26日(日)。昨日、初台の新国立劇場でヴェルディのオペラ「ナブッコ」を観ました キャストは、ナブッコにルチオ・ガッロ、アビガイッレにマリアンネ・コルネッティ、ザッカ―リアにコンスタンティン・ゴル二―、イズマエ―レに樋口達哉、フェネ―ナに谷口睦美、アンナに安藤赴美子、アブダッロに内山信吾、ベルの祭司長に妻屋秀和ほか。パオロ・カリニャー二指揮東京フィル、演出はグラハム・ヴィックです
”あらすじ”は以下のとおりです
「バビロニア王ナブッコはイェルサレムを侵略しようとしている。ナブッコにはアビガイッレとフェネ―ナという2人の娘がいるが、アビガイッレはナブっコが奴隷に産ませた娘だった イェルサレムの大祭司ザッカ―リアはフェネ―ナを人質にとっていたが、フェネ―ナを愛するイェルサレム王の甥イズマエ―レにより解放され、バビロニアは勝利を収める 自ら神と宣言したナブッコは稲妻に打たれて気を失い、王座をアビガイッレに奪われる。アビガイッレは父ナブッコを幽閉しヘブライ人とフェネ―ナの処刑を命じる正気を取り戻したナブッコはヘブライの神に許しを請い、フェネ―ナを救出しヘブライ人を解放する。アビガイッレは許しを求めながら自害する」
私はプルミエ会員なので本来なら5月19日の初日公演を聴くはずでしたが、東響オペラシティシリーズの定期公演と重なったため、チケット振替サービスを利用してこの日に観ることになったのです いつもと違って席は1階10列24番、舞台正面の一番良い席です。が、通路側でなく奥の真ん中なのであまり好きではありません。まあ贅沢は言えませんが
会場に入る前、いつものようにホワイエの端でプログラムを読んでいると、誰かに「こんにちわ」と声を掛けられました 同じ職場の同僚A女史でした。女友だち同士3人で観に来たとのことです。Aさんが私を「上司です」と紹介してくれました。Bさん「この公演は演出があまり評判良くないみたいですね」、Aさん「私はこのオペラが好きなので来ました」、私「指揮者は良いようですよ」といった会話がありました。それにしても”演出の評判が良くない”ということは、時代設定や場所の設定をヴェルディの想定とはまったく違ったものにしたり、舞台づくりを抽象化しているということ。一瞬不安が頭をよぎりました
いつもは開演5分前に席に着くのですが、通路から遠い奥の席なので10分前に会場に入りました と、まるでどこかのデパートの店内に間違えて紛れ込んだような錯覚に陥りました 舞台右には2階へ通じるエスカレーターがあり、さらに3階にも上がっていくように作られています(動きません)。登場人物は歩いて”エスカレーター階段”を上がり下りします。正面には有名なブティックをもじった名前のコーナーがいくつか並んでいて、お客らしき人々はケータイで話をしたり、隣の人と会話をしたりしています。嫌な予感の正体はこれでした
そうした不安を一瞬吹き飛ばしたのがパオロ・カリニャー二指揮による「序曲」です 引き締まった力強い音楽づくりで聴衆の心を鷲づかみします
しかし、原色のジャケットやツナギ服で登場する登場人物を見ていると、これはロック・オペラか とツッコミを入れたくなります。犯人、もとい、演出のグラハム・ヴィックがプログラムに今回の演出の意図を書いています 要約すると、
「ナブッコでは絶大な唯一神の存在が前提になっているが、東京で上演するにあたって、それをどう理解してもらうかを考えた。そこで、”神”の代わりに”自然”を絶大な力として設定した。ナブッコが自分は神だと宣言したとき、神は自然現象たる雷でその意志を露わにし、ナブッコを含めた全員を支配下に置いていることを証明する ところで、21世紀の現在、人々はどんな時に神にそっぽを向かれるのか。私は”人間がショッピングに走る時”と感じている。物欲にまみれ、所有欲を露わにする現代人の有様は神の偉大さを忘れた古代人に通じると思う 今回の舞台では、大神殿を巨大ショッピングセンターに置き換えることで、自然と分断される人間の姿を投影させた」
意図は分かりますが、ちょっとムリがあるような気がします ショッピングセンターに次から次へと登場する人物は、いったい誰が誰なのか、少なくとも最初のうちは、分かりません ナブッコはロック・スターだし、アビガイッレはゴスペル・シンガーだし、フェネーナは仲間由紀恵だし・・・・・・
まあ、演出はともかく、歌手陣は粒がそろっていました ナブッコ役のルチオ・ガッロは頼もしいバリトンだし、アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティは声の良く通るメゾソプラノだし、ザッカリーア役のコンスタンティン・ゴルニーは底力のあるバスだし、それに日本人の歌手ではイズマエーレ役の樋口達哉が頑張ってました そして忘れてはならないのが新国立劇場合唱団のコーラスです。とくに第3幕で歌われるイタリア第2の国歌とも言われる”ゆけ、わが想いよ黄金の翼にのって”は感動的で、拍手がしばらく鳴り止みませんでした
今回の公演の最大の立役者は指揮者のカリニャー二ではないかと思います 新国立劇場初登場ですが、世界中のオペラ劇場でタクトを振っています。キビキビとした気持ちの良い指揮で、東京フィルをグングン引っ張っていきました