子供の頃、年を取ったおじいちゃん先生(医師)に診てもらうと、膝を小さなトンカチでトントンと叩かれたことがあります。
脚気の診断です。
脚気は、結核と並ぶ日本の2大国民病と言われ、江戸時代から昭和にかけて流行しました。
特に日本の軍隊では兵隊になると白米が腹一杯食べられるということで脚気が猛威を振るい悲惨な状況となっていました。
明治11年、海軍の総兵数4528名のうち脚気患者1485名(死亡32名)。
明治12年、総兵数5081名 脚気患者1978名
明治13年、総兵数4956名 脚気患者1725名
明治14年 総兵数4641名 脚気患者1163名
4年間の脚気による死亡者数146名
特に航海中の軍艦の中で多いので、いくら軍艦を持っていても戦うことすら出来ない状態でした。
この状況を救ったのが、主人公の高木兼寬でした。
兼寬は、炭水化物とタンパク質の比率がアンバランスな日本軍の食事を西洋食に改善し、海軍から脚気を根絶したのです。
しかし、日本の医学界と陸軍は、脚気細菌説に固着したため、陸軍の日露戦争での戦死者数47,000人、脚気死亡者27,000人と散々たる結果になりました。
兼寬は臨床を重んじるイギリス医学を学びましたが、日本医学界や陸軍では学術的なドイツ医学を最高のものとし、統計から導かれた兼寬の予防法を学問として解明されたものではないと非難していました。
その結果、多くの犠牲者が出てしまったのです。
原因不明の病気が流行り、その対処という点だけでも、示唆に富んだ本だと思います。