日本学術会議の任命拒否問題はアカデミズムを議論させるための菅政権の“トラップ”? 透明性・独立性を保つには…
菅総理は5日、報道各社の取材に対し「日本学術会議は政府の機関で、年間約10億円の予算を使って活動しており、任命される会員は公務員の立場になる。推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた」とした上で、「過去の省庁再編議論の際に学術会議の必要性やあり方が議論されてきた。その上で総合的・俯瞰的活動を確保する観点から今回判断した」と説明した。
6日の『ABEMA Prime』では、この問題について日本学術会議会員でもある北海道大学の宇山智彦教授を交えて議論した。
・【映像】アカデミズム議論を活性化する"トラップ説"まで浮上 現役会員と考える
■そもそも日本学術会議とは?会員はどうやって選ばれる?
「政府からの求めに応じて出す答申は減少傾向にあり、大半が学術会議の側でテーマを設定している。また、政府だけでなく、社会の様々な方面に向けた提言もある」(宇山教授)。
国は日本学術会議に年間約10億5000万円の予算を計上しており、このうち約4500万円が会員への手当だ。
その上で「日本学士院と混同して、何か立派な身分で年金ももらえるという主張をしている方もいるが、それは学術会議の話ではない。確かに会員に選ばれるのは名誉なことだが、多方面にわたり調査し提言するので、手間もかかる。手当もわずかなので、個人的な利益はほとんどないと言っていい。それでも公務員という立場で、日本の学術の発展のために必要だからやっているということだ」と話した。
「かつては選挙で、次いで学会からの推薦で選ばれていたが、いずれもうまくいかなかったので、会員や連携会員が選ぶというシステムになった。優れた研究者を選ぶということが強調されているが、どちらかと言えば提言など学術会議の活動にふさわしい経験や能力がある人を選んでいる。そうなると、ある程度知っている人を選ぶしかないが、少なくとも私の経験で言えば、仲が良いから推薦した、ということは全くない」(宇山教授)。
■「法律の定めと合っていない任命の仕方、若い研究者に対する影響を懸念」
しかし宇山教授は「それぞれの方の政治信条は分からないが、本当に様々な立場の方々だということは確かだ。一部から“左翼だ”という声もあるが、実際には“左翼なわけないだろう”という人もいるし、むしろ旧来の左翼とは全く違う歴史観・政治観で研究してきた方もいる。日本の政治とは関係のない研究者で、政府に批判的な声明にも賛同者の一人として名を連ねただけの方もいる。だから、なぜこの6人が“狙い撃ち”されたのかというのは分からない。たまたま目に付いたということなのか、それとも排除の対象になり得るのだということを示すためにあえて様々な方を含めたのか、全く分からない」と話した。
宇山教授は「この6人の方々は信念を持って研究をされているし、今回のことで研究を変えるようなやわな方々ではない。研究者が研究している内容が時の政権と対立するものになってしまうことはあると思う。ただ、その政権も未来永劫続くものではないし、学術会議に入らなくても研究は続けられるという意味では、研究の自由そのものが失われるのだろうか、とも思う。ただ、考えがぐらつきやすい研究者、あるいは若い研究者に対しては、“不利益な目に遭うかもしれない”とか、“文系の研究をやっても政府ににらまれるだけ”と思わせてしまうことが懸念される」と指摘。
また、「問題は、法律の定めと合っていない任命の仕方をしているということだ。菅首相や加藤官房長官の発言を見ると、学術会議への“監督権”という、法律には書かれていないことを強調している。政府の審議会や諮問会議は半ば初めから結論が出ているが、学術会議は学者側の意見を自主的に幅広くまとめるので、政府の考えとは違う結論が出ることもあり得る。そういうことを排除するため、チェックとまでは言わないが、物を言う機関に対し監督権、圧力を行使するということだ。裁判所や検察の人事に手を突っ込んで“従順にしなさい”と言っているのと同じ効果を学者に対して狙っているという解釈も成り立つ。こういうことが繰り返されていけば、法治国家としてのあり方が問われる。政治学の用語では“水平的アカウンタビリティ”というが、自由民主主義体制の維持に必要不可欠な仕組みを壊していく効果を持ちかねない」と警鐘を鳴らした。
■菅政権はアカデミズムをメディア空間に引きずり出したかった?
