19日(日)。昨日の日経朝刊の別刷り「日経プラス」の連載「当世ふところ事情」に「映画やコンサート、年いくら使う?」という調査結果が載っていました これは全国の成人既婚男女を対象にインターネットで実施し、有効回答は618人だったとのことです
調査結果によると、「5,000円未満」が最も多く35%、「5,000円以上10,000円未満」を合わせて10,000円未満が51%と過半数を占めています。10,000円以上と20,000円以上が各8%で、残りの33%が何と「映画やコンサートには行かない」とのことです。言い換えれば、映画やコンサートにまったく行かない人を含めて年間10,000円未満しかお金を使わない人が84%にも達するということです。文化にお金を使わない人が余りにも多いことに愕然とします
私の場合はどうなのか、大雑把に計算してみました。クラシック・コンサートには年間約160回行きますが、そのうち60回弱がオーケストラ等の定期コンサートです ①東響サントリーシリーズ、②同オペラシティシリーズ、③同名曲シリーズ、④新日本フィル・トりフォニーシリーズ、⑤同室内楽シリーズ、⑥バッハ・コレギウム・ジャパン、⑦新国立オペラの各年会費が合計で455,000円、それ以外の100回分が単発で購入するコンサートです
こちらの方は3,000円程度の室内楽もあれば数万円のオペラもあるので簡単には合計できません
これまでに行ったコンサートのチケットはすべて保管してあるので、計算すれば昨年1年間の合計金額は出るのですが、面倒くさいので止めときます
映画は年間60~70本見ますが、通常の映画の@1,000円からオペラ映画の@3,500円まで、これもまちまちです。コンサートに比べれば安いもので合計10万円まではいかないと思います
もっとも私の場合は、コンサートや映画には惜しげない投資する一方で、着る物には無頓着で、ほとんど6年も7年も前から着ているスーツやシャツを今でも身につけています まあ、体型がほとんど変わらないから可能なのだと思いますが
ワイシャツはクリーニングには出さず、毎週土曜日に自分でアイロンをかけています。これは経済的なメリットがあるだけでなく、いい運動になるのです
一度しかない人生です。もう少し”生の文化”に接する機会を持った方が心が豊かになると思うのですが、いかがでしょうか
閑話休題
昨日、文京シビックホールで東京フィルの「響きの森クラシック・シリーズ」演奏会を聴きました プログラムは①ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」、②マスネ「タイスの冥想曲」ほか、③ラヴェル「ボレロ」。指揮は東京シティ・フィルの音楽監督、宮本文昭。②のヴァイオリン独奏は前橋汀子です
このシリーズのコンマスは、いつもは三浦章宏ですが、この日は珍しくソロ・コンサートマスターの荒井英治の登場です ドイツのオケで首席オーボエを長年務めてきた宮本文昭ですが、2012年4月から東京シティ・フィルの音楽監督に就任するなど、本格的な指揮者活動を展開しています
宮本はタクトを持たず、胸のポケットに赤いチーフを覗かせての登場です ”カッコいい”、別の言葉で言うと”キザ”です。別にいいんですけど
1曲目のムソルグスキー「展覧会の絵」は、もともとピアノ独奏曲ですが、ラヴェルがオーケストラ版に編曲して、圧倒的な輝きに満ちた曲に変貌を遂げました ムソルグスキーが1874年に画家で建築家のヴィクトル・ハルトマンの遺作展を見て大きな感銘を受け、絵の印象に基づく音楽を作ろうと決心し、同年6月にピアノ組曲「展覧会の絵」を完成しました
その後、指揮者クーセヴィツキーの依頼によって1922年にラヴェルがオーケストラ編曲版を完成し、この曲を世界的な人気曲に押し上げたのです
宮本の指揮は、身体全体を使って音楽を表現する動きの激しい指揮です 一度足の位置を決めたら曲が終わるまで1センチも動かさない都響の小泉和裕とは対極の位置にあります
古くは山田一雄に遡る”踊る指揮者”の系譜を継ぐ何代目かの指揮者と言えるかもしれません
指揮しながらバレエを踊る井上道義といい勝負かも。指揮をしながらメロディーを口ずさむのは小林研一郎の系譜か
”絵と絵の間”はプロムナードで繋ぎますが、宮本は間を置かずすぐに次の曲に移っていました。これは非常によかったと思います 指揮者によっては、たっぷり時間を置いて次の”絵”に移る人もいますが、私は宮本スタイルの方がスッキリしていていいと思います
東京フィルは荒井コンマスのリードで、踊る指揮によく応えていました とくにこの曲は管楽器が大活躍しますが、期待を違わない迫力ある演奏を繰り広げました
宮本は管楽器のソリスト達を立たせて、さらに管楽器、弦楽器、打楽器をセクションごとに立たせて聴衆の拍手を求めていました。これを見て私は”炎のコバケン”の後継者か、と思いました ちょっとしつこいです。何事もほどほどにしないと聴衆は呆れます
休憩後の前半は、昨年演奏活動50周年を迎えたヴァイオリニスト、前橋汀子をソリストに①エルガー「愛の挨拶」、②マスネ「タイスの冥想曲」、③ベートーヴェン「ロマンス第2番」、④サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」が演奏されました
レモン・イエローのロングドレスに身を包まれた前橋汀子が名器グァルネリウス・デル・ジェスを手に颯爽と登場します
最初の2曲は、最初のうちは第1ヴァイオリンが演奏を休止しています。これは楽譜通りなのか、同じヴァイオリン同士でソリストの音を消さないためなのかはっきり分かりません しかし、3曲目以降は最初から第1ヴァイオリンが出てきたので、楽譜通りなのかもしれません
前橋汀子が本当に弾きたかったのは「ツィゴイネルワイゼン」です。思い入れたぷっぷりに弾きます 彼女の演奏を聴いていて、矢代亜紀の演歌を思い出しました
こぶしを効かせた歌い回しに近い表現に思われました
3部構成の曲ですが、第1部の終了後、1階席後方で拍手が起きました。これを宮本が振り返らず、手で制して第2部に移りました。フィナーレはソリストとオケが一体となって圧倒的な迫力で締めました
会場一杯の拍手 に気を良くした前橋は、クライスラーの「愛の喜び」を喜びに満ちて演奏しました
何回も舞台に呼び戻され、最後に退場する際、舞台袖で会場に一礼して引き揚げました。今の若手のソリストにこれほど礼儀正しい演奏家がいるでしょうか
さて、管楽器を中心にメンバーが追加され、最後はラヴェルの「ボレロ」です。小太鼓が指揮者の真ん前にスタンバイします ラヴェルの言う「スペイン=アラビア風」の2つの主題が169回繰り返される、たったそれだけの曲ですが、主役の楽器を変えて引き継いでいき、クレッシェンドでだんだん大きくなっていきます
終盤には中央の小太鼓のほかに、管楽器群の後ろにスタンバイしたもう1台の小太鼓が大きなリズムを刻み始め、中央の小太鼓を凌駕します
最後は、いきなりのどんでん返しです。これによって、会場は興奮の坩堝と化し、拍手
とブラボーの嵐となります
宮本はセンターの小太鼓奏者を指揮台の前まで引っ張ってきて、聴衆の拍手を求めました 最初から最後まで一貫して演奏しているのはこの男性小太鼓奏者だけですから、ボレロの主役と言ってもいいかもしれません。決して”ドラムすこ”ではありません
この日のコンサートは踊る指揮者・宮本文昭が前面に出た華やかな公演でした。たまにはこういうコンサートもいいものだと思います