ミャンマーチーク屋さんのわが道を行く

日々の出来事と旅と愚痴と文句を勝手に語る日記。

魅せられて

2008-04-08 08:10:20 | 
医療や学問の水準を向上させるための開放は認めるが、
国づくりの基本は伝統と仏教思想に基づくものとしたい。
そして、観光客をたくさん受け入れて外貨を稼ぐよりも、
自分たちの穏やかな生活を守りたい。
そんな国づくりを進めているのがヒマラヤの小国、
ブータンである。

同国を知るための格好の本「ブータンに魅せられて」が、
岩波新書から出ている。

著者の今枝由郎氏は、フランスを拠点にチベット仏教を研究する学者で、
1981年から1990年までブータン国立図書館の顧問として滞在し、
国の変化をつぶさに見てきた経験を持つ。
エッセイ風ではあるが、学者ならではの観察眼にあふれており、
情報の少ないブータンの今を知るための最新のリポートにもなっている。

ブータンといえば「国民総幸福」(GNH)という概念で知られるが、
この本ではその概念、またベースとなる思想について、わかりやすく
教えてくれている。またブータンが抱える民族問題とされるネパール系
住民の難民問題についても、一般的なマスコミの報道(住民への迫害など)
とは違った見方を示している。

「国民総幸福」(GNH)は経済規模の拡大だけで全てを計ろうとする
発展一辺倒への反面的な理論であるが、その基盤となってきたのは、
この国の国王親政であり、ほとんどの国民が信奉する仏教思想であった。
そこに今、議会制民主主義という新しい要素が加わろうとしている。
人口60万人程度の小さな国ではあるが、そこで行われている実験は
きわめて大きなものである。(しかし、小国であるゆえ注目度に欠ける)

また、著者がどうやって鎖国を行っていた国の、国立図書館の顧問に
なれたのか。学者の執念というべきか、この辺も読み応えがあるように感じた。

ブータンに興味のある方はもちろん、秘境と呼ばれる国に関心のある方
にお薦めの1冊である。

現在、観光でブータンを訪れようとすると、1日あたり一人200米ドル近く
かかる国である。5日なら単純に1000ドルもかかってしまう。
お金さえ払えば、誰でも行けるが、その価格ゆえ尻込みしてしまう国である。

そういう私も、インド側からビザなしで入れるブータン領のプンツォリン
という国境の街で2泊し、記念に散髪をしてプチブータンを味わっただけで
未だ正式に入ったことが無い。いつかは…と思うが、やはり高額なので
二の足を踏んでしまう。だからといってこの制度を廃止すれば、隣国である
ネパールのように、大量の観光客流入による環境破壊、治安の悪化、
貧富の差の拡大など、様々な社会問題が起こり、やがては文化や価値観の崩壊に
繋がってしまうのだろう。どうせなら、そんなブータンの姿より、伝統文化の
色濃く残る現在の姿を、お金を払ってでも見る価値があるような気がしている。



コメント