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てらまち・ねっと



 昨日の内閣の発足には格別の興味はない。
 それより、一昨日9月23日の朝日新聞の一面に載った記事は良かった。

「『首相公選』の総選挙へ」とのタイトル。
「役者がそろった。本舞台の幕が上がる。いざ総選挙へ政治は走り出す」との書き出し。  
   「 一党支配から、政権交代のある政治へ 」
   「 有権者が総選挙を通じ、直接、首相をすげ替える  」

 そうなんだ、今回の総選挙は、実質は国民が首相を選択する初めての選挙なんだと、頭が整理できた。

 とてもいい記事なので保存したい。
 そして、今の状況を確認するために、1年前の参院選・自民大敗の時の朝日新聞の記事を読んでみた。
 例えば次のような言葉。

●「 薬害エイズや在日、障害者、性的マイノリティーといった人々が声をあげているのも今回の特徴だ。自分たちに決めさせろと「当事者主権」を訴えている。 」

●「 自民が「成長実感」を掲げるのは、そこから生活がこぼれ落ちていたということだろう。だから民主は「生活第一」だ。しかし、そこからもこぼれるものが「生存」であり、「いのち」だ。 」

●「この大敗をみれば有権者の答えは明らかだ。政権は国民による信任度チェックに落第した」

●「国民の信を問う形での解散総選挙はありうる。その場合、与党はかなりの確率で議席を減らすだけでなく、参院の逆転状況は変わらない。活路は開けにくい。」

●「違いが浮き彫りになれば、その時こそが、衆院解散、総選挙で国民に信を問う機会となる。選択の時は早い方がいい。 」

●「参院選後に長い政治の低迷が続くだけでは、日本は国際潮流を読み違え、「ポスト冷戦後」の世界から取り残される恐れがある。 」

 9月23日の記事の終盤は、
   「小沢氏にとって今回の総選挙は『最後の戦い』という。
    しかしもちろん、日本の政治にとってはそうではない。・・・」

 小沢がどうこうでもなく、2大政党がいいとも思わないけれど、一党支配から政権交代のある政治への移行は ワクワク する。

 
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「首相公選」の総選挙へ 政治エディター 根本清樹
2008年9月23日 朝日新聞一面

 役者がそろった。本舞台の幕が上がる。
 いざ総選挙へ政治は走り出す。
 歴史的意味合いがこれほど幾重にもかさなる総選挙は、かつてない。

 第一に、仮に小沢民主党が過半数をとれば、「麻生政権」は終わる。
 有権者が総選挙を通じ、直接、首相をすげ替える。
 これは明治以来の日本憲政史上、初めての事件となる。

 過去の政権交代とは違う。
 1947年の片山社会党政権も、93年の細川非自民政権も、総選挙後の連立工作でできた。
 有権者がじかに新首相を名指ししたわけではない。

 逆に与党勝利なら、いわば仮免中の麻生首相に有権者が本免許を与える格好になる。
 どちらに転んでも、「首相公選」に近い。
 掛け値なしの「政権選択」が実現する。

 この変化を準備したのは、リクルート事件以来の「政治改革」の20年である。
 一党支配から、政権交代のある政治へ。
 それは、単に自民党を引きずり降ろせばいいという話ではなかった。

 衆院小選挙区制を導入し、もう一つの大きな政党を育てる。
 そして、どちらかに思い切ってやらせてみる。
 だめならきっぱり取りかえる。
 政治の姿を一新する企てだった。

 その後、新党乱立や再編ゲームに明け暮れる時期があり、大連立騒ぎや2代続きの政権投げ出しもあり。
 曲折を経て、ともかく今回、二大政党が正面から向かい合う。
 改革が追い求めたものに、現実がなんとか追いつきつつあるなかでの決戦。
 それが第二の歴史的意味である。

 05年郵政選挙のような劇的な結果がもたらされるのか。
 黒白にわかにつかず、離合集散の迷走劇が再演されるのか。
 永田町談合政治への逆戻りだけは御免こうむりたい。

 第三に、「小泉構造改革」に代表される市場志向の政策路線が問い直される。
 政治が能なしだから、経済がうまくいかない。
 10年前の金融危機前後にいわれた「政治リスク」論である。
 政治は規制緩和や歳出削減を進め、「自己責任」を高唱した。

