(Entry 158~161/365) OLYMPUS PEN Lite E-PL1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm f3.5-5.6 L
”急に四圍が暗くなり、雨がぱらつき出した。一ヶ月三十日は雨だと聞いたが、陰氣な雨であつた。”
(林芙美子、屋久島紀行より)
林芙美子の小説『浮雲』は、主人公の愛人ゆき子と富岡が屋久島に流れ、そこでゆき子が死んで終わる。
内容は男と女の情念がもうもうと立ち上る展開だ。・・・山あり谷ありの人生の旅。
戦時中、仏印のダラット(ベトナムの高原の町)で蜜月の時をすごした富岡とゆき子は焼土の東京で再会。
妻と別れて君を待っているとの言葉を信じたゆき子だが、富岡の仕事はうまくいかず、妻や家庭、さらには2人の関係も疎ましくなっていく。
ゆき子はいつまでたっても態度をはっきりさせようとしない富岡とずるずると逢瀬(おうせ)を重ねる。そして、情死を考えた温泉旅行。妊娠、堕胎。
芙美子は、戦時中、従軍記者としてペンを振るった。戦意高揚のために記事を書いたのだ。
・・・戦争に勝てる
気持ちはどうあれ、そう書かざるを得なかったのだろう。
林芙美子が屋久島を訪れたのは4月。”陰氣な雨”に包まれた自然の中に暮らす人々を見て、彼女はなにかをふっきったに違いない。
そう、屋久島で唐突に思えるゆき子の死は、彼女自身の従軍記者としての過去との決別だったのかもしれない。
しのつく雨。屋久島。
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