映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

身につまされるよね「長いお別れ」

2019-06-09 19:38:54 | 新作映画
中野監督好きだなぁ。

先日電撃結婚したばかりの蒼井優とずっと好きな女優竹内結子が、年老いてボケていく厳格な父親との長い別れの日々を過ごす映画。
わたくしも郷里に年老いた父母がおり、年々小さくなる姿を見ているので他人事とは思えない。
長女(結子さん)は結婚し、夫と息子とアメリカに住んでいる。夫は学術畑の研究員であるらしく人間味に欠ける。息子はアメリカ人のガールフレンドに夢中で、アメリカ生活に馴染んでいる。
次女(蒼井優)は校長先生だった父の期待に添えず教師ではなく調理師になったことで、なんとなく実家とは距離を置いている。
二人ともそれぞれの生活や環境が変化して行くのだが、その辺の些細な描写もスケッチ出来ているところに先ず感心させられた。日本映画らしい繊細さがある。

超高齢社会は既に始まっている。
日本人男性の平均寿命は80歳と聞いていたが、それはあくまでも平均であり、大半の人は90歳を過ぎてから天寿を全うすることを知った。確かに新聞の物故欄に連なる方の享年は100歳に近い。人生100年時代とかマスコミの煽りかと思えばそんな事はなく、いや正に現実だったんだな。長く生きるぶんだけ、体も心も脳味噌も人類が経験したこのない領域に多勢が向かっている。

母親(松原智恵子)が眼の病気で入院している最中に次女がボケた父(山崎努)の面倒をみる場面で、大便を漏らして尻にこびり付いた便を風呂場で洗い流すシーンはクスリと笑わせながらも鋭い棘が刺された痛みのあるものだった。痴呆老人介護をされている家庭では日常なのかも知れないが、テレビじゃ絶対描写できないリアルだ。生臭い話し、お金とか親戚付き合いとか近隣住民との距離感とかも必ずついて回る。老後の生活に2,000万円必要と世間を紛糾させている金額もこうなればあてにならない。

映画は優しさに包まれたまま終わって行くけど、現実の中では憎しみや後悔とかも様々な心の揺さぶりがあるのだろう。

山崎努のボケ老人は仲代達矢しか代役できないほどのうまさでこの二人がいなくなった日本映画界を想像すると暗澹たる思いに至る。松原智恵子の変わらない品のある美しさも特筆しておこう。調べてみるとわたくしの生まれ年に日活デビューをして、その年に16本もの映画に出演している。小百合さんとは違った綺麗なおばあちゃん役にこれからも活躍の場所がありそうだ。






ファンタジーになりきれなかった「町田くんの世界」

2019-06-08 19:36:33 | 新作映画
石井監督だし期待していた。


そう毎回傑作ばかり産出できる訳ないか。
漫画原作だから実写映像にするためにやっちゃダメな事がいくつかあると思うが、そのうちの一つにハマった気がする。ネタバレになってしまうけど、風船掴んで空を飛ぶクライマックスがお粗末すぎた。今日日CG加工でリアルな絵にする事は可能だから、わざと嘘臭く演出したんだろうと想像する。それは良い。漫画チックにした方がこの物語に合っているし、町田君という人物像にも寄り添っていると思う。でも、決定的なミスはファンタジーになっていない事だ。今ちょうど公開しているディズニーの絨毯で空飛ぶ映画にはファンタジーがあるのに、町田君と猪原さんが空を駆けるシーンには何もときめかなかった。そこが大事なところでしょうに。

主役の二人は頑張っていたけど新人らしい荒削りな清涼感を感じられなかった。フッと思い出したのが、「バタアシ金魚」の二人。あの二人にはそれがあった。懐かしい(久し振りに観てみたいけど)。
感心したのは脇を固めた若い役者が面白かった事。前田敦子、高畑充希、太賀の三人はもうどう頑張っても高校生じゃないけど、彼等が絡んでくると映画が断然面白くなる。(あっちゃんママだし)
この三人のシーンでは石井監督の乾いた笑いが堪能できた。






さよならくちびる そしてまた

2019-06-03 20:06:11 | 新作映画

好きな映画に出逢う幸せ



「私にだって訳があってギターを弾いている」
誰しもが何らかの訳を抱えながら生きている。安定した毎日を過ごしている人にはピンとこないかもしれないけど。どうして今日もケチャップで汚れた子供のシャツを洗濯しなくちゃならないのか。それにも必ず訳はある。
若く不安定な日々を生きているこの映画の主人公たちは、生きる意味が分からないままそれでも個々の訳を問い抱えながら生きている。

