こんな本が出ました。まだ読んではいません、これからです。
はじめに
「うつ病は心の風邪」という心の専門家からの提言が、いろいろな報道機関から盛んに強調されるようになって久しく日々が過ぎています。
このことは、日本人特有の精神疾患に対する差別や偏見が、一定程度減少するという結果をもたらし、不幸にしてうつ病にかかった人たちは、周りの人たちに気兼ねすることも隠す必要もなく、心療内科や精神科を受診できるという良い状況をつくりだしました。これは、うつ病を病む人たちにとっては、早いうちに専門医療機関を訪れることが出来るようになったということであり、実に感謝すべきことです。
これは、治療を担当する人たちにとっても、今までは「癌の告知」でも行うかのように気遣いながら説明を行っていたのですが、最近では比較的に気遣わずに済むことが出来るようになっています。そして、患者さん自身が、時には前もってネットなどで調べてこられるため、理解されやすくなってきています。これを裏づけるために統計を取ってみましたが、この10年間でうつ病と診断される患者さんが激増していると言っても言いすぎではありません。
このような状況は、うつ病という疾患がきわめて一般的な疾患であり、誰でもかかりうることが理解されてきたかと思われています。
しかし、地域の精神医療に貢献されている藤田静代医師((脚注1))が、「医療従事者ほど精神疾患に対する偏見差別意識が著しい」と言われるように、うつ病を「心の風邪」として受けとめることが出来ない医師、特に産業医と言われる医師たち、さらには会社管理者たちが増加しているのも現実的な問題です。
ところで、米国の医学雑誌では、本邦でSSRI((脚注2))が認可された当時、これは10年以上も前になりますが、「米国の医師たちはSSRIに頼りすぎた。もっと患者の心に目を向けるべきである」という論評が掲載され、うつ病患者にとっては「人生をも変える革命的な薬剤」と言われ、「うつ病と診断されればSSRIの処方」という決まり文句になっていた時代を、すでに反省するようになっています。
さらに、この雑誌には「心の病である『うつ病』を先端医療機器で診断・治療することが、かえって、心にアプローチする機会を逸してしまっていた」とも書かれてあります。しかし、このような反省も束の間であり、SSRIの処方は一般の内科医へ移ってしまい、専門医と称する医者たちは彼らのアイデンティティを守るため、こともあろうに「電気ケイレン療法((脚注3))」(ECT)に治療法を転換していったのです。
「アメリカがクシャミをすれば、日本は風邪を引く」との言い伝えの通り、この療法は本邦でも若い医者の間では、盛んに行われるようになっています。そして、心の病であるはずのうつ病に、心のケアを行う医者さえ激減しているのが現実です。心のケアなど、何年も指導医について学ばなければならないばかりか、自らの心の中まで明らかにする必要のある治療法ですが、これらはもはや、面倒になってしまったということでしょうか。今日、「修得や修行」という言葉も死語となってしまっています。これを如実に表すのが、今日のうつ病への関わり方ではないでしょうか。
しかし、ここで驚いていては、日本では生きていけません。「人間とは、心を持つ存在である」と信じているのは、著者のような古臭い老いた田舎医者だけかもしれません。
それが証拠に、今年初めの国営放送局の番組(NHKスペシャル)でも、「うつ病は脳の機能障害である」として、「診断には先端医療機器を使い」、「治療にも先端治療機器を使う」のが、「最も新しい医学・医療である」として、人を人として扱わないような番組を流すまでに至っているのです。
国営放送局が、「視聴者を人間として見ない番組」を制作するのには、これすなわち国家・政府が、もとより「庶民は人間ではない」と考えているのでしょうから、実によく納得できるのです。国営放送局が、「うつ病になる人間なんかは、自転車を直すより簡単で頭に磁気を通してやれば、すぐに治る単純な生きものである」というキャンペーンをしても、不思議なことではないでしょう。税金を使って「うつ病診断器」や「うつ病治療器」を作ることも、理にかなうことではないでしょうか。国営放送局は、立派に政府の言い難いことを代弁しているのです。
