岩国の名勝・錦帯橋近くの吉香公園にある紅葉谷公園と宮島の紅葉谷公園、これを聞き間違えたことから殺人事件が発生する。推理小説「箱庭」を読み終わったときTVドラマにならないかと思った。それがドラマになったのは8年くらい前、実名ではなかったがホテルや病院、柳井市や島根県の町、ドラマとなったテーマはなにか、など地域を知っている者には面白い展開だった。推理作家・内田康夫の浅見光彦シリーズといえば思い出される方もあろう。
名前のとおり紅葉で知られた観光地。岩国のそれは錦帯橋からも近く平坦な地形は高齢者や小さなお子さんも安心して散策が出来る憩いの一帯になっている。付近には吉川藩時代の史跡も多く近代岩国の起源を知ることもできるが、それらへの公の注力は少なく、崩れ落ちた由緒ある建造物の跡地が長く更地状態にあるなど観光立地を標榜する自治体住民としては心もとない。
そんな紅葉谷、今は緑の薄い色から濃い色までが紡ぎあって人では描けない自然模様を立体的に展開している。燃えるような秋とはひと味もふた味も異なる、落ち着きのある爽やかな光景に感じる。たまに聞こえるウグイスの鳴き声が興を添える。
紅葉谷公園には吉川家の菩提寺洞泉寺を始めとして岩国の歴史を刻む由緒ある寺がある。公園を城山登山口へ向かって進むと道の中ほどの左奥に、あまり知られていない一対の文人石の像がある。これは朝鮮高麗王朝時代のもので豪族の墳墓の前に設置され守護像としての役割をなすものであり、韓国固有の伝統的文化財という。これと並ぶように元禄から明治維新まで廃寺政策など幾多の変遷をへた梅ケ枝薬師堂がある。古人の信仰への深甚な思いが伝わる必見の場所、静寂の中でそう感じる。