40年くらい前に読んだものを映画公開直前に再読しました。
江戸時代末期、数年ごとに流行する疱瘡(天然痘)にどうすることもできないでいた福井藩領内に住む町医である主人公が、温泉で出会った同業者に牛種痘という西洋の予防法があることを聴きます。当時、牛痘苗の入手は難しく、オランダから運んできたものは古くなり効果が発揮できず、中国からの輸入は鎖国で禁止されていたため、幕府の許可を取ることが肝心と動き出すのです。
しかし、役人は動かず、二年経っても検討中とするのみです。江戸にいる城主 松平春嶽の藩医に直接手紙を書き、輸入の許可をとることに成功します。
京都にいる師匠のところまで行くと、そこにはすでに牛痘苗が届いていたのでした。京都での牛痘苗の普及は成功し、福井に持ち帰るために豪雪の峠越えを決行し、命がけで持ち帰ったのは良いのですが、そこからも苦難が待ち構えていたのです。
役人の無気力と、藩医たちの妨害(デマ等)により接種する子どもを見つけるのも困難で、痘苗が潰えてしまう危機に何度も落ち入り、最期にはメッチャ(あばた)医師として町民たちからも石を投げられる状態になっていきます。
新型コロナや子宮頸がんなどのワクチン騒動もそうですが、新しい療法に対する民衆の恐怖は、科学文明がかなりの信頼を勝ち得ている現代でも大きな力を持っているので、当時としては、西洋の妖術の類だと思われても無理はありません。
苦労して功績を残した偉人の物語として読むのも良いですが、現代、そして未来へ通ずる社会的な問題提起として捉えることもできると思いました。