●特集 安倍内閣の支持率下落 危険水域?
NHK 7月27日 21時27分
森友問題、加計問題、そして陸上自衛隊の日報問題などと相次ぐ中で、安倍内閣の支持率は各種世論調査で急激に下落しました。なかには支持率が30%を切るところもあり、永田町では「安倍内閣は危険水域に入った」という指摘も出ています。第2次安倍内閣発足後に政治部に着任し、「安倍1強」と言われる政治情勢の中で政治取材を本格的に始めた記者が過去20年の内閣支持率の推移を検証し、「危険水域」がどこにあるのかを探ります。(政治部 古垣弘人)
20年分の内閣支持率を分析
今月、NHKの世論調査で安倍内閣を「支持する」と答えた人は35%と前の月の調査よりも13ポイント下落し、「支持しない」と答えた人の48%を13ポイントも下回りました。
私が5年を過ごした京都放送局から政治部に異動し、官邸クラブに配属されたおととし8月以降では内閣支持率がこのように落ち込むのは初めてのことで、私はこの先どうなっていく可能性があるのか知りたいと思いました。
そもそも内閣支持率とはどのように調べられているのか。NHKでは1998年から内閣を支持しない人の割合である不支持率や各政党の支持率とあわせて調査を行っています。今は全国の18歳以上の男女を対象に無作為に発生させた電話番号に電話をかける「RDD方式」という手法を用いて調査しています。
ことし4月から携帯電話も対象に加えるなど、これまでに調査方法が2度変更されていますので、従来と現在の結果を単純に比較はできません。
ただ、過去の内閣を見比べて検討を行えば、今の安倍内閣が今後どうなっていく可能性があるのか見通す一助になるのではないか。私は今回、NHKが内閣発足の当初から支持率を記録している小渕内閣以降の過去20年分を分析してみることにしました。
まずはこの間の10の内閣の全体傾向を把握したいと思います。在任期間と平均支持率、それに支持率の最高値と最低値、発足直後と交代直前の支持率を表にまとめました。
全体として支持率は政権発足直後が高く、交代直前に向かうにつれ、下がっていくのが基本的な傾向となっています。
平均支持率を見てみますと、最も高いのが小泉内閣の54.5%、最も低いのが森内閣の21.8%です。今の安倍政権のこれまでの平均支持率は小泉内閣に次いで2番目の高さとなっています。
また過去最高の支持率は小泉政権が発足後2回目となる2001年6月の調査で記録した85%、最低の支持率は森内閣が交代直前の2001年4月に記録した7%となっています。
一方、最高支持率と最低支持率の差である支持率の変化の幅の大きさが最も大きかったのは鳩山内閣の51ポイントとなっています。今の安倍内閣はこの数字が31ポイントと現時点では過去最も小さくなっており、比較的高い支持率で安定してきたことを示しています。
盤石だった安倍内閣支持率
それでは今の安倍内閣の支持率はどんな変遷をたどってきたのでしょうか。
これまでの支持率と不支持率の推移をグラフにまとめてみました。
第2次安倍政権の発足当時の支持率は64%。前の野田民主党政権の末期の3倍以上を記録しました。そして支持率は60%前後の比較的高い水準をおよそ1年にわたって維持します。
支持率はこのあと何度か落ち込むことがありました。たとえば2013年12月や2015年7月です。これらの背景には特定秘密保護法や安全保障関連法制の整備があったと見られますが、いずれも支持率はすぐに回復しています。
そしてことし2月にはトランプ大統領との初めての日米首脳会談での成果などが評価され、58%に達するなど、支持率はおおむね40%から60%の間の比較的高い水準で推移してきました。
これについて世論調査を見ると安倍政権が「経済再生」を前面に打ち出し、有効求人倍率など各種の経済指標が改善したことなどが理由としてあげられると思います。
春からの異変
盤石だと思われていた今の安倍内閣の支持率の潮目が変わり始めたのはことし春でした。ことしの支持率の推移を抜粋したのが下のグラフです。
ことし3月、支持率が前の月よりも7ポイント低下しました。この時は大阪・豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に鑑定価格より低く売却されていたことについての政府の説明に納得できないという声が広がったことが背景にあると分析されます。
そして、これまでであればいったん支持率が下がってもすぐに持ち直してきましたが、今回は少し違いました。4月の調査では支持率の回復は微増にとどまり、その後は5月、6月と支持率は続落。そして今月、支持率は第2次安倍政権発足以降、最低の水準まで下がりました。
不支持率が支持率を上回る状態となったのは第2次安倍内閣発足後、3回目のことです。今回の支持率の下落には獣医学部新設をめぐる一連の議論や、東京都議会議員選挙の応援で「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」と呼びかけた稲田防衛大臣の発言などが影響した可能性があると分析されています。
“危険水域”に入った?
