24日(金)。昨夕、上野の東京藝大奏楽堂で東京藝大学生オーケストラの第48回定期公演を聴きました プログラムは①リヒャルト・シュトラウス「メタモルフォーゼン」、②同「英雄の生涯」で、指揮は尾高忠明です
全自由席のため開場時間の6時半には、すでに長蛇の列ができています それでも1階25列13番のセンターブロック通路側席が取れました。会場は7~8割方埋まっている感じです。学生オーケストラのコンサートだけに、ヴァイオリンを背中に背負った学生の姿がちらほらと見受けられます 2階左右のバルコニー席には黒装束の女子学生グループが陣取っています。あれは何だ
1曲目のリヒャルト・シュトラウス「メタモルフォーゼン」は、1945年3月に総譜に取りかかりましたが、その日はウィーン国立歌劇場が連合国軍の爆撃を受けた翌日のことでした。つまりこの曲は、戦争によって破壊されたドイツの古き良き伝統・文化への弔歌とも言えます
この曲は23人の弦楽器奏者によって演奏されます。コンマスは二瓶真悠(にへいまゆ)さん。この人は江副記念財団か何かのコンサートで演奏を聴いたことがあります 名前が珍しいので覚えています。23人のメンバーのうち男子学生はたったの4人です
終盤にベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の第2楽章”葬送行進曲”のメロディーが聴こえてきて、やはりこの曲は弔歌なんだな、と思い起こします
指揮の尾高忠明は演奏が終わると、23人の学生を一人一人立たせて聴衆の拍手を求めました あらためてこの曲のタイトルを確認すると「メタモルフォーゼン~23の独奏弦楽器のための習作」とありました。”独奏”弦楽器なのですね。憎い演出です
休憩後の「英雄の生涯」は34歳の作曲者が、自らの作曲家人生を振り返り、将来を見据えた大管弦楽曲です オケは23人から一気に100人規模に拡大しています 2階左右のバルコニー席を見ると、例の黒装束の女子学生グループが消えています。なるほど、彼女たちは今、舞台上にいて、これから演奏してしようとしているんだ、と気が付きました
オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、後ろにコントラバスという態勢です 弦楽器の8~9割方が女子学生です。楽器が大きくなるほど男子学生の割合が高くなる傾向にありますが、絶対数が少ないです 管楽器は男子学生の比率が比較的高いようですが、それでも女子学生が目立ちます。こうした傾向がそのままプロのオケに反映していくのでしょう
曲は、冒頭の”英雄”の勇壮なテーマから始まります。次いで”英雄の敵”である音楽評論家の登場です。「どうもリヒャルト・シュトラウスという作曲家は誇大妄想で大袈裟だ」「34歳で自分の作品を振り返るだと フン、50年早いわ」などの悪口が聞こえてくるようです。そして”英雄の伴侶”のやさしいテーマがコンマスの戸原直(とはらなお)君の独奏で奏でられます そして”戦場での英雄”がスター・ウォーズばりに演奏され、シュトラウスの過去の作品の動機が断片的に”英雄の業績”として登場し、最後は”英雄の引退と完成”が静かに奏でられます。この時のコーラングレ(イングリッシュ・ホルン)の演奏が素晴らしかったです リヒャルト・シュトラウスってあまり好きではないのですが、今回の女子学生のように吹いてくれると曲の素晴らしさが伝わってきます。この公演で一番印象に残りました
「英雄の生涯」で思い起こすのは、かのヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリン・フィルを指揮したドイツ・グラモフォンのレコード・ジャケットです。まるでレーサーのような黒のレザージャケットを着たカラヤンの自信に満ちた顔が大写しで飾られていました このレコードは、当時「これはリヒャルト・シュトラウスの『英雄の生涯』ではなく、カラヤンの『英雄の生涯』ではないか」と皮肉めいて言われたものです 多分、私はそのレコード持ってません。探すのめんどくさいから探さないけど