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「菅内閣は不妊治療の保険適用や携帯電話の値下げなど、生活者目線の政策を打ち出していて、支持率も下がっていない。そういう中で関係者が騒げば騒ぐほど、左派系のアカデミズムの人たちと、“特権階級の偉い学者さんたちが騒いでいるだけ”と見てしまう一般大衆というポピュリズム的な分断が進んでしまう。安倍政権も左派政党や左派メディアとガンガンやりあう一方、生活者が喜ぶ政策を打ってきたので、支持率はあまり下がらなかった。ひょっとしたら菅さんも策士で、特に任命拒否の理由はないが、同じような構図を狙ってやっている、いわば“トラップ”なんじゃないかという見方もある」と話す。
その上で佐々木氏は「だからといって、菅政権がやったことはかなり強引だし、放置しておいていい問題ではない。国民民主党の玉木雄一郎さんが内閣も学術会議も透明化した方がいいと訴えていたが、今回のことをきっかけに、アカデミズムと政治の関係はどうあるべきなのかという前向きな議論に繋げていってほしい」と話した。
■「国の機関に頼った上で独立した立場、というあり方が一番いい」
自民党の下村政調会長は今回の問題を受け、「今回の個別の人事案件とは別に、政策決定におけるアカデミアの役割という切り口から議論していく必要性がある」と発言している。
こうした議論について宇山教授は「民営化しろとか、独立行政法人になれと言う人がいるが、学術会議は研究機関ではないので、研究や教育によって収入を得たり、企業との共同研究や特許によって収入を得たりする道はない。公益に関する活動内容だからこそ民間の資金が入る余地もほぼない。独立行政法人についても、国立大学がまさにそうだが、以前よりも監督官庁への従属度が強まる仕組みになっている。非常に逆説的ではあるが、日本の制度の中で公的な仕事をする組織が独立性を保とうと思った場合、国の機関に頼った上で独立した立場であるということが一番いい方法だ。日本学術会議は、それが法的に明記されている」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
「『学問の自由』侵害してきたのは日本学術会議」門田隆将氏が断言! 北朝鮮のミサイル発射への研究を禁止、中国の「千人計画」に協力 菅首相の任命見送りは別の理由
菅義偉首相は5日夕、内閣記者会のインタビューに応じ、日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を見送った理由について、「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのかを考えてきた」「学問の自由(の侵害)とは、まったく関係ない」と語った。左派野党と一部メディアは大騒ぎしているが、年間10億円もの税金を投入する日本学術会議への疑問も噴出し、「民営化論」も急浮上している。この問題に詳しい作家でジャーナリストの門田隆将氏に聞いた。 「学問の自由の侵害に当たるはずがない。むしろ、『学問の自由』を侵害してきたのは日本学術会議だ」 門田氏はこう語り、日本学術会議が1950年と67年、2017年に、「軍事目的のための科学研究を行わない」という声明を出したことを問題視した。 「17年といえば、北朝鮮が弾道ミサイルを相次いで発射し、『どのようにして国民の生命と財産を守るか』が重要な課題となっていた。ところが、日本学術会議は、その研究の禁止を打ち出した。学問の自由を阻み、国民の命をどう守るかという課題も阻んだ」 菅首相は5日の会見で、「省庁再編の際、(日本学術会議の)必要性を含め、あり方について相当の議論が行われた。結果として、総合的・俯瞰(ふかん)的な活動を求めることになった。まさに総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の任命も判断した」と語った。 門田氏はこの判断について、「日本学術会議は15年に、中国科学技術協会と協力覚書を署名している。つまり中国の軍事発展のために海外の専門家を呼び寄せる『千人計画』には協力している。日本国内では軍事研究を禁じておきながら、中国の軍事研究には協力するという、非常に倒錯した組織だ」と言い切った。 左派野党やメディアは、任命されなかった6人が「安全保障関連法や特定秘密保護法などに反対した人物」として、あたかも菅首相が意にそぐわない人物を排除したとの批判を展開している。 これに対し、門田氏は「任命された99人の中にも安全保障関連法や特定秘密保護法に反対していた学者は大勢いる。6人の任命見送りは、別の理由と考えるべきだ」といい、「今回の騒動で、国民は日本学術会議がどのような組織であるかを理解したはずだ。当然、民営化を含めた行政改革の対象だ」と指摘した。
【関連記事】