吉香神社を左に見ながら堀を渡った正面に、吉香公園ののどかな景観とは異なり、少し重厚そうな建築物がある。解説によると、洋式レンガ壁、木造瓦葺き、2階建で1945(昭和20)年に完成した岩国徴古館がそれである。
設計は旧制岩国中学卒で、建築音響学の分野を開拓した佐藤武夫(1899-1972)元早大教授の若き日の作品という。1997(平成10)年1月17日に国指定登録文化財になった。佐藤は大正期のロマンティックな芸術環境で自己形成なした。このため昭和10年代の荒っぽい時代になじめず、徴古館の建築に勤しんだ、と解説がある。
1945年に完成した同館は1951(昭和26)年、吉川報効会より岩国市に寄贈された。藩政時代からの各種資料や美術・工芸・郷土史研究などの貴重な資料が収められている。終戦直後から数年、図書館として利用されたが、今は博物館として開かれている。入館料の無料はうれしい。
この建物の完成は1945(昭和20)年3月、戦時下の話である。こんな記述がある。「建築資材、特に鉄を入手することは困難であったために竹筋コンクリート造(竹で鉄筋を代用したもの)という建築史的にも珍しい存在」とある。こため強度を維持するため太い柱が必要になるが、このハンディーを逆手にとって太い柱をデザインの一部に取り入れている点は素晴らしい、と評価されている。戦時下における傑作建築、とも称賛されている。
貴重な建物にも思いをはせながら館内をめぐると、新しい発見が出来るかも知れない、そんな想像をしている。
(写真:重厚な外観を見せる徴古館の正面)