今の安倍内閣の支持率について「危険水域に入った」と言われることがあります。この「危険水域」とは一般的に内閣支持率が30%を切った状態のことを指すとされ、政権運営が不安定になると言われています。
一部の報道機関の今月の調査で支持率が29%台などとなったため、こうした論調になっているのです。
では30%を下回るのはどれくらい「危険」なことなのか。過去の内閣が30%を切る支持率を記録したあと、次の内閣へ交代するまでどれくらいの期間、政権を維持したか調べてみることにしました。
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過去20年で30%を切ったことがある7つの内閣のうち、鳩山内閣は21%を2010年5月9日に終えた調査で記録したあと、30日で交代しています。
一方、小渕内閣は1998年9月の調査で23%の支持率を記録しますが、その後、脳梗塞で倒れて交代するまで577日と1年7か月にわたり、内閣を維持しているほか、森内閣も30%を初めて切ったあとも1年近く内閣が継続しています。
この分析からは言えるのは「支持率が30%を割り込んだからといって、必ずしも早期退陣となるとは限らない」ということです。
一方、支持率が20%を切った場合はどうなるかについても調べてみました。
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支持率が20%を切ったことがあるのは森内閣、麻生内閣、民主党政権である菅内閣の3つです。
このうち菅内閣は2011年7月の調査で16%を記録したあと、内閣は2か月ももちませんでした。また麻生内閣では7か月、森内閣では10か月と、いずれも20%を切ってから1年以内に内閣が交代しています。
サンプルは少ないものの、20%未満の支持率を記録すると、その内閣は1年以内に交代する可能性が高まるということが言えるかもしれません。ただいずれにせよ、今月の35%という支持率の数字だけをもって、安倍内閣の交代の可能性が高まったとは言い切れないと見られます。
“青木の法則″を検証
一方、永田町では「青木の法則」と呼ばれる仮説があります。自民党の青木幹雄元参議院議員会長が提唱したとされる法則で「内閣支持率と与党第一党の支持率の合計が50%を下回った場合に政権が倒れる」というものです。
この法則についても過去のデータをもとに検証してみました。内閣支持率と与党第一党の支持率の合計を仮に「青木率」とし、その数字が一定の水準未満になったあと、内閣の交代までどのくらいの期間、政権が維持されたか調べたのが下の表です。
いわゆる「青木率」が50を切ったことのある7の内閣のうち、鳩山内閣は1か月足らずで交代していますが、小渕内閣は577日と1年半以上内閣が継続し、民主党政権である野田内閣は内閣交代まで1年近くの期間がありました。このデータからは50を切るとすぐに退陣などとは必ずしも言えなさそうです。
一方、45をいったん切った6つの政権のうち5つが7か月以内に退陣しているほか、40を切った4つの政権は麻生内閣で10日しかもたないなど、長くて2か月余りしかもっていません。
この結果から、いわゆる「青木率」が40を切ると3か月以内に交代する可能性が高いと言えそうです。
では安倍政権の「青木率」はどうなっているでしょうか。
ことしに入ってからの安倍内閣では「青木率」も3月ごろから減少傾向で、今月には前の月より20ポイント近く減ってます。ただ、それでも65.7と、40まではまだ余裕があります。
したがって安倍内閣は今月の時点で、今後3か月以内、すなわち10月までの退陣の可能性が高まっているとは言えないと、この数字からは分析されます。ただ、このままのペースで減少していくとすれば、どこかで40を切ってしまう可能性もあります。今後の政権の行方を探るにあたって、この「青木率」に注目していく必要がありそうです。
内閣改造は政権浮揚につながる?
・・・(略)・・・
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