医療や学問の水準を向上させるための開放は認めるが、
国づくりの基本は伝統と仏教思想に基づくものとしたい。
そして、観光客をたくさん受け入れて外貨を稼ぐよりも、
自分たちの穏やかな生活を守りたい。
そんな国づくりを進めているのがヒマラヤの小国、
ブータンである。
同国を知るための格好の本「ブータンに魅せられて」が、
岩波新書から出ている。
著者の今枝由郎氏は、フランスを拠点にチベット仏教を研究する学者で、
1981年から1990年までブータン国立図書館の顧問として滞在し、
国の変化をつぶさに見てきた経験を持つ。
エッセイ風ではあるが、学者ならではの観察眼にあふれており、
情報の少ないブータンの今を知るための最新のリポートにもなっている。
ブータンといえば「国民総幸福」(GNH)という概念で知られるが、
この本ではその概念、またベースとなる思想について、わかりやすく
教えてくれている。またブータンが抱える民族問題とされるネパール系
住民の難民問題についても、一般的なマスコミの報道(住民への迫害など)
とは違った見方を示している。
「国民総幸福」(GNH)は経済規模の拡大だけで全てを計ろうとする
発展一辺倒への反面的な理論であるが、その基盤となってきたのは、
この国の国王親政であり、ほとんどの国民が信奉する仏教思想であった。
そこに今、議会制民主主義という新しい要素が加わろうとしている。
人口60万人程度の小さな国ではあるが、そこで行われている実験は
きわめて大きなものである。(しかし、小国であるゆえ注目度に欠ける)
また、著者がどうやって鎖国を行っていた国の、国立図書館の顧問に
なれたのか。学者の執念というべきか、この辺も読み応えがあるように感じた。
ブータンに興味のある方はもちろん、秘境と呼ばれる国に関心のある方
にお薦めの1冊である。
現在、観光でブータンを訪れようとすると、1日あたり一人200米ドル近く
かかる国である。5日なら単純に1000ドルもかかってしまう。
お金さえ払えば、誰でも行けるが、その価格ゆえ尻込みしてしまう国である。
そういう私も、インド側からビザなしで入れるブータン領のプンツォリン
という国境の街で2泊し、記念に散髪をしてプチブータンを味わっただけで
未だ正式に入ったことが無い。いつかは…と思うが、やはり高額なので
二の足を踏んでしまう。だからといってこの制度を廃止すれば、隣国である
ネパールのように、大量の観光客流入による環境破壊、治安の悪化、
貧富の差の拡大など、様々な社会問題が起こり、やがては文化や価値観の崩壊に
繋がってしまうのだろう。どうせなら、そんなブータンの姿より、伝統文化の
色濃く残る現在の姿を、お金を払ってでも見る価値があるような気がしている。

国づくりの基本は伝統と仏教思想に基づくものとしたい。
そして、観光客をたくさん受け入れて外貨を稼ぐよりも、
自分たちの穏やかな生活を守りたい。
そんな国づくりを進めているのがヒマラヤの小国、
ブータンである。
同国を知るための格好の本「ブータンに魅せられて」が、
岩波新書から出ている。
著者の今枝由郎氏は、フランスを拠点にチベット仏教を研究する学者で、
1981年から1990年までブータン国立図書館の顧問として滞在し、
国の変化をつぶさに見てきた経験を持つ。
エッセイ風ではあるが、学者ならではの観察眼にあふれており、
情報の少ないブータンの今を知るための最新のリポートにもなっている。
ブータンといえば「国民総幸福」(GNH)という概念で知られるが、
この本ではその概念、またベースとなる思想について、わかりやすく
教えてくれている。またブータンが抱える民族問題とされるネパール系
住民の難民問題についても、一般的なマスコミの報道(住民への迫害など)
とは違った見方を示している。
「国民総幸福」(GNH)は経済規模の拡大だけで全てを計ろうとする
発展一辺倒への反面的な理論であるが、その基盤となってきたのは、
この国の国王親政であり、ほとんどの国民が信奉する仏教思想であった。
そこに今、議会制民主主義という新しい要素が加わろうとしている。
人口60万人程度の小さな国ではあるが、そこで行われている実験は
きわめて大きなものである。(しかし、小国であるゆえ注目度に欠ける)
また、著者がどうやって鎖国を行っていた国の、国立図書館の顧問に
なれたのか。学者の執念というべきか、この辺も読み応えがあるように感じた。
ブータンに興味のある方はもちろん、秘境と呼ばれる国に関心のある方
にお薦めの1冊である。
現在、観光でブータンを訪れようとすると、1日あたり一人200米ドル近く
かかる国である。5日なら単純に1000ドルもかかってしまう。
お金さえ払えば、誰でも行けるが、その価格ゆえ尻込みしてしまう国である。
そういう私も、インド側からビザなしで入れるブータン領のプンツォリン
という国境の街で2泊し、記念に散髪をしてプチブータンを味わっただけで
未だ正式に入ったことが無い。いつかは…と思うが、やはり高額なので
二の足を踏んでしまう。だからといってこの制度を廃止すれば、隣国である
ネパールのように、大量の観光客流入による環境破壊、治安の悪化、
貧富の差の拡大など、様々な社会問題が起こり、やがては文化や価値観の崩壊に
繋がってしまうのだろう。どうせなら、そんなブータンの姿より、伝統文化の
色濃く残る現在の姿を、お金を払ってでも見る価値があるような気がしている。