 功もあったが罪もあった。
 格差と貧困が広がった。
 社会保障が傷んだ。米国発金融危機もあり、「市場こそリスクだ」との声が出る。

 市場一辺倒ではもう立ちゆかない。
 財政に限りがあるなかで、何ができるのか。
 苦境のときこそ、未来を向いた選択肢を示してもらいたい。
 とりわけこの面では、公明、共産、社民などの各党に鋭角的な主張を期待したい。
 小沢氏にとって今回の総選挙は「最後の戦い」という。
 しかしもちろん、日本の政治にとってはそうではない。

 どの党にせよ、負けたら終わりではないし、勝っても次はわからない。
 政権選択をめぐる終わりのない旅が、今回から始まるのだと考えたい。

●「安倍政治」審判は 編集委員座談会  朝日新聞 2007年07月28日
 有権者は「安倍政治」をどう審判するのか。小沢民主党に政権への足がかりを与えるのか。参院選の投開票は29日に迫った。直前の情勢や今回の選挙の意味、選挙後の展開について、政治担当編集委員の早野透、星浩、根本清樹が話し合った。

 早野 小沢民主党代表の「1人区作戦」が功を奏している。熊本県の阿蘇山のふもとの村で遊説を聞くと、はじめは拍手パラパラ、しかし最後は農業の「戸別所得補償制度」を訴えて万雷の拍手を浴びた。「私は自民党支持だが、農民はいじめられすぎた」と、多くの人が小沢演説に共感しているようだった。勢いを感じたね。
 星 22日の日曜日、東京の新宿、銀座で安倍首相の遊説を聞いたが、途中で帰る人も目についた。改革や成長戦略を訴えるのだが、同行した衆院議員は「新宿や銀座ならこれでもいいが、下町では聴衆がしらける」という。都会の勝ち組でない人に切実なのは格差問題だ。その点、安倍氏の主張は広がりがない。年金問題への反発も強い。有権者に電話作戦をしても「ふざけるな」と切られてしまうケースがあるという。

 根本 05年の郵政総選挙での小泉前首相に対する熱狂と、今回の雰囲気には雲泥の差を感じる。大津市での首相遊説を聞いたが、首相は候補者名を連呼し、「あと一歩です」と絶叫を繰り返す。相当な危機感と見えた。
 早野 22日、グッドウィルの本社がある六本木で非正規雇用やスポット派遣の若者らが「折口(会長)ちょっと来い」「違法営業体質を改めろ」と気勢をあげ、福島社民党党首がかけつけた。ヒルズやミッドタウンという勝ち組の牙城(がじょう)での光景は、この選挙の一面を象徴していた。

 ■1人区作戦奏功 早野
 ■首相に失望の声 星
 星 当初は格差が焦点のはずだったが、年金問題に紛れてしまった。
 早野 争点はカタカナの「アベシンゾウ」問題になっちゃったな。行きつく先が赤城農水相のばんそうこう騒ぎ。安倍氏の政治姿勢、未熟さへの不信感だね。「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」とか、「何言ってんの」という反応だ。安倍氏のイデオロギー性は有権者に届かない。
 星 自民党の地方議員と話すと、首相が年金問題を当初、民主党の菅直人氏のせいにしたことに失望している。政敵とドンパチやるのもいいが、首相ならもっと大所高所から国の将来を考え、国民の信頼を得て欲しいという思いがあるようだ。
 根本 選挙戦に入っても失言や不祥事が止まらない。有権者は安倍政権に対し「だめだこりゃ」という感じだと思う。

 早野 小沢氏は元々市場原理派に近かったが、今は「弱者を守れ」だ。昔の自民党の日本型社会主義みたいなことを言ってる。彼の目標は与野党逆転、政権交代であって、政策はその時次第、権力闘争の人なんだな。1人区作戦は自民党の本丸を奪うという話だ。
 星 ただ、小沢氏は過去を背負いすぎている。旧田中派という自民党の権力中枢で育ったこと。政策面でも小さな政府や規制緩和を唱えてきたこと。これは重荷になる。