ハルレオという女性デュオとサポートする男性シマのロードムービー。
ただ、三人の演奏旅行はその先に解散という了解があってのことだ。静岡、三重、大阪、新潟、山形、北海道、そして東京と三人の旅を縦糸に、それぞれの過去や織りなす感情が横糸として絡む。冒頭の歌詞通りギターを弾きながら小さなライブハウスを巡る三人に寄り添うことが出来れば、きっとこの映画が好きになれると思う。

主役三人が良かった。TVドラマ「逃げ恥・・・」で繊細なゲイを演じた成田凌は影に徹する役所が合っているみたいだ。ナイーブな片想いを見せてくれた。門脇麦の達者なことは知っているが、難しいこの役をさらりと演じていて目立たない好演というのだろうか、とにかく玄人うけしそうな良い女優だと再確認。びっくりしたのは小松菜奈だ。門脇麦もそうだけど、歌が上手い。プロの歌手なんかより演技力がある分だけ、本当のデュオみたいだ。気になって調べてみたら彼女の出演作は結構観ている。デビュー作「渇き」から冬に観た「来る」まで7本も観ていた。二人ともテレビでは映えない魅力があり、映画女優なんだな。

男と女が三人寄ればどうしたって三角関係の恋情を描きたくなるのだろうけど、それは要らなかったように思う。ハルがレオに抱いている友情以上の感情だけでこの映画の人物設定は充分深みを増したと思うからだ。原案も脚本も塩田監督がひとりでやってるみたいだから、若い女の子特有の擬似同性愛感情は上手く表現できなかったかもしれないけど、デュオの熱心なファンである女子高校生が頬寄せ合ってイヤーフォンから流れる歌を聴くシーンだけで伝わるものは伝わる。ハルの孤独な心のつぶやきはしっかり届いている。

さて、そんなにこの物語が上手く作られているかといえばそうでもない。
監督の「黄泉がえり」は脚本の上手さもあって感動的な良作だった。それでもあの映画を一層感動的にしていたのは音楽の使い方だった。印象的な楽曲と野外コンサートが物語に彩を与えていた。
「さよならくちびる」もライブハウスでの演奏が何度も挿入される。歌っている歌は三曲しかないけど、最後の演奏シーンでは一緒に口ずさめるほど刷り込まれて、なんだかライブに参加しているような錯覚を覚えた。音楽が上手く使われたからこそ物語以上の感動があった。

題名の表題曲も良い曲だったけど、個人的にはあいみょんが提供した「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」の二曲にハルレオの真髄があるように感じる。内省的な前者に対して、嵐は必ず来るけど大丈夫と歌う後者は二人の今後を暗示しているようで心癒される。

ラストシーンで別々の道に分かれていった三人が辿る1分後をわたくしは信じる。







怪獣の王 ゴジラ

2019-06-01 17:54:59 | 新作映画
「さらば、友よ」

ズルイ。カッコ良すぎる。
今回は主役のゴジラ以上に、芹沢博士に惚れちゃう。
次からは博士に会えないのか。さみしいな。





わたくしたち世代のゴジラは息子までいる正義の味方になっちゃたから、水爆実験が生んだ破壊神としての怖さはない。悪役だったキングギドラこそ、地球を破壊する宇宙怪獣としての恐ろしさと反比例するかのような美しさに惹かれていた。日本が誇る怪獣達が今こうしてハリウッドの資本と技術でリメイクされることを素直に喜びたい。ラドンの風圧で人や物が飛び、モスラの神々しい羽ばたきに誰しもが魅了されるなんて半世紀前には考えもしなかった。

わたくしたち世代は当然それぞれの怪獣がもっている特徴や背景を理解しているけど、日本人でも若い世代や初めて怪獣映画を観る世界の人々には若干詰め込み過ぎだったかな。前作のゴジラvsムートーの方がストレートで分かりやすかった。出血大サービスということで、物語の細かな事は置いといて怪獣を十分堪能できたならそれでいいか。

ラストクレジットに流れるゴジラとモスラのテーマ曲を一緒に口ずさめるのは幸せなこと。