何だかんだ言って、第2回、第4回を除いて毎年見ている。
セットリストなどは色々な所に掲載されているので、印象に残ったパフォーマンスにのみコメントする。
今年の渡辺麻友は、白組のトリで、ミュージカル歌手井上芳雄さんをゲストに迎え、『アラジン』の劇中歌『Whole New World』をデュエットした。伴奏はピアノのみで、会場も静まり返った中、しっかりとした歌唱を披露した。
正直に言えば、聴いている間じゅう、ドキドキしていた。子供が学芸会で失敗しないか見守る親の心境だった。歌い出しからの井上さんの歌唱があまりに朗々としていて、引き込まれ、それに互して歌えるのかという、麻友に対しては失礼な心配をしてしまったのだが、幸いにもそれは杞憂に終わった。声量ではだいぶ差もあった。歌い方も、いわゆるミュージカル風の歌い方(神田沙也加のような)ではなくではなく、いつもの麻友の歌い方だった。でもそれは属するジャンルの違いであって、決定的な問題ではない。自分の持ち味を出しながら相手にも合わせ、1つの世界を歌い上げていて、デュエットとして立派に成立していたと思う。感激した。歌唱後に井上さんから「いつでもミュージカルの世界にいらっしゃい」という言葉もあったが、社交辞令だけではなかったと思う。自分の出番の後、画面に時々映り込んだ麻友は、燃え尽きたかのような表情をしていて、相当のパワーを使ったことが見て取れた。エンディングでは舞台上にもいなかったと思う。
紅組の最後、大トリは指原莉乃だった。選んだ曲は『赤いピンヒールとプロフェッサー』。紅組メンバーを従え、激しいダンスをしながらこの曲を歌い上げた。生歌かかぶせかは判別できなかった。
指原がその曲を選んだことに深い意図を感じた。その曲は今年1月のリクエストアワーで1位を獲得した曲。本来は松井珠理奈のソロ曲で、あまり知名度のない曲だったことから1位になったことが物議を呼んだりもした。しかし私は楽曲として、非常にいい曲だと思う。『Dear My Teacher』の大学生バージョンと言うか、教授を誘惑する曲で、往年の荻野目洋子『ダンシングヒーロー』を彷彿とさせるフレーズもある。指原もこの曲が好きでよく歌うと言っていたが、リクエストアワー1位の楽曲をファンに再評価させたいという思いがあったのだと思う。また、麻友の『Whole New World』とは全くテイストの違う曲をという計算もあったのだと思う。
歌唱とは関係ないが、紅組副キャプテンという立場で、時々発する一言一言には、バラエティ番組で鍛えられたさすがのセンスを感じた。
審査員席に座っていた小嶋陽菜が、同じく審査員の井上ヨシマサのキーボード演奏に合わせてサプライズで歌い始めたのが『泣きながら微笑んで』。狭い審査員席で、生伴奏に合わせた生歌という歌いづらい状況で、それでも彼女らしい歌唱を聴かせてくれたのはさすがだと思った。若干音程が怪しいところもあったが、楽曲を自分のものとしていて、大島優子とはまた違った味わいで表現していた。いいものを聴いた。
峯岸みなみ、宮崎美穂、田野優花らの「チームボーカル」が『ハイテンション』のカップリング曲『また あなたのこと考えてた』を歌った。オリジナルメンバーが持ち歌を歌うのはこの歌合戦では異例だが、納得のパフォーマンスだった。CDでは通常の楽器伴奏があるバージョンだが、この日はアカペラで歌った。かなり練習したと思われ、もちろんところどころ危なっかしい個所もあったが、ゴスペラーズほどではないものの美しいハーモニーを聴かせてくれた。こういう楽曲の魅力を伝えるようなパフォーマンスは嬉しい。
横山由依のフォークギター弾き語りによる『365日の紙飛行機』、山本彩のエレキギターとバックバンドによる『夢見る少女じゃいられない』は、「ギター対決」などと言われていたが、NHKのど自慢に出場したとしたら横山は鐘1つか2つ、山本は鐘3つだっただろう。今はなきヤマハのポプコンなら、横山は地方予選落ちレベル、山本は本選進出だろうか。しかし、アイドルのパフォーマンスというのはそんな単純なものではないのだ。
横山がたどたどしい指使いで弾くギターと、彼女のやや甲高い歌唱は、バラバラで、とにかく完奏するだけで精一杯というレベルだったと思う。しかし、見ている者の視線を釘付けにし、終わった時の横山のはにかんだような笑顔に全てを許してしまう気にさせられるのだ。いいものを見たという思いしか残らない。
一方の山本は、いつもの山本であって、好きな人にはたまらないかもしれないが、私には意外性やときめきは感じられなかった。アルバム『Rainbow』は評価しているし、山本の音楽はよいと思うが、今日のところは相手が悪かった。
チーム8選抜の『清純タイアド』も良かった。寸劇をしながらのパフォーマンスで、おそらく生歌ではなくかぶせだったが、改めてこの曲はいい曲だと思った。卒業を発表した西野未姫が入ったてんとうむChu!メンバーでこの曲を歌うのを見ることはできるのだろうかと寂しくなった。
その西野未姫は『フライングゲット』に参加していたが、和太鼓を叩きながらのパフォーマンスだったので、いつもの破壊的なダンスを見ることができず残念だった。
全体として、大人数の歌唱が多く、映画館なので仕方がないことだが、ほんの数秒ごとに画面が切り替わるので、メンバーの顔を特定することもままならい。ごく少数のトップメンバー以外には活躍の場が与えられていないと感じた。司会や審査員、ゲスト(ダチョウ倶楽部)に割く時間を削って、1曲でも多くの楽曲を入れ、ソロや少人数ユニットで活躍の場を与えてほしかった。
また、歌の途中で、マジックをしたり、寸劇をしたり、早変わりをしたり、足にばねをつけて飛び跳ねたり、大人数のダンス集団とコラボしたり、芸能人かくし芸大会のような出し物が多かった。その場合、もちろん歌唱はかぶせである。むしろ歌はかくし芸のBGMのような扱いだった。ただ歌うだけだと退屈だろうというサービス精神なのかもしれないし、そういう演出を好むファンもいるのだろうが、私はあくまで歌がメインという形が好きだ。
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