 ■「生存」真の争点 早野
 ■憲法改正、後景に 根本
 早野 本当の争点は別のところにあるんじゃないか。自民、民主の交代でほんとに政治が変わるのか。憲法改正の方向は同じだろう。護憲の共産、社民との対立軸だ。国民新党は株主と役員による利益の山分けを批判、大企業増税を打ち出し、自民党とくっきり違う。もう一つ、薬害エイズや在日、障害者、性的マイノリティーといった人々が声をあげているのも今回の特徴だ。自分たちに決めさせろと「当事者主権」を訴えている。
 星 そこは少数意見をすくえない自民、民主両党の至らなさだ。ただシングルイシュー(単一争点)だけでは大政党はもたない。

 早野 自民が「成長実感」を掲げるのは、そこから生活がこぼれ落ちていたということだろう。だから民主は「生活第一」だ。しかし、そこからもこぼれるものが「生存」であり、「いのち」だ。共産、社民が訴えるのはそこだ。
 星 民主党の年金構想の考え方は「お金持ちになると基礎年金はもらえませんよ」だ。基礎年金はいらない、国の世話にならないのが名誉なことなのだという発想に結びついていくと、おもしろい議論になる。
 根本 首相が意気込んでいた憲法改正は後景に退いた。前のめりで議論を進めるよりはましだ。

 ■負けても辞めず 早野
 ■衆院解散へ動き 星
 早野 自民はおそらく負ける。しかし、40議席を超したらもちろん、30台でも首相は辞めないんじゃないか。2期6年で憲法改正をめざす人が、「政権選択でない」選挙なのにへこたれてたまるか、ということでは。

 星 いや、40議席台前半以下なら、辞める可能性はある。安倍氏には憲法改正など中長期的にやりたい課題が多い。政治生命に傷がつく前にいったん兵を引き、勢力を再結集して他日を期そうと考えるのではないか。
 早野 勝敗ラインを明言しないということは、辞めないぞということでしょう。誰が辞めろと言うのか。森元首相? 青木幹雄参院議員会長? 加藤紘一元幹事長? 麻生外相が「あとはおれに任せろ」と言う?

 星 しかし辞めないと党内抗争になりますよ。「次の総選挙も安倍でやるのか」と、主流派も小泉チルドレンも浮足だつ。けじめ論が強まる。
 根本 どんなに負けても安倍氏はすぐには辞めるべきではない。あえてそう言ってみたい。後継レースが実質的に始まるかも知れないが、しかたない。しかるべき時に公正に党総裁選を実施し、そこで選ばれた人物を首相候補として衆院解散、総選挙に臨むというシナリオが望ましい。そうなれば総選挙がまさに「政権選択選挙」となるし、参院選は「中間選挙」と位置づける政治慣行の確立にもつながる。
 星 そううまくいくかな。抗争激化のなかで、安倍氏が反安倍勢力排除という党内向けの思惑から衆院を解散するということもありうる。これは自民党にとって最悪の展開だ。

 早野 国会のことも考えないと。与野党が逆転して民主党が参院議長をとると、今までにない状況になる。重要法案は一切成立せず、首相問責決議も可決されかねない。立ち往生だ。国民の信を問う形での解散総選挙はありうる。与党は衆院の3分の2を減らすのはいやだろうが。
 根本 その場合、与党はかなりの確率で議席を減らすだけでなく、参院の逆転状況は変わらない。活路は開けにくい。
 星 与党が衆院で次々重要法案を通し、参院で野党の対応を試す手はある。野党は国政を停滞させるのかと迫り、衆院解散へというシナリオだ。
 早野 そこで与党が信任されたとなれば、野党を切り崩しにかかると。

     ◇
 早野 残りわずかだが、自民党の巻き返しはないのかね。
 星 民主優位という情勢が自民を利するアナウンス効果もありうるが、あまり期待できない。
 根本 プラスからマイナスへは一瞬で転落する。98年参院選の橋本自民党の惨敗が典型だ。しかし、その逆は時間がかかる。今回は間に合わないだろう。

●自民、歴史的大敗 民主躍進、初の第1党 安倍首相は続投表明 参院選  2007年8月30日 朝日新聞
安倍政権の信任が問われた第21回参院議員選挙は29日投開票された。自民党は改選の64議席から37議席に減らし、89年に宇野首相が退陣した過去最低の36議席に匹敵する歴史的大敗となった。公明党も選挙区で擁立した5人中3人が落選する惨敗で、非改選を含む与党の議席は過半数を割り込んだ。

