田中陽造の脚本で根岸吉太郎がメガホンをとるなんて、この先絶対無いことだと思っていたからこの映画化は嬉しい
二人のコラボは「ヴィヨンの妻」以来、根岸監督は結局その間一本も作品撮ってない。田中陽造も15年振りの作品のようだ
どれほど才能があっても、簡単に商業映画は作らせてもらえないんだ。そこが文学・絵画・音楽のように一人でも芸術できる世界との大きな違い
日本家屋の美しいショットから最後の青空へパンする画まで手抜きのない映画の品格を堪能させてもらった。とても久しぶりのカムバックだなんて思えない滑らかさだ。一度円熟した技量は年月ではたやすく枯れたりはしないのか
物語は詩人中原中也と評論家小林秀雄に愛された大部屋女優の長谷川泰子を取り巻く奇妙な三角関係が面々と語られる。昭和初期の大らかな人間関係が懐かしい街並みや家屋と相まってちょっとしたファンタジーのように感じさせる
しかし、三人の史実を調べてみると、リアルな話しであることを知った。映画ほどスッキリした三角関係だった訳ではなかっただろうけど、現代の我々にはなかなか理解し辛い感覚だから、なんだか痛みや苦しみを共有できないのかな
中原中也を演じた木戸大聖は有名な中也の写真像に寄せていて、坊ちゃんでありながら繊細な若き詩人を熱演してた。去年のドラマ「海のはじまり」で主人公の弟役が良かったけど、この作品で大きな役者になれると良い
岡田将生は安定のハマり役。最近このパターンに慣れ過ぎているのはどうかと思うが
問題は、この映画の肝である女を広瀬すずが演じ切れなかったことだ。演技力の未熟さはあるにせよ、彼女の年齢や人生のキャリアが映画の人物像の厚みに追いつけない。下世話な言い方だけど、女が熟れてないのだ。田中陽造と根岸吉太郎が描きたい女に追いつけない。頑張って背伸びして演じているのが見え透いていちゃ、興醒めで作品としては残念だ。ここらでそろそろ広瀬すずにも大人の演技をさせてみようとの気持ちは分かるけど、些かハードルが高過ぎた
ヒロインを広瀬すずにしたキャスティングの失敗がこの作品の致命傷
熟した女優に演じさせて、もう一度観てみたい
脚本も映画作りも職人の味が染み込んでいて、日本映画ならではの雰囲気なのにな