この状況の中、爆発的に増加する日本のうつ病患者への取り組みに関しては、一方では行政が建前上、「自殺防止」を強調するだけであり、他方では精神療法・心理療法の存在や必要性さえ知らない無知な医師が次々と誕生し、SSRIの処方やECTの施行に専念しているのが現実になってしまっています。
ここで、当然一つの疑問が出てきます。「果たして日本では、うつ病患者をちゃんとした人間として診て、ちゃんとした治療ができるのか」ということです。残念なことに、一般の人たちの間では、〝善悪の区別のつかない〟状態に陥っておられる精神障害者の人たちと、ちゃんと〝善悪の区別のつく〟うつ病の人たちとの違いを理解している人は、未だに少ないようです。また、ストレスによる身体疾患である、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・狭心症・心筋梗塞などの心身症と精神障害との違いも、十分には理解されていないようです。
不思議なことに、このような傾向は、知的に高度な教育を受けた人ほど著しいという矛盾となって現れているようです。藤田医師の主張が、さらに現実味を帯びてきているのではないでしょうか。要するに日本は、政府を先頭にして精神障害対策に関しては、まったくの発達途上国であるといえましょう。
このような点を十分に理解した上で、私が地域医療で日常的に経験したケースを紹介する中で、本邦の「うつ病対策」を少しでも改善できればと願いつつ、筆を執った次第です。
著者は、「人間は脳の電気機能で動いている」という、政府・国営放送局とは異なった人間学的な立場から、「人間としてのうつ病対策」に取り組んできましたし、これからも同じように取り組んでいくつもりでおります。
(脚注1 元名古屋大学講師を経て、豊橋市民病院副院長・神経科部長兼任フジタ神経科開業。精神疾患の地域医療に貢献。精神科医・医療従事者が最も精神疾患への偏見差別が著しいところに着目。この是正に貢献。)
(脚注2 Serotonin Selective Reuptake Inhibitor[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]の略であり、うつ病はもとより他のいくつかの精神神経疾患にも効果があり、副作用・毒性の少ないことにより、欧米では三・四環系抗うつ薬に取って代わった薬剤である。)
(脚注3 電気ケイレン療法[ECT]とは、従来は「電気ショック療法」[EST]と呼ばれ、100ボルト~130ボルトの電流を額に当てた二つの電極から通電する治療法であり、あまりにも非人間的であるとして、いかなる抗うつ剤でも無効の患者にのみ施行が許されていた治療法である。なぜなら、このESTで行われる患者は、麻酔をかけられ、額に通電されると同時に全身の筋肉が硬直し、その後、ケイレンを繰り返すのである。その間、全身の「穴」から、出るだけの物が排出される。涙、青バナ、吐物、糞尿などを排出し垂れ流すため、一度見たら忘れることが出来ない光景となる。
なお、このECT[電気ケイレン療法]とは、もとをただせば電気ショック療法[EST]と命名され、精神・神経に有効な薬剤のなかった時代に発案された技法である。当初は、特に統合失調症などの精神疾患に行われていた。しかし、向精神薬の発見に伴い、使用目的が変遷し、精神病院職員が精神病者の上に君臨するための道具として使われるようになった。1960年代から70年代にかけては、患者への脅迫や罰則のために、麻酔を行わないで施行されていたため、患者にとっては「恐怖の道具」として受けとめられていた。今日まで難治性うつ病にのみ施行を許されてきたが、実際の有効性については、未だ疑問の多い療法である。)
著者
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目 次
はじめに
第1章 うつ病とはどのような病気か?
第2章 地域の精神医療で経験する多様なうつ病
――「心の風邪」のうつ病は誰でもかかる病
第3章 企業はどんなうつ病対策を行っているのか?
第4章 精神療法が出来る医者は「心の名医」
――「うつ」にはその人の人生が積み上げられている!
第5章 精神科・心療内科の選び方
――薬物療法だけの精神科医にはかかるな!
第6章 うつ病は必ず治ります!
――専門医が教える「うつ」の予防と対策
おわりに
補 章 子供のうつ病
押してくださると、かわいが舞い上がります。沈みません…