろう。しかし従順な息子のように私はかるくうなずき、その「暗号」に反応するのである。それを見て、妻は満足げに私に微笑み返すのだ。なにも惚気ているわけではない。夫婦間には社会的な約束にそわないコミュニケイションがある例を述べているのである。

 ウメボシ、という言葉を聞けば日本人ならおおかた唾液が出かかり、ひょっとこ口になるだろう。さて、「中国」はどういう反応をよびおこすだろうか。

 2010年の現時点で言えばやはり「尖閣諸島」、「中国漁船衝突事件」であろう。そこからは容易に「反中国」、「先島防衛」、等にイメージを高める(?)人たちも多いだろう。

 妻と私はさいわいもっと皮膚感覚で中国(人)をとらえている。

「反日暴動」が沈静化した2005年、上海、桂林を旅する機会を得た。マスコミが報じた反日の嵐はどこにも感じることはなかった。その逆に親しみと好奇心を示してくれた人が多かった。親近感と敬愛の念をもって彼らを見ると、日本人が学ぶべきものを多く持っていることに気づく。

 そのひとつが、皮膚感覚で言うと彼らの歩く姿勢であった。旅行中私たちは背筋をぴんと伸ばして颯爽と歩く若者を多く見かけた。私も時々妻から注意されるのだが、私たちの多くは背中を丸めてうつむき加減に貧相に歩く。あの旅行以来、「中国」という言葉は背筋を伸ばして歩くことを意味するように二人で決めたのである。

 いいイメージをもつ言葉を口にすることは生活を豊かにすると信じたい。
                                           江川義久

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 江川義久。江川・・・。すぐにピンとくる方もいるだろうが、あの方の旦那さんである。
 この夫妻は、「チューゴク!チューゴク!」とささやきながら街を散策するのだそうだ。微笑ましいものである。漁船体当たり事件があっても、2人の「皮膚感覚」では中国に対し最大の評価をしている。
 「2010年の現時点で言えばやはり『尖閣諸島』、『中国漁船衝突事件』であろう。そこからは容易に『反中国』、『先島防衛』、等にイメージを高める(?)人たちも多いだろう」とわざわざクエスチョンを付けているが、これが普通の「皮膚感覚」なのである。

 また、「親近感と敬愛の念をもって彼らを見ると、日本人が学ぶべきものを多く持っている」ことがわかるらしい。何かというと「彼らの歩く姿勢であった。旅行中私たちは背筋をぴんと伸ばして颯爽と歩く若者を多く見かけた」とのことだ。中国人は姿勢がよく、「私たちの多くは背中を丸めてうつむき加減に貧相に歩く」とし、日本人と中国人を比較する。この比較をどうこう言うつもりはないが、なぜ中国人は姿勢がよく颯爽と歩いているのか。それは自分に自信、あるいは自国に誇りを持っている、「つまり中国人でよかった」と思っているからだ。骨格が違うということではない。

 あの方はかつて教育長であった。中国人の「自信・誇り」に注目して、石垣市でも実践してゆけばよかったのである。「チューゴク!チューゴク!」と私生活でささやくのは構わないが、あの方はかつて教育長であった。子どもたちに「背筋をぴんと伸ばして颯爽と」歩いてほしいと思うなら、教育で変えたらよかったのである。自分の旦那さんだけ「背筋をぴんと伸ばして颯爽と」歩いてほしいというわけではないだろう。


 あの方が教育長を退任したあと、教育長に就任したのが玉津教育長である。八重山採択協議会で「公共」を重視した育鵬社の公民教科書を選定した。この教科書で学べば、「チューゴク!チューゴク!」ではなく、「ニッポン!ニッポン!」とささやく日も来るのであろう。その確証は無いが、「いいイメージをもつ言葉を口にすることは生活を豊かにすると信じたい」ものである。


自国への誇り、もっとも高い国は豪、中国は7位、日本は最下位



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