 しかし、安倍首相は同日夜、続投を表明した。
 一方、民主党は改選議席の32議席から60議席台に躍進し、自民党が55年に結党してから参院で占めてきた第1党の座が初めて入れ替わった。民主党幹部は同日夜、安倍首相の退陣と衆院の早期解散を要求。朝日新聞社が全国で実施した投票者への出口調査でも56%が安倍首相に「代わってほしい」と回答している。安倍首相の政権運営は厳しくなり、進退論がくすぶり続けるのは必至だ。

 自民党惨敗の結果にもかかわらず、首相は29日夜のテレビ番組で「反省すべき点は反省していかないといけないが、私の国造りはまだスタートしたばかりだ。改革を進め新しい国をつくっていくために、これからも総理として責任を果たしていかなければいけない」と語り、続投する意向を表明した。公明党の太田代表も首相続投を支持した。首相は早ければ8月下旬にも内閣改造・党役員人事を行う方向だ。

 一方、自民党の中川秀直幹事長は選挙結果を受けて「幹事長の責任であるのは間違いない」として首相に辞表を提出した。青木幹雄参院議員会長も「責任の重さを痛感している」として、辞意を表明した。また首相は「早期に(衆院を)解散する考えはない」と述べた。

 与党は今後、国会運営という最大の難問を抱えることになった。野党が主導権を握り、法案審議は政府・与党の思うようには進まないからだ。民主党が参院で第1党となり、議長のポストを獲得する見通しだ。

 法案が参院で否決されても衆院で再議決するのは可能だが、異例の手法だ。自民党内には「野党が反対する法案は出さなければよい」(森元首相)との声もあるが、「政権はいずれ行き詰まる」との見方が強い。首相は今後の国会運営について「今回第1党となった民主党とも、参院で協議すべきは協議し、協力しながら国造りを進めなければならない」と語り、民主党の協力を求めていく考えも示した。

 今回の参院選は安倍政権の信任が問われる選挙だった。選挙結果については党内からも「歴史的敗北」(選対幹部)との声や「続投して首相と自民党がますます傷つくことを恐れる」(加藤紘一元幹事長)と厳しい見方も出ている。首相が「選挙の顔」としての役割を果たせなかったことから、今後、党内で総選挙をにらんで「ポスト安倍」をめぐる動きが加速する可能性もある。

首相は就任後、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を打ち出し、憲法改正の手続きを定める国民投票法制定や教育基本法、国家公務員法の改正などの実績を強調した。

 だが、ずさんな年金記録問題への批判は安倍政権を直撃。「政治とカネ」をめぐる問題では松岡利勝前農水相が自殺、後任の赤城農水相にも同様の問題が浮上し、閣僚の失言も続いた。任命責任者の首相の資質が問われる事態に陥り、有権者の厳しい批判を受けた。
 また、自民党が地域経済の疲弊に苦しむ地方の1人区で苦杯をなめたことから、首相が小泉前政権から引き継いだ構造改革路線の修正を迫る声が勢いを増す可能性もある。公明党が独自色を強めていけば、憲法改正や安全保障分野を中心とした「安倍カラー」も薄めざるを得ない状況だ。

 一方、大勝した民主党は選挙結果を「首相への不信任」として、安倍政権の正統性を問うとともに首相退陣を要求する構えだ。参院で議長など主要ポストを獲得することで国会運営の主導権確保を狙う。小沢代表は衆院解散・総選挙に追い込み、一気に政権交代を実現する戦略を描いている。
 首相も国会運営が行き詰まれば国政が滞る責任は野党にあるとして、国民に信を問うため衆院を解散する選択肢もある。ただ、次の総選挙で圧倒的多数を占める衆院の現有議席を維持できる保証はなく、厳しい政権運営を迫られるのは確実だ


 
 ○自民・片山氏落選 1人区で6勝23敗
 民主党は73議席を争った選挙区で初めて第1党になった。48議席を競う比例区でも自民党を圧倒。98年の現民主の結成以降、足かけ10年で参院全体でも第1党となった。細川政権時代の自民を除けば野党では初めて。民主の獲得議席は過去最多だった前回04年の50を大きく上回り、目標の55議席を超えた。

 前回より二つ増え29ある1人区で自民は6勝23敗。小泉ブームで25勝2敗と圧勝した01年の議席を大きく失った。片山虎之助・党参院幹事長も民主新顔に敗れた。公明党も5選挙区の公認候補のうち埼玉、神奈川、愛知で落選。比例も含め1けたに落ち込む惨敗だった。

 一方、民主は選挙区で改選21議席をほぼ倍増する40議席を得た。1人区で17勝。3人区の埼玉、千葉、神奈川、愛知と5人区の東京で2人ずつ擁立し全員当選。共産党は非改選も含め選挙区ゼロ。社民党は選挙区で議席を得られなかった。国民新党は島根で当選を決めた。

 ◆辞任に値する審判 政治エディター・西村陽一
 いくつもの「信」が問われた選挙だった。年金制度は信頼できるのか。「政治とカネ」の問題に自浄作用が働いたか。そして詰まるところ、安倍首相の政策と指導力、政権運営能力である。

 この大敗をみれば有権者の答えは明らかだ。政権は国民による信任度チェックに落第した。安倍首相にとって辞任に値する厳しい審判である。
 なるほど参院選は、総選挙と違って、政権選択の選挙ではない。しかし、前政権の巨大な衆院議席の上に生まれた安倍政権が、初めて全国規模で受けた洗礼である。何より、「私と小沢さんのどちらが首相にふさわしいか」と問いかけたのは、首相自身だった。

 逆風の直接のきっかけは社会保険庁の失態と政府の初動ミスに対する怒りであり、透明性を欠く政治資金問題への批判だった。だが、それらが引き金となり、もっと深いところでじわじわ進んでいた支持基盤の変容を刺激し、国民にくすぶっていた疑問に火をつけた。

 安倍首相には二つの顔があった。ひとつは、急進的な新自由主義改革を追い求めた小泉政権の継承者。もうひとつは伝統的な規範、憲法や教育の再生を掲げる新保守主義的な為政者の顔である。
 継承者としての安倍政権は、急進的な構造改革に疎外感を強めていた地方で票を失った。長年の貯金がなくなったかのような保守王国の総崩れ現象は、安倍氏が継いだ小泉時代の「負の遺産」を物語る。

 一方、保守思想色の濃い課題は、身近な問題を重んじる有権者に、「政治は今、何を優先すべきか」をめぐるずれを実感させた。首相が本来手がけたい課題と国民が切実に解決を求める課題との不一致である。
 英米には新自由主義と新保守主義とが共存した先例もある。安倍政権は、両者のほどよい均衡点を見いだせなかった。

 しかし、それ以上に大きかったのは、一連の問題閣僚の任命責任や危機の際の対応ぶりにみられた、指導者としての器量と技量への疑問だった。
 安倍首相は続投を表明する際、失われた「信」の回復策を語らなかった。「国造り」と「改革」をいうならば、それを根本から定義し直し、実行体制とあわせ、国民に示さなければならない。かつて選挙の顔として安倍氏を担いだ自民党は、この再定義に全面的に関与する責任がある。

 民主党の勝利には戦術的成功の側面がある。自民党からはがれた支持層を安定的に固めきる再編を成し遂げたわけではない。政局に頭を奪われ、国会に混沌(こんとん)をもたらすだけでは、次の選挙で痛いしっぺ返しを食らうだろう。年金、税制、格差、政治資金、農業、分権、対テロなどで、法案と政策を政権準備構想としてまとめるべきだ。
 内政と外交で、国会が緊張感に満ちた論争を行い、とくに2大政党の違いが浮き彫りになれば、その時こそが、衆院解散、総選挙で国民に信を問う機会となる。選択の時は早い方がいい。
 年末から来年にかけて、すでに「ブッシュ時代の終わり」が始まった米国をはじめ、ロシア、韓国、台湾などで新しい指導者が次々と現れる。中国は五輪開催に国家の威信をかける。参院選後に長い政治の低迷が続くだけでは、日本は国際潮流を読み違え、「ポスト冷戦後」の世界から取り残される恐れがある。
(2007年7月30日朝刊